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ダンジョンへは突然に (結末)

夕暮れ時。


冒険者ギルドには人がごった返し騒々しい声が行き交っている。依頼達成した者、依頼者、査定、鑑定依頼、他者との情報交換や交流を目的とした者など様々だ。


その中でも一番の話題は今まで薬草採集の依頼しか受けなかった四人組が初ダンジョン、しかもあの墓場に向かったという。(今回は三人でだが)

パーティー名はないが初めから目立つ四人組だった。


貴族だと噂されるリーダーとおぼしき女性は、長い髪を高く結い上げ最高級の絹糸のようなサラサラとした黒髪を靡かせている。

何処にいても人々の目を引く美貌と凛とした夏薔薇のような雰囲気は侵し難い聖域のようだ。

その弟?は大きな青い瞳が印象的なこれまた将来が楽しみなほど顔が整った子供だが、今は愛らしいの一言に尽きる。子供がギルド内を一回りすればポケットや両手に持ちきれないほどの戦利品おかしを貰って帰ってくる。子供用にクッキーやキャンディーを常備している者も多い。

その護衛の一人、細身の男は甘いマスクの軽薄そうな男だが(実際隠れて女性職員をお茶に誘っているが)その目は常に周囲を警戒し、リンに話しかけようとする男どもや何も知らない新顔が絡むのをさりげなく邪魔をしている。

もしかしたら一番の苦労性ではなかろうか?

もう一人の護衛は大柄な男だ。体格に見合うさぞかし凄い武器を所持していると思いきや、腰に差しているのは特殊な金属で作られた小枝のような魔法使いの杖。大抵の者は二度見、三度見する。

実際に大量の薬草を汗一つ流さず持って来た時の重量は30キロほどあったとか。魔法使いなんて詐欺だ!と叫んだ職員は悪くないだろう。



初依頼で希少なものから絶滅したかと思われていたものまで大量に薬草を持って来た事から、最初は何処かにコネでもあるのかと疑っていた同業者達だったが、それが二度三度と続き、中には後を付けた者までいたが何を見たのか青ざめた顔で頑なまでに口を閉ざし語ろうとはしなかった。

ただ不正はしていないと断言した事から周囲も薬草採集と馬鹿に事無く、徐々に実力を認められて行くことになる。





その者達が墓場から帰って来た。

ーーその日の夕方に。

ギルド内は騒然になった。

まさか失敗したのか!?リン達に掛けていた者達は蒼白となり、逆に失敗(死亡含む)に掛けていた者達は拍手喝采(不謹慎)したが、リンが依頼品である角をテーブルに置いた瞬間、立場が逆転した。



悲鳴と歓声が飛び交う中、ギルドマスターが周囲に紛れて離れて立っていたジルとダンジュを隅に引きずり込んだ。


「ちょ?!離せよ。男に迫られる趣味はないぞ」

「何?…ギルドマスター殿にはそのような性癖が?いや、差別は良くないな。

リン様がよくおっしゃっている。愛に性別はないのだと」

「気色悪い事ぬかすな!俺もねぇよ!第一俺には女神なかみさんと天使の可愛い娘がいるわ!

…じゃなく、一体どういう事だ?いくらダンジョン行きの乗り合い馬車が早いとはいえ、墓場まで片道約三時間、往復六時間だ。まさか三、四時間で攻略したと言うんじゃないだろうな?」


「そのまさかだ」


「…………マジか?」


「大マジだ。ほら、リン様初っ端からヤル気満々だっただろ?ストレス発散の為だったけどな。

んでリン様のヤル気(殺気)に当てられたダンジョン中の魔獣が一匹も姿を現さないときた」


「………冗談だろ?」



ギルドマスターの声が掠れているが無理もない。

どのダンジョンにも言える事だがダンジョン内に出現する魔獣には二種類ある。一つはダンジョン内の魔力により産み出されるものと、もう一つは自然界で生まれた魔獣がダンジョンに自ら入り生息しているタイプだ。

大半の魔獣は前のタイプになるが、ダンジョンを守る為に人工的に産み出された魔獣が存在意義を放棄する事態に常識がガラガラと根底から根こそぎ崩れてくる。ギルドマスターの顔が盛大に引きつった。



「実際ネズミ一匹出てこなかったからな。ギルドマスター殿、これは常識云々ではなくあるがままに受け入れた方が宜しいかと」


「ダンジュ、他人事の様に言ってるがこの最短記録を出した一端はお前にも責任があるからな?」


「…まだあるのか?」


もう何も驚くまい。

そう心に誓ったギルドマスターにジルは疲れた顔で曖昧に笑いながらもポツリポツリと話し始めた。



「ほら、ダンジョンってある程度自己修復機能持ってるだろ?それを知らないリン様にこの馬鹿ダンジュがポロっと漏らしたんだよ。

リン様もいい加減ダンジョンの罠しかない状況にイラついてたんだろうな。…………一気に最下層まで床に穴開けた」


「………………は?」



もう何を聞いても驚くまいと誓ったギルドマスターの決意は一分も持たずに脆くも崩れ去った。

ダンジョンは頑丈な上、魔法を打ち消す機能がある。上級魔法ならば一部が崩れる可能性はあるものの、ほんの僅かだろう。そのダンジョンに穴を開けた?しかも最下層まで。

幾ら竜王とはいえ魔法は魔法の筈なのに?ギギギ、錆び付いたオモチャの様に軋んだ動きで嘘だと言ってくれと目で必死に訴えながらダンジュを見るが、無言なのが何よりの証拠だった。

無情にもジルの話は続く。



「んで、ウキウキワクワクしながら行き止まりの扉を開けた先に、」


驚かない。もう驚かないぞ。


「ボスが部屋の隅で大きい身体を必死縮めながらブルブル震えていた」


ーーッッ!?、オ、オ、オドロクモノカァ!!


「あれにはリン様も毒気を抜かれていたな。無理もない。ボロボロ涙を零した後、必死で無害アピールをしていた姿に俺は涙が止まらなかった」


「そうかぁ?俺は楽しかったけどなぁ。腹を見せて媚び売ったり上に乗って玉転がしならぬ岩転がしもしてたな」


「サーカスか!!?野生まじゅうのプライドは何処に!?」



思わず叫んでしまった。負けた。何かに負けた。

何かに打ちひしがれたギルドマスターをいつから聞き耳を立てていたのか馴染みの冒険者達が労った。

人の優しさが身にしみる。







「で、だ。ボスはどうなった?」


「ん?ああ。人間の言葉が分かるようでな。事情を説明したら快く自分から角を折って渡してくれたよ」


「……魔獣にとっちゃ角は強さの証の筈なんだがな。自ら折ったのか。

……ところで」



ギルドマスターは一度言葉を区切り、査定待ちの間ミントと談笑するリンをチラリと見た。いや、その手に抱えれている動物を。



「なぁ、俺には嬢ちゃんが抱いている犬?の角が片方折れている様に見えるんだが」


「大丈夫。また生えるらしいし」


「………そんな事を聞いてるんじゃ無いんだがな。……はぁ。嬢ちゃんだしなぁ。なんでも有りか」



奇しくも受付嬢のミントと同じ考えに至ったギルドマスターだった。



そして暫くの間、素手でダンジョンの床に穴を開けた、瞬間移動が使える、魔獣を調教しサーカスに叩き売った等、様々な噂が囁かれることになる。






「最近調教してくれと声をかけられるんだが、何を調教するんだろうな?紐やら持って来られても調教する動物がいないんだが」


「……すみませんリン様。その話もうちょっと詳しく…」






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