キノコの森へは突然に (夜)
日が完全に落ち灯も無く辺りが真っ暗になりかけた時、一斉に発光したキノコ、キノコ、キノコ。
私達は息を呑み、自然が織りなす絶景をただただ圧倒されながら見ていました。
キノコは様々な色を競い合い、光で己を主張している様は圧巻の一言。
木々の幹や枝までビッシリ張り付いたキノコが発光し、クリスマスのイルミネーションの様にキラキラ光っていますし、奥には巨大な倒木の上に密集して生えているキノコの光がまるで天の川ですね。
光の強さも様々で種類や、生えたばかりのものや逆に年数が経ったものは弱く、ある程度成長したものは強く光っているようです。
眩しく、淡く、強く、弱く、仄かに、闇の中でまるで旅人達の灯火の様に。
ところで先程から頭の中で先程の夕焼け小焼けからジングルベル〜♫ がリピートで流れておりますが、誰か止めてくれないでしょうか?
「凄いな」
「本当ですねぇ。人間が作成したガイドブックに期待しちゃいなかったけど馬鹿にしたものじゃなかったですねぇ」
パラパラと本を捲りながらしみじみ呟くレイラさんでしたが、そんな本があったんですね。……レイラさん。後でそのガイドブックを読ませて下さい。
「主様〜、ハチと一緒にキノコ採ってきましたよ」
「ギャオス」
「え?君いつの間に採って来たの?」
「…出来るな」
大人五人でどれくらい惚けていたのか、いつの間にかリオ君とハチが近くのキノコを採って来てくれたようです。リュックをパンパンに膨らませながら駆け寄り私の足にしがみ付きました。
リオ君が背負っている水色のリュックはメイドのマーヤさん手作りの一品でポケットにはデフォルメされたユニコーンの刺繍入りという素晴らしい女子力が詰まったリオ君お気に入りです。
中にはキノコが所狭しと詰まっており、黄色と黒のストライプ模様(危険そう)のキノコや稲妻模様(痺れそう)や赤く点滅している(カラータイマー?)ものなど初めて見るものばかりでした。
「こんなに沢山、大変だっただろう。ありがとう」
リオ君とハチの頭を撫でればウットリと細めた瞳は喜びに溢れています。
…後ろ!睨まない!歯軋り厳禁!
「主様、ハチは凄いです。食べられるキノコを見分けられるんですよ」
「ギ、ギャオ〜〜ス」
リオ君の称賛に前足で顔を隠すハチですが照れてる?照れていますか?
しかし食用を見分けられるとは凄いですね。足元にあったチェック柄が可愛らしいピンク色のキノコを鼻先に持って行ったのですがフルフル首を横に振られました。そうですか、食べれませんか。
後に分かったのですが、一口食べれば竜でもコロリとあの世に行ける猛毒のキノコでした。ハチ様々です。
毒も少量なら薬になるのでしょうが流石に猛毒キノコは拙いので食用中心に集めましょう。…依頼人が次の日お目覚めにならなかったりしたら流石に滅入るのですよ。
採って来てくれたキノコを依頼用に少し選り分け保存しますが、もう少し有った方が良いでしょうか?
「もう少し有った方がいいか?」
「「「「 お手伝い致しますっっ!!!」」」」
……貴方たちには聞いておりませんが。あ、もう居ない。
仕方なくリオ君と焼きキノコの準備中。キノコは水で洗うと風味が落ちるし変色もしやすいので(スカイブルーやモスグリーンの色が変色したところでどうでもいいですが)布で気になる部分を拭い、その間リオ君とハチが乾いた木を集めていると地面を蹴る音と共に髪を後ろに靡かせながら一番手にやって来たのはレイラさんでした。
少し赤い頬に汗で数本張り付いた髪。やたらめったら色っぽいです。……色気ってどうやったら身に付くのでせうか。(泣)
「はぁはぁ、あたしが一番だね。
ほら我が主様!どうです?この色と肉厚なキノコ、いいと思いませんか?ハチ、ほらこれ見て見な」
クンクン。
ザッザッザッ。
あ、ハチが後ろ足で砂をかけてます。これだけ大量にあるのに全て食用にもならない毒キノコですか。ある意味すごい確率です。…しかしハチ、あなた容赦ないですね。
「こ、この駄犬め」
「あ〜、レイラが一番か。僕が先に着いたと思ったのに。
我が主〜、見て見て。我が主と同じ黒系で集めてみました!僕ってセンス良いですよね」
怒りに震えるレイラさんを余所にのんびりした声で次に戻って来たのはルトさん。
無駄に甘いマスクをフル活用し、キラキラ笑顔で得意気に差し出された手の中には大量の黒いキノコ。
ジュッ、ジュ、ジュジュ
……………。
「……主様。ルトさんからジュッジュって聞こえますよ。何の音ですか?」
「……ボウヤ、あれはキノコから滴り落ちた水分が地面に落ちて焼ける音だよ」
パチンッ。
ボッ。
「あ、あ〜っ!!我が主酷いです!何で燃やすんですか!?
折角集めたのにぃ〜」
煩いです。
食べる気どころか持つ気もしません。硫酸キノコか!?
「何です、この異様な匂いは?」
ああ、また一人帰ってきまし、、た。
「……アゼル、それは何だ?」
「ふ。我が主様が珍しいキノコをご所望の事でしたのでこのアゼル、最深部近くまで行き発見致しました」
胸を張り堂々と宣うアゼルさんの右手にはスイカサイズの白いキノコ?を持っていますが、何かに似ていますね?……ん〜このゆらゆら感、、あ、水族館で見た幽霊水母にそっくりです。ボンヤリとした白い色と溶けるように細く長〜い触手をユラユラ揺らし漂う姿にぞぉっとした記憶がありますが、正に同じです。
ところでアゼルさん。触手?がアゼルさんに纏わり付いていますが、それ本当にキノコですか?
あ、倒れました。何?痺れるのですか?ストップリオ君、回復はしなくてもいいですからそのまま放置しましょう。
「アゼル?何を寝ている?」
呆れを隠しもせずにやって来たガイラルさんが最後です。
「我が主、お待たせ致しました。これをどうぞ」
わぁ。そっとガイラルさんが差し出してきたのは棒の先に黄色やオレンジなどカラフルで小さな丸いキノコが密集している見た目も可愛らしい、まるでキノコのブーケですね。
うう。やっとまともなキノコが。
「うぐっ、ズルイよ。いっつもガイラルは美味しいとこを持って行くんだもん」
「…拙いね。このままじゃガイラルの一人勝ちになっちまうよ」
ガイラルさんからキノコのブーケを受け取ろうとした瞬間、
ベチョッ。
…………向こうから飛んで来た幽霊キノコがブーケを溶かしてます。
どうでもいいですが、幽霊水母って確か水クラゲを食料にしていましたねー。
あまりの出来事にどうでもいい事を考えてしまった私にアゼルさんの謝罪の声が届いました。
「あー。すみませんー。キノコを振り払おうとしたらー、何故かー、たまたまそちらに飛んで行っていましましたー。ビックリですー」
大根役者より酷いです。セリフが棒読みですよ。
何より投球後のフォームで偶然を装われても説得力が有りませんが。
そしてレイラさんとルトさん、良くやったと親指を立てない!
これには流石のガイラルさんもピキリッと青筋を立てながらも口に笑みを浮かべ気にするな、と仰いました。をを。ガイラルさん男前〜。
「おっと、躓いたー」
棒読み台詞とブンッと風が唸る音と共にメジャーリーグの剛腕ピッチャー並みのフォームでアゼルさん目掛けて幽霊キノコを投げ付けられました。……男…前…?
アゼルさんは予測していたのか風の魔法で弾き飛ばし、べチョリ、と今度はレイラさんへ。
思わず無音になった周囲に、レイラさんはさっきまでに数百人殺ったぜぃ、的な恐ろしい目付きでキノコを投げつけようと振りかぶり丁度後ろに居たルトさんの顎にアッパーが見事に決まりました。
飛ばされ木にぶつかった後、無言で立ち上がるルトさん。
四人が向かい合いました。
「さぁ、これは食べ頃だぞ。熱いから気を付けて」
「あつっ!…モグモグ、美味しい〜!主様このキノコ美味しいです!」
「そうか。ハチ少し醤油を垂らしたやつはどうだ?
ああ、分かった分かった。お前の尻尾を見ればよく分かる」
キノコの焼けた匂いが漂い、パチパチと真っ赤な火が弾け、目の前には満面の笑みを浮かべるリオ君とハチ。辺りは幻想的な光を灯すキノコ。最高のシチュエーションです。
惜しむらくはお茶ではなく日本酒か焼酎があればもっと最高なんですが。
明け方までテントから幻想的な光を堪能した後、寝てしまったリオ君を背負い帰りました。
ギルドで依頼品を渡し、後日報酬金とは別に追加分で、焼きキノコで一番美味しかった千鳥格子柄のキノコが高値が付いたのですが、たまたま持って来てしまった幽霊キノコが金貨10枚の値が付きました。毛生え薬の元になりそうだとか。
解せません。
え?守護竜達ですか?
知りませんがもしかしたらキノコと一緒に土の中に埋まっているかも知れませんね。
昔、聖剣○説3のゲームの中に雪のフィールドがあり、夜になると木々がクリスマスツリーのようにキラキラと輝き、凄く感動した記憶があります。本当に綺麗でした。
今も私の中では名作の一本です。




