ダンジョンへは突然に (発端)
今回は長くなりそうなのと後半は主人公視点では無いのを書きたかったので二話に分けました。
ストレス。
それは過去現在未来まで続く恐ろしい病。
悪化させれば女性の大敵激太りから、男性の大敵円形脱毛症など、他にも身の毛もよだつ恐ろしい事態を引き起こすのです。
「…つまり、早朝にリオ様も我々も置いてギルドの依頼を一人で受けようとしたのも、魔物討伐を嫌うリン様がわざわざ乗り合い馬車で魔獣がいるダンジョンに向かうのも、全ては 」
「ストレス解消の為だ」
ダンジュさんの声を遮り一言。
一緒にいるジルさんとダンジュさんが労わりと憐れみを込めた眼差しで私を見ています。
ええ。私はこれからストレス発散しに行くのです。
宝探しゲームが終わり約一ヶ月近く、耐えました私。
来る日も来る日も来る日も来る日も来る日も!!ずーーーっと傍に引っ付き離れない疫病神、もとい守護竜達。傍目から見ればまるでリアルドラ○エごっこ。……彼らなら死んでも棺桶に入って着いて来そうで怖いです。
「因みに守護竜様方は?」
「知りたいか?」
「……止めておきます」
賢明です。
今日はリオ君はお留守番です。涙目で縋り付くのを説得するのが大変でした。いや、だって、ねぇ?私としてはリオ君に対して素敵なお姉さんでいたい訳ですよ。でもこれから魔獣に八つ当たりしに行くのですから、見せられませんよね。
せめてものお詫びにリオ君にお土産を買って来ますから許して下さいね。
「…しかし乗り合い馬車とは乗り心地が悪いものだったのだな」
依頼は近場の薬草採取が中心だったので、今回のプチ遠出は初めてです。
ゲームでも前半の移動は徒歩、馬車、船、ワープなどランクアップしていくものです。徒歩の一つ上、初の乗り合い馬車に乗ってはみて分かったのは道はある程度舗装はされていましたが、あくまである程度。しかもゴムなんて物もなく車輪から直接ガタガタ伝わる振動で腰が痛くなりそうだったので、今はちょこっとだけズルをして私達三人の周りに体を覆う様に重力と風の魔法を組み合わせて空気の層を作ってみました。所謂リアルエアクッションの様なものです。勿論周りにバレないように一センチほどの厚さですがまあ快適快適。
無駄に多い魔力も役に立ちますね。
これには二人とも大喜びでした。特にダンジュさんは熱心に理論を聞いてきましたが、結論として一時間も持たないらしく落ち込むと思いきや城に帰って少ない魔力で維持する方法を研究するとか。素晴らしい前向き思考です。
「ほんっと快適ですね〜。最初は浮いてる感じが慣れませんでしたけど、慣れれば超快適。野外訓練の馬乗ってる時もこの魔法使えればいいのにな。おいダンジュ頑張ってくれよ」
「うむ、研究しがいがあるテーマだな。
そういえばリン様。馬車と言えばギルドに入ったお祝いにアゼル様から遠出用に贈られていま…っな、何だ!?」
「バカ!ダンジュその話は禁句だ。(ボソ)」
「な、何故だ?」
「お前知らないのか!?アゼル様が部屋にも負けない悪趣味な馬車作って飛び蹴りされたんだよ!(ボソボソ)」
ボソボソ言い合っているジルさんとダンジュさんでしたが、竜の聴力を舐めてはいけません。丸聞こえです。
二人を横目に私は数ヶ月前の出来事を思い出していました。
“ギルドの依頼によっては遠出する事もあるでしょう。わざわざ汚らわし、、もとい、他人が乗っている狭い小汚い馬車にお金を払うよりも此方の方がいいですよ” と一部気になる箇所は有るものの久々にとまともな事を言ったアゼルさんが持ってきた馬車は全て純金製で出来ており、所々にわたしはここよ〜っとばかりに宝石がギラギラと主張し、内装はビロードの高級生地に覆われ足元はふかふか絨毯。全体は守護結界で取り囲まれ不用意に近付けば電撃か火だるまか不幸の呪にかかるか、何れかのランダム付き。
その馬車を引いてきた栗色の毛並みが美しい馬二頭は純金製の重みで息も絶え絶えで。
動物虐待するんじゃない、と思わず繰り出したミサイルキックが見事に決まったことは記憶に新しいです。
我が主様のご安全の為に〜と涙まじりに泣き喚くアゼルさんでしたが、呪いがかかる馬車に誰が乗りたいと思うのでしょうか?アゼルさんと私の間ににブラックホール並の深い溝があるのを再確認した出来事でした。
馬車を降りて暫く歩いた先に巨大な石の壁で作られたダンジョンの入り口が見えてきました。
私の今回の依頼はダンジョンの深層部にいるラスボスの角を持って来ること。SランクかAランクレベルの依頼だったのですが憂さ晴らし出来るような丁度いい依頼が無かったんですよね〜。
このダンジョン。通称 “墓場” 。何の捻りもない名前ですが、ダンジョン内には高ランクの魔獣がうじゃうじゃと居る上に、トラップも半端ないとか。年間数十人がお亡くなりになる事から付けられたそうです。
因みに私がこの依頼書を受付に持って行った時ギルド内が騒然となり、顔馴染み中心の “ついに行くのか” 派と、新顔さん中心の “低ランクの身の程知らずが” 派がおり、娯楽が少ないのか人の目の前で堂々とオッズを取っています。
掛け率で盛り上がる冒険者達をよそに、絡むつもりなのか新顔さん達がニヤニヤと見下した顔で此方に向かってきました。咄嗟に前に出るジルさんとダンジュさんでしたが、奥の部屋から私の依頼を聞いたギルドマスターさんが机の書類を崩しながら物凄い勢いで駆け寄り(ついでに新顔さん達も弾き飛ばし)、真剣な眼差しでくれぐれもダンジョンを破壊しないでくれ、と念押しされたのですが納得いきません。私そんなに乱暴者に見えるのでしょうか?
木で覆われた入り口には2組ほどパーティが準備をしている最中ですね。ダンジョン内で迷えば命の危険も出るわけで、自ずと装備品のチェックは念入りになるものです。え?私達ですか?三人とも外出用の普段着ですが何か?
ご安心を。服の上から防御魔法をかければちょっとしたブレスでも上級攻撃魔法の乱れ打ちを浴びてもあら不思議。まるでそよ風の様です。皆様も是非お試し下さいませ。
さて出発ですよ。
街中でも散歩するような私達の軽装に唖然としながら見送っていた冒険者さんの一人が何かに気づいたのか慌てて制止の声を掛けます。
「おい!?待て、そこにはトラップが!」
ダンジョンに足を踏み入れて数歩目に横の壁からいきなり槍が凄いスピードで此方に向ってきました。
側頭部に突き刺さる寸前、槍の柄を掴み見ると鋭く尖った先がギラギラ光っています。怖っ!殺る気満々ですね。
………ふふふふふふ。これですよ、これ。血湧き肉躍る!まさに冒険ですよ!
別に殺戮する訳でも無し、今日は森の住民達も忘れて八つ当たり兼お宝ゲットですよ!
「楽しくなりそうだな」
右手で槍をバキバキと真っ二つにし、ウキウキワクワクにっこり笑った私に対し皆さん無言で返しました。
………何故誰も同意してくれないのですか?
「………何故だ?」
何故です。
ダンジョン内だというのに魔獣が一匹も居ません。
トラップは沢山あるのにネズミ一匹居ないのです。
「な、何ででしょうかね〜」
「おそらくリン様から漂う殺気で逃げ……、、うおっ!?」
「…どうした?」
ジルさんがダンジュさんの首をホールドし、(身長差があるので若干ぶら下がるっていますが)何でも無いとパタパタ手を振っていますが仲良しさんですね。
そうこう歩いている内に深層部の行き止まり、大きな扉の前にやって来ました。ダンジョン内に魔獣が見つからなくても、ラスボスはいる筈です。わっはっはっはっはっ。腕が鳴りますよ。
ギィ。
入り口の扉を開けた瞬間、ギルド内全員の視線が突き刺さります。途端にざわめく部屋を歩き何時もの受付のお姉さん、ミントさんの前で依頼品の角を置きました。
ミントさんは私がギルド登録をした時に初めて話した女性でとても丁寧で好印象だったのと、冒険者ギルドは女性が少なく同性とのいうことで仲良くさせで頂いています。艶やかな茶色の髪も素敵ですが、彼女のふくよかなお胸はいつ見てもお美しく、同性として何を食べたらあのような胸が出来るのが非常に興味深いのです。
「……リ、リンちゃん?貴女今日墓場に行ってきたのよね?え?え?、あそこの深層部って最低でも三日は掛かるのよ!?何で今日の夕方に帰って来てるのーー!?」
「今夜はリオと食事の約束をしている」
「いや、そういう意味じゃ。……角本物よね?さ、早速鑑定に回すから少し待っててちょうだい。
…それと〜聞いていいか分からないけど、その両手に持っている動物、なに?」
ふふふ。カワユイでしょう?ダンジョン内でペットをゲットしたのですよ!
ライオンみたいなミカン色のフサフサの毛並みに今は諸事情で片方が折れていますが、羊の巻いたような雄々し角。尻尾は蜥蜴の様に硬く顔は熊そっくりです。今は子犬サイズですが本来は四メートル以上あります。
「犬だ。名前は忠犬から取ってハチという」
「ギャオス!」
「……………犬はギャオス何て鳴かないわよ。……はぁ。リンちゃんだものねぇ、何でも有りか」
………どういう意味ですか?
たまには冒険者らしいことをさせてみました。( ̄▽ ̄)




