幕間は突然に 11
お待たせしました。m(__)m
落ち込みながらの二度目の作業は遅々として進みませんでした。
店に持って行って復元出来るか聞いても、店のお姉ちゃんの無理です、の一言。(泣)
わたしの名前はシオル。
役職は魔法師団隊長です。
趣味は魔法薬実験。
長所は……同僚に顔と地位、と言われましたがこれは長所なのですか?
短所は一度集中すると周囲が見えなくなるところです。異臭騒ぎだの実験での失敗談は山程あります。
家については騎士団、魔法師団は全てを国に捧げる為入団と同時に家名は捨てるのでまあ、元第二王子だったダイスのお目付役兼遊び相手になれる貴族位だった、とだけ教えておきます。
正直に言いましょう。
今回のイベントは武術大会の要素は含まれるものの、たかがゲームと侮っていました。まさかあんな事になるなど誰も想像していなかった事でしょう。
イベント当日。
会場内はお祭り前の熱気に包まれており、どの顔も皆一様にワクワクしていますが無理もありません。前騎士団長だったセシリード団長の不祥事により武術大会は自粛していましたからね。それに宝探しなんてロマンを感じるじゃありませんか。
わたしは宝飾関係には興味がありませんが、子供の頃はダイスと城下町に降りては綺麗な石やトカゲやセミの抜け殻を宝物にしていたものです。
そういえばこのイベントが終わればメイン会場と大広場で打ち上げパーティーが予定されていましたね。
今頃城の料理人達は腕によりをかけて急ピッチで作っていることでしょう。
わたしのお気に入りはサンドイッチです。ふわふわのパンにシャキシャキの野菜、茹でた卵や魅惑の調味料マヨネーズ、燻製した肉に魚と香草のマリネ、カットフルーツやジャムなどを挟んだデザートサンドもあるのです!何より片手で食べながら仕事が出来るところが素晴らしい。
リン様のおかげで我が国の食事情は、料理人達の尊い犠牲の元、急激に発展している最中です。
犠牲。彼らは自らの睡眠時間を削り約二ヶ月で基本をほぼマスターし、更に貪欲に知識と技術を吸収していますが、それに伴い目の下の隈は恐らく一生とれることはないのでしょうね。
余談になりますが、初めの頃はゾンビ軍団の様相に城の者たちの悲鳴が絶えなかったものです。
のほほんとしていたわたしに悪魔、もといセシリード団長が最終兵器を出してきました。
ア、アンタ何で人のプライベートを根掘り葉掘り調べてるんですか!?イベントを盛り上げる為だけにわたし達に犠牲になれと?アンタ本当に人間ですか!?
最早先程のホンワカ気分から一転、隊員達の目は獲物を狙う肉食獣そのものです。
いつも一緒に叱咤激励?をするアゼル様は今回、ご自身のコレクションを出品しているので大人しいものです。発破をかけて万が一にも取られたくはないのでしょうね。
そして最後の一人、ロウカ王子がやってくれました。
東
二代前と三代前の竜王様の亡くなった時の年齢を掛け合わせた数。
西
4時間36分を秒になおした数
南
この国と北のスノーダリアを流れる川、レヒダット川の長さと世界で四番目に長い川の長さを足した数。
北
守護竜アゼルのファンクラブ会員数は?
西は問題ありません。東もギリギリですがいいでしょう。
何なんですか?四番目って可笑しいですよね?普通は一番長い川でしょう!?アゼル様のファン数?知りませんよそんなもの。わたしが入会する事は一生ないですし。
何なのですか!?この性格のひん曲がった、、ゴホゴホ、え〜複雑骨折でもなく、どん底に陥れ、、でもなく大変凝った問題は。
わたし達は国と王族に忠誠を誓っていますが、次期国王に対する忠誠が薄れて行く今日この頃です。
数を数えながら歩くだけの事がこんなに辛いとは正直想像すらしていませんでした。
過酷な拷問の一つに、暗闇の中水を一滴ずつ垂らすものが有りますが気分的にそれに近いものがあります。
百、二百ぐらいは問題ありませんが、それが何千歩になると最早苦行です。いつ終わるのでしょうか?
丁度いい数で立ち止まり、布で汗を拭います。
ぐるりと周囲を確認しますが先程門の外に出ていたような?そして上級攻撃魔法を使ったような?まあ誰も何も言って来ないので問題は無かったのでしょう。
小休憩をしているわたしに観客の中から数人キラキラした笑顔で駆け寄って来ます。
「シオル隊長、アンタ凄えよ!さ、冷たい水でも飲みな」
「シオル様、私メイン会場に居たのですがどうしても直接貴方を見たくてこちらに来てしまいました。
これはカットフルーツです。疲れた時には甘い物が一番ですよ」
「俺、ホント感動してるよ。マッサージでもしてやりたいが流石に止められてな。ま、その分応援してるぜ」
……ただ歩いているだけなのに感動、ですか?
そして何故に皆さん至れり尽くせりなのですか?そういえば歩いている時に声援が聞こえていましたが、あれはもしかしてわたしにだったのでしょうか?
……ダメですね。疲れて頭が回らないみたいです。あ、このフルーツ美味しい。頂いた水で喉を潤し出発です。分からない事は後で確認すればいいでしょう。
声援を背にまた歩き始めます。
途中、「隊長、俺貴方の部下であることを誇りに思います」だの「生きていれば必ず良い事がありますって。だから絶望して自殺なんかしちゃダメっすよ」など応援しているのか不安にさせたいのか分からない声援が度々ありました。
五千歩目で止まったわたしの耳に歓声が飛び込んで来ました。慌てて顔を上げると、
ーーここはメイン会場?
会場全体の大歓声の中、スタンディングオベレーションで迎えられましたが、何故最初の場所に?わたしは何処かで間違えたのですか?
咄嗟の出来事で呆然と立ち尽くしているわたしの元へとやって来たのはロウカ王子でした。
それはそれは素晴らしく輝いた笑顔でナイスタイミングと言われましたがはて?
親指を立てる仕草が何故かムカつきます。
聞けばリン様が緊急事態とやらで席を外すしたせいで、会場内に映し出されていた画面が魔力切れで丁度消失した時にたまたまわたしが来たとか。間接的に王子を助けてしまった自分にまたムカつきました。ち。
ロウカ王子から早く宝箱を取っておいでと背中を押されましたが何が入っているのか不安が増すばかりです。
しかし宝箱は何処に?残りは200歩。このまま真っ直ぐに行けば……最初の問題が貼られた場所がゴールになりますね。
足早に歩く途中、下の辺りで何かがキラリと光りました。…………そういうことでしたか。
大勢の参加者に見えるよう大きな紙で上の方に貼られた問題用紙。誰も下の壁なんて見ませんよね。計算された角度で置かれた鏡の中には宝箱がありました。
………あ…あのクソ王子!ほんっっっとぉぉにっ人を小馬鹿にしてますよねっ!!
落ち着け、落ち着くんですわたし!
大勢の目撃者がいるんですよ!上級攻撃魔法はいつかきっと来るチャンスの為にとっておくのです!
何度か深く深呼吸し宝箱を開きました。
…………………?
何ですか?この白くてカサカサした長いものは?何処かで見たような?
「見ての通り、それは蛇の抜け殻だよ」
…………………は?
「幼い頃ダイスが僕の為に、とわざわざ山に探しに行ってくれたものなんだ。知ってるかい?蛇の抜け殻は金運アップの御守りなんだよ。流石は僕の弟だ。いい趣味をしている。
実際に今回も儲け…え〜ほら、なんだ。兎に角ダイスの同僚であり親友でもある君がこの宝を得るなんて運命と思わないかい?
さあ、貰ってくれ」
そんな大切な思い出の品を親友に譲るなんて!と皆さん王子を褒め称えていますが、納得いきません。
普通宝箱の中身に蛇の抜け殻が入っていたらドン引きしませんか?しますよね?会場の雰囲気に飲まれていますが冷静になって考えて下さい。
それに思い出しましたよ。
いい思い出に変換されているようですが、昔ダイスが “ 兄上を驚かせてやるんだ! ” と、虫や蛇を探しに無理矢理山に付き合わされた挙句見つかったのは蛇の抜け殻のみ。
それでも蛇は蛇だと持ち帰りロウカ王子にヘロヘロと投げつけましたが軽いんですよね。考えなくても分かるものですが。逆に本物の蛇を投げられ泣きながら逃げて行くダイスの後ろ姿を見ながら、こいつの教育係は一体何をしていんだ?、と子供心に思ったものです。
……ある意味思い出の品を貰いましたね。
その後合流したリン様に労いの言葉をかけて頂いた上、歌のサプライズプレゼントまでありました。
澄んだ透明な歌声は何時迄も聞いていたいと思わせる程素晴らしいものでしたが、桜吹雪?サライとは何でしょう?
そして滝のような涙を流しながら拍手声援や紙吹雪、花びらを投げ、リン様を演出する為か綺麗に揃った怪しい踊りをするアゼル様と愉快な仲間達にはドン引きです。
踊りは某カップ麺のCMと同じと思って下さい。(笑)
読んでいただきありがとうございます。




