モグラ駆除は突然に
今回は少し長めです。(当サイト比)
キングモグラ。
この世界にもモグラが生息し、地球のモグラと生態系はほぼ一緒。通常ミミズや昆虫などを食べる肉食系なのですが、何と12時間以上胃の中に食物が無いと餓死してしまう程の大食漢。
しかしこの世界には一万匹に一匹いるかいないかと言われるモグラの頂点に立つキングモグラは更に上をいき24時間ほぼ食べ続けるという、まさに食欲モンスター。
雑食性で体格も通常の二倍、三倍あり大きなものだと大人ほどの大きさもいるそうで、兎に角食べる。食べ続け、一夜にして広大な畑の作物が食べ尽くされる様はイナゴの大群が通った後の様です。もちろん花や木の根も辺り一面手当たり次第、見境なしに食べ続けます。
いけません!ユグドラシルちゃんが食べられてしまいます!
スッと立ち上がった私をロウカ王子をはじめ国王様達が不思議そうに見ていますが緊急事態なのです。
会場内にある複数の画面をシオル隊長と大広場にいる精霊ちゃん達に固定し、残りの画面を消します。
私がこの場を離れてしまえば画面が直ぐに消えてしまうので余分な魔力を減らし暫く持つようにしますが、多分途中で魔力切れになるので後はその巧みな話術で持ち堪えて下さい、とお願いしたところ顔を引きつらせていましたが、ユグドラシルちゃんの危機なのでご了承下さい。
目立つのは得策ではありませんので、裏口から外に出て、先ずは靴の確認。トントン、よし!行けます。屋根伝いを走りながら城を目指しましょう。
待っていて下さいね、ユグドラシルちゃん。
ーーははは。…絶対お祓いをした方がいいですよ、この中庭。
元の原型どこですか?状態の庭は木々はへし折られ花々は潰され、地面は穴ボコになった中庭を見て深いため息を一つ。
さて、ユグドラシルちゃんは。
【主様〜!!】
「わ、我が主!?」
「リンちゃん?」
皆さん無事のようです。二人とも傷だらけは分かりますが、服が泥だらけなのは何故に?
ーーはっ!?モグラ叩きゲームの様に穴から食べようと襲いかかって来たとか?
そしてユグドラシルちゃんをキングモグラから守ってくれていたのですね。かっこいいです!
一人感動していると、ガイラルさんがいつの間にか近くで跪き少し潤んだ目でこちらを見上げますが、色気がハンパないです。私の女性としての立場がないぐらい男の色気?フェロモン?が漂っていますが、何故ですか神様納得いきません。
「我が主、お久しぶりにございます。200年振りにお姿を拝見出来たこと、このガイラル望外の喜びでございます」
「……いろいろ言いたいことは山ほどあるが今はそれどころでは無いな」
「そうです!ここは危険です、お下がりください」
「全て分かっている」
ええ分かっていますよ。この無数の穴ボコ。間違いなくキングモグラが出たんですよね。
「!流石は我が主様。素晴らしいご推察です」
わっはっは、もっと褒めて下さい。
しかしこの穴ボコの大きさからかなりの大物ですね。
ふむ。小さな魔法はともかく大きな魔法を使うと私の力は強い分繊細さというかコントロールに欠けるんですよねー。
「…ユグドラシル、この地中には他の生物は?」
【え?は、はいですの!………居ませんの】
「そうか、それは好都合」
「リンちゃん?何する気?」
「こうする」
この世界にはモグラの駆除剤なんて便利なものはありませんし、キングモグラを捕らえるような大きな罠もありません。第一捕獲するまで可愛いユグドラシルちゃんを危険には晒したくはないならどうするか?
結論。力技で排除。
地面に手を置き、ゆっくりと魔力を解放すると隅々まで魔力が行き渡り、髪も服もフワリと浮き上がるのが分かります。魔法に一番大事なのはイメージ。どのような現象を起こし対象物にどのようや影響を及ぼしたいのかを頭の中で強くイメージするのです。
ふ。ありとあらゆる数々のゲームを網羅した私には造作もない事ですが、如何せんコントロールが心許ない。しかし、ユグドラシルちゃんのお墨付きを頂きましたので今は遠慮は要りません。えっと、地中での爆発は不味いですので、対象物のみを消せばいいのですよね?えー、どうしましょうか?消す、解す、消滅、生滅、焼滅、、、。
「滅」
ーーー。無意識に中二病のイタイ呪文を呟いてしまいました。………は、恥ずかしい、恥ずかしい、いい大人が恥ずかしいーっ!なんか成功したぽいですが、何故誰も喋らないのですか!?沈黙がいたたまれないですよ!誰が何か喋って下さい〜。(泣)
「モ、モグラの駆除も終わったな」
OL時代に編み出した技、秘技注意逸らしの術。
ガイラルさん達から戸惑った声がかけられましたが、この技は空気を読まない事がポイントです。
「…モグラ、ですか?」
「ああ、モグラだ」
「……そうですね、モグラでしたね。完璧に駆除されたようです。流石は我が主」
「しかしこのままという訳にもいかないだろうな。また次が来ないとも限らないしな」
ふ。上手く逸れました。
さて、このままじゃ殺風景ですし何よりまたキングモグラが来ないとも限りませんし、何か対策を考えないと。アフターケアは大事です。
むー、モグラ対策で思い付くのは城には不釣り合いかも知れませんがやはりあの花でしょうか?
何でも出来る訳ではありませんがイメージを具現化する魔法はあるのですが時空魔法系統に属する上、私でも魔力を大量に使うんですよね。
まあ禁呪だろうが何だろうが、ユグドラシルちゃんの為ならえんやこら、です。
先程と同じ様に地面に手を置き、イメージするのは前世で好きだった花の一つ。物悲しくも美しい秋の花。
目を見開くと其処には一面に懐かしい赤い花が咲き乱れ、息を飲むような幻想的な風景が広がっていました。
…………ユグドラシルちゃんの周りだけにしようと思っていたのですが、加減を間違えました。国王様と庭師の皆様ごめんなさい。
「……リンちゃん、この花は?」
「ん?彼岸花とも曼珠沙華とも呼ばれる花だ。
いろいろな別名があるが死を悼む花とも言われているな。妖艶で美しいだろう?」
各地で様々な呼び方あって死人花や地獄花、狐の松明や天蓋花など沢山有るんですよねー。
この花は根に毒があるので、昔からモグラ除けに植えられていたとか。
因みに飢饉の時には毒を抜いて非常食として食べたりもしたそうですが、なかなか勇気が要る食べ物です。
見渡す一面の赤。この景色を見に、秋になるとドライブがてら家族と遊びに行ったものです。
ほんの少しだけ物悲しい気分のまま一輪摘み向こうの家族のことを思い出してしまいました。まあ私より長生きしそうな人達だったのでその辺りは心配はしていないのですが、ろくに親孝行も出来なかった私はとんだ親不孝者ですね。
でもだからこそ今を、周りの人達を大切にしたいのです。
自己満足と言われても傲慢な考えと言われても一緒に笑っていたいから。
そう、あんな風に心から幸せそうな笑顔ーーーーん?
「ルト!早くしなさい!今撮らずにいつ撮るんですか!?今でしょう!!」
「無茶言わないでよ〜、これまだ試作品だよ?」
「ああ、赤い花に囲まれ儚く美しい我が主!絵になるじゃないか〜。ルト、早くそのポンコツ何とかしな!」
「ポンコツとは何だよ!これは始まりの書物から僕が作り出した、見た映像をそのまま絵に残すという画期的な物なんだからね!」
「動かないなら唯のポンコツさね。早くしないと、、、あ」
「………は、はははは。我が主様」
「……お前達は一体何をしているんだ」
ユグドラシルちゃんの後ろでコソコソしている不審者三人。私、この笑顔は守りたくありません。
レイラさんとルトさんがアゼルさんを弾き飛ばし猛ダッシュでこちらに来ると潤んだ目で捲し立てました。
「キャーキャー!我が主様ーっ!!会いたかったです!!夢でも幻でもないホ、ン、モ、ノー!!」
「200年も出て来ないなんて酷いですよ〜。もうちょっと遅かったら沈黙の森に悪意の無い森林火災が起こるところだったんですよ〜」
おいコラ。
可愛く首を傾げても言っている事は物騒極まりないです。
ああ、200年前の悪夢が蘇ります。何処までも背後霊のように引っ付き、私が興味を持った物や生き物を裏で排除し我が道をゆく。それぞれが息を飲むほどのお美しい顔の持ち主ですがお腹の中は真っ黒。
ついに私が引きこもりになった原因達が勢ぞろいしてしまいました。
イベント中なので制裁は後回しです。頭を抱えたいのをグッと我慢して一つだけ今、絶対にしなければいけない事がありました。
「…アゼル」
「…我が主、様?」
今、私は微笑んでいるのでしょう。自分でも分かります。
貴方に会いたかったですよ。私は両手をアゼルさんに差し出します。
「ちょっ!?リンちゃん!?っておい!てめぇ、ガイラル邪魔だ!離しやがれ!」
「我が主様が汚れる〜っ!ルト、アンタ邪魔だよ、そこを退きな!」
「落ち着けセシリード、レイラ。我が主の米神をよく見てみろ」
「本当、ルビードラゴンは頭に血が上りやすいよね〜」
後ろで何やら言い争う声が聞こえてきますが、今の私はアゼルさんしか見えません。会いたかった、会いたかった、会いたかったんです!
アゼルさんに近づくと素早く背後から彼の左足に自分の左足をからめるようにし、自分の左腕を首の後ろに巻きつけ、蔦が絡むような体勢をとると一気に力を込め締め上げます。
背中や腰、首など上半身を痛めつける技で、これが決まると呼吸も苦しくなる技、コブラツイスト別名アバラ折り。
バキバキボキッ
悲鳴と異音が聞こえて来た様な気がしますが気の所為です。ええ、気の所為です。大事なので二回言いましたが。
人が描いた似顔絵を公衆の面前に晒して笑い者にした怨みは深いのですよ。乙女の心は傷付きました。コノウラミハラサデオクベキカ、です。
お仕置き場面が書いていて一番楽しかったです。(笑)




