お正月記念 SS
明けましておめでとうございます。
今年も宜しくお願いします。
「……ねぇリンちゃん。この野菜スープじゃなくて雑煮だっけ?この中に浮かぶ白い物体は何?」
セシリードはフォークを持ちながらスープの中に浮かぶ白い物体を凝視していた。
魚と鳥肉とキノコから出汁を取った茶色の濃厚なスープはサッパリとしながらもコクがあり、湯で煮てしんなりとした野菜とキノコ。魚の身を練って作ったという練り物がスープの中に入っており食欲をそそる匂いを漂わせているが、その中に浮かぶ白い物体の存在がフォークを入れるのを戸惑わせていた。
「それは餅というものだ。もち米というものを蒸した後に木で出来た杵と臼を使い粘りが出るまで叩いた後、丸めた物だ。各家庭バラバラで四角や丸型、中に餡子が入ったものもある。雑煮に欠かせない具材だな。因みに私は丸型を入れる」
「へ〜。ま、リンちゃんが出すものなら何でも食べるわよ。
いっただきま〜す」
男は度胸、とセシリードは覚悟を決めフォークを入れると野菜と一緒に先ずスープを味わう。混合スープは複雑に旨味が絡まり合いとても美味しい。
次に餅を恐る恐る口に含むと、それ自体に味はあまり感じられないが、出汁とよく絡まり合いムニョーンと伸びモチモチとした粘りが初めての食感だが悪くない。
「面白い食感で悪くないわね。……うん、美味しいわ。こっちのキノコや練り物?も美味しいし。もっと餅頂戴」
「気に入ってもらえたようで良かった。ああ、そんなにばくばく食べると餅を喉に詰まらせ、、…セシル!?だ、大丈夫か!?吐き出せ!早く!」
「…ゲボ、ゲホッ……だ、大丈夫よ。リンちゃんが背中を叩いたおかげ(所為?)で助かったわ(背骨折れそうだったけど)」
詰まらせたと言っても大きな具を飲み込んだ時のように喉の奥で軽く引っかかりそうになっただけだったのだが、リンが大慌てでセシリードの背中をバンバン叩いた。
日本では毎年の喉に餅を詰まらせ亡くなる人達もいるのでリンの慌てようも納得なのだが、セシリードでなく他の人間であれば恐らく背骨が折れて大怪我をしていたであろう。
因みにむせているのは背中の衝撃の所為だ。
「そ、そうか。…良かった…」
普段無表情に近いリンの顔がセシリードの無事にホッとした後、ふにゃんと緩んだほんわか笑顔を見た瞬間、背中の痛みも忘れ思わずその場で屈んだ。
あの顔は反則だ。顔が火照っているのは気の所為では無いだろう。
「…あ〜、反則だよなぁ。…押し倒してぇ。……いやいや信頼を勝ち取る為に頑張れ自分。ここが忍耐、勝負所だぞ。
……はぁ、年明け早々つれぇ」
「…セ、セシル?」
屈みながら何やらブツブツ言い出したセシリードに若干引きつつ声を掛けると、そのお美しいご尊顔を笑顔全開にし少し気分が悪く横になりたいので膝を貸してくれと宣った。
直ぐに膝枕をしてくれたリンにちょロッ!?と内心突っ込みを入れたのは秘密だ。
「あ〜、幸せ…コホン、だいぶ気分が良くなったわ〜」
「?それは良かった。もう少しゆっくりするといい。私も枕が無いと寝られない方だからな」
今年は新年から縁起がいい。
「ええ、そうするわ〜。
でも年初めに食べる雑煮とか面白いわね。こっちの海老とかはヒゲや腰が曲がってるから長寿祈願だったり、この小さいプチプチ卵は子孫繁栄とかだったり」
「そうだな、日本、、一部の地域で昔から食べられてきたおせち料理というものだ」
重箱に詰められた食材は珍しく目にも鮮やかだ。甘かったりしょっぱかったりするが嫌いな味では無い。
リンの膝枕を堪能しながらセシリードは手を腰に回し体を引き寄せた。上からリンの戸惑う声が聞こえてくるが今はこれで満足だ。
「今年も宜しくね、リンちゃん」
「こちらこそ宜しく、だ。セシル」
上と下で二人挨拶を交わしながら微笑み合った。
「も、もち、、ぐぅぅ」
「あ、アゼルが喉に詰まらせてる〜。馬鹿だ〜」
「助けてやらないのかい?…あ、この数の子美味しいねぇ。酒がすすむよ」
「え〜?こっちの黒豆が甘くて美味しいよ〜」
「ふむ。俺は紅白なますが美味いがな。……アゼルうるさい。さっさと元の姿に戻れ」
「…はぁはぁ。……あ、貴方達人が苦しんでいるのに目の前でパクパクとよく食べれますね」
「お前より我が主がお作りになったおせち料理の方が遥かに大事なだけだ」
「…成る程。それはそうですね。あ、その昆布巻きは私の物です!」
「あ、その伊達巻きは僕のだよ!」
「こっちの陣地はあたしのだよ!」
「…お前ら陣地協定はどうした」
カシンッ、カシンッ、カシンッ
フォークのぶつかり合う音が深夜まで響き渡った。
お正月にいきなり思い立ち書いた40分クオリティ小説。
今年は寝正月だー。




