開催挨拶は突然に
いつも見ていただきありがとうございます。
お待たせ致しました。
「ガッハッハッ、王にはお見苦しいところをお見せしてしまいましたな」
そう言って筋肉隆々の一際体躯の大きなルビードラゴンの親方、もとい族長、アシュレイさんが、レイラさんに殴られて出来たたんこぶを摩りながら照れ臭そうに笑いました。
素晴らしい。頭蓋骨が割れそうな一撃でも平気なんて、流石は族長です。
ダンジュさんがアニキ系とすれば、こちらは安心感と懐の大きなおやっさん系です。
リオ君達の為にこの場所にいる皆様方には人化をして頂いたのですが、アシュレイさんに似合うファッションは絶対今着ている襟足の立った黒系の赤いコートではなく、頭にヘルメット、首にはタオルを巻き、白いシャツとダボダボズボンに地下足袋。うん、完璧でございます。
一人ムフムフと想像していると、横からリオ君が服を引っ張り、小さな声で、「大きなテントですね〜」と目を輝かせながら言ったのが聞こえたアシュレイさんが、笑いながらリオ君に近づき抱き上げそのまま肩に乗せ、辺りを歩き今いる場所を説明し始めました。
「ボウズはユニコーンなんだってな、じゃあ初めてだな。まぁ、今回の祭はユニコーンに人間と魔獣、初めて尽くしでいい事だ。
俺達の住処を知ってるか?普段集落の中の思い思いの場所、例えば向こうの岩山や洞窟、地底湖なんかに巣を作るんだが、ボウズみたいな外からの客人を迎える場合には、集落に作られた専用の建物に集まるんだ。つまりここだな。
だがここは大きなだけじゃないんだぞ。この中は夏は涼しく冬は暖かいんだ」
「わ〜、凄いんですね。じゃあ他の集落も一緒なんですか?」
いきなり抱き上げられ驚いていたリオ君でしたが、高い肩の上を直ぐに気に入り、大きな体のアシュレイさんにも物怖じせず笑顔で問いかけます。
「そんなわけないでしょう。好戦的なルビードラゴンと一緒にしないで頂けますか」
と、そこへアゼルさんの不機嫌を隠しもしない声が。
「第一立て直しも簡単なこの様式になったのは、些細なことで怒り狂い破壊する好戦的な性質からでしょう?
何度も破壊して要約学習したのは評価しますが、私達まで同類には扱われたくありませんね。
…コホン、我が主様。私の所は目の見張る程大きな木の中に作られており一見の価値がありますよ。ご覧になられたくはありませんか?」
ぐらり。
…思いっきり心が揺れ動かされました。アゼルさんは一体いつの間にツボを知ったのですか?因みに横にいるエメラルドドラゴンの族長が、よくやったとアイコンタクトしてません?
私のぐらついた気持ちを察知したのか次々とやれ、オニキスドラゴンは木々の間を糸のようなもので張り巡らせた、見た目は大きな蜘蛛の巣かハンモックに似ているだの、アメシストドラゴンのは楽しさいっぱいからくり屋敷だの、……忍者屋敷?
皆様、此処ぞとばかりにガクガクと揺らしてきます。
遂には、また一触即発の空気になってきましたが、また同じ事を繰り返すつもりですか?
そう、最初に出迎えてくれたアシュレイさんは、最高級のピジョンブラッドの様な真紅の鱗が傷だらけ。他の皆様方も似たり寄ったり、ボロボロでした。
争いの理由は皆さん一番先にお迎えをしたかったらしく、見目よく先頭は色のグラデーションや強さ順、年齢順などで揉めている内にいつの間にか鰯の大群の様にぐるぐる回って我先にと争っていた、と?………馬鹿ですか?馬鹿なんですね。だから来たくなかったのが分からないんですか?
参加は今回を最後にしないと下手すれば死亡者が出ます。
セシリードさん、曰く。
「……何て言うか想像通りと言うか、当たり前だけどアゼル達と一緒でブレない種族ね」と。
はぁ。帰ってお部屋に引きこもりたい。
「竜王様、どうかなされたのですか?」
ため息を吐いた私の横で、鈴のなる音の様な可愛らしい声に左を向くと、肩まであるホワホワしたローズクォーツ色の髪の女性がこちらを覗き込みながら甲斐甲斐しくお世話をして頂いております。
アイドルも真っ青なほんわか系美人さんにお世話をされている私。ふ、羨ましかろう。
本性は髪色と同色の鱗がとてもプリティなルビードラゴンのプリシラさん。何とレイラさんの幼馴染で、旦那様持ち。因みに旦那様はクリスタルドラゴンの方だとか。
何でもないと首を振る私に、気に入らないものは排除しますから、と……ん?今、不穏な言葉が聞こえた気がしましたが?
チラ見するとプリシラさんが春の花のようなふわりとした笑顔を見せてくれました。こんな可愛らしい人があんなことを言いませんね。気の所為でした。
恐れ多くも私の指をプリシラさんがお手拭きで拭いながら、こうやって我が君をお世話するのが夢でしたの、とチラリとレイラさんの方を見ながら言います。
「本来なら私が守護竜となり 我が君にお仕えするはずでしたのに。
…非力な私では力自慢の野蛮なメスには勝てませんでしたわ」
ほぅ、と顔に手を当て物憂げなお顔は世の男性達が見ればこぞって慰めに押し寄せる程の可愛らしいでございます。
「野蛮なメスってのは誰のことだい。
他のオスを押し退けて最終選考まで残ったアンタが非力?はっ、笑わせてくれるね。アンタが非力ならそこのへんの奴なんか皆非力さね。だいたい今回の我が主様のお世話係、どうやってなったんだい」
「ふふふ、我が君と同性ということで、皆様快く譲って下さったのですよ」
「快くねぇ?因みにアンタに放置された旦那が見えないようだけど?」
「ほほほ、我が君を前にそんな些細なこと。ダーリンはその辺りの草でも食べているのではありません?」
………旦那様にその扱いって。
先程の不穏な言葉、聞き間違いではなかったんですね。
皆さんで会場に向かう途中の、視線視線視線視線しせーん!
私は珍獣扱いですか?……いえ、そうではありません。忠誠が鬱陶しいのですよ。
好意は嬉しいのですが、命いつでも捧げます、捨てます的な?要りません、すっごい重たい物はご遠慮申し上げます。
暫くゆっくり見て回ろうと思っていましたがさっさとお家に帰りたいです。
会場が見渡せるような一段高い場所にある観覧席に着くと、こちらですと案内された席には絹の光沢が美しいフカフカクッションに周りを花々で飾り付けられた、ゴージャスな席。目と頭が痛くなりながらリオ君達と座ると、またもやこっち見てオーラが。
プレッシャーに負け渋々見渡せば一様にお目々キラキラ光線が。うあ〜気が重いのです。
き、緊張します、こんなに大勢の前で晒し者状態。
私の傍にいるリオ君達には不穏な視線が向けられてますが、リオ君は気づかず、セシリードさんは受け流し、ハチだけがプルプル震えていますがどうしましょう、この混沌。
私も基本小心者なので好意的な視線だろうがキリキリ胃が痛いです。
…あ、以前国王様にピンクキノコのエキスを抽出して作った“ スーパーDX〜痛いの痛いの飛んでいけ ”、と言うゴージャスな小瓶に入った胃薬を頂いたのですが、何処にしまったのか、今こそ使う時なのに。
ゴソゴソ探す私を他所にいつの間にやら壇上前に引っ張り出されていました。
薬、薬が。ま、待って下さい〜。(泣)
先ずは開会式の挨拶から。
アメシストドラゴンの族長さんに支えられ前に出てきたのは竜種の中でも一番のご長寿さんで一回り小さい身体をヨロヨロとゆっくり歩いています。
アメシストドラゴン特有の紫鱗の色もくすんだ白に近い藤色。お孫さんもひ孫どころか雲孫までいるとか、二代目竜王の時代から生きているだのいろいろと七不思議的なお噂が絶えない最長老様です。
付き添いの族長さんが遠くまで聞こえる様に風魔法を使い、そのま後ろに控えます。
最長老さんはゆったりとした動作で私の方に向き、先ずは挨拶から。
「…あ〜…、、……ヨ、メ?…」
凍りつく会場と首を傾げる私とリオ君。な、なんですか?この驚愕と殺気が入り混じった絶対零度は?…ええっと、読め、ってなんでしょう?
「…みなのしゅぅ…あつまる……いわい?………べっぴん…さんはぁ…ワシのぉ…ヨメかのぅ………?」
………はい?よめって、嫁の事ですか?
ザザザッ、ザック
「へ」
「ほあ?」
「き、消えたわ」
「ギャオス?」
消えました。一瞬で姿が消えました。
正に風と共に去りぬ…、って。ん?控えていた笑顔のアメシストドラゴンの族長さんの足元に、、その…何かの物体が……。
「あ〜、そのだな。まぁ老い先短い最長老様の戯言だ。皆気にするな」
アシュレイさんが消えた最長老様の代わりに壇上に立ち殺気立った皆様を宥めます。
そしてぐるりと会場内を見渡すと、大きく息を吸い込みながら風魔法を最大にし、第一声。
「野郎ども楽しいかぁーーっ!!」
大きな歓声が響きました。
ををっ、まるで某高校生クイズのノリは大好きです。ジャストミート。
「我らが王にいいとこ見せたいかぁーーっ!!!」
次の瞬間、地面が揺れるほどの大音量が響きました。
ひー、み、耳が〜。
何故皆さん平気なのですか。私の横ではセシリードさんが耳を押さえて蹲り、リオ君とハチに至っては目を回し倒れていました。
……わーっ!誰かヘルプです!
慌てる私を他所に尚も親方さんは翼を大きく広げながらの威勢のいい喋りは続きます。
「今回は我らが王がご出席された記念すべき祭りだ!
お前ら、平和に、敵味方を出し抜き、、いや協力し合い、紳士的に、蹂躙、もとい力を出し尽くせ!
運動会、始まりだあぁっっ!!」
え?う、運動会ですか?
料理コンテストや執事喫茶などいろいろ考えましたが、最終的に全員が参加できるもので落ち着きました。( ̄▽ ̄)




