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再会は突然に

本編に沿っていますがちょっとだけ脇道番外編です。


「騒がしい。鬱陶しい。全員消えてくれないでしょうか」



目にかかる前髪をかき上げ苛立たしげに呟いた。

彼の名はアゼル。今は仮初めの姿だが本来は他人が跪くほどの圧倒的クール系美形だ。腰まで届く艶やかなシルバーグリーンの髪を靡かせながら歩く姿見たさに、城内では廊下や彼の部屋の前は連日メイドや貴族達の通行量が他の場所とは段違いな程多い。

この国の守護竜でもある彼は本来なら静かに王族席で観戦する立場だが、彼の唯一の王が宝箱を用意すると聞き全ての仕事を放り出し、または押し付け、更にバレないよう姿を変え偽名で参加者入りした一途な粘着気質気味の、ある意味清々しい程にブレがない男でもある。

流れるように洗練された仕草を間近で見た女性達が頬を染め熱い眼差しを送っているが、彼は一瞥もせず足早に歩き去った。




苛立ちを滲ませている原因はただ一つ。彼の至高の存在である王が用意した宝箱が見つからないからだ。

本来なら殲滅魔法とまではいかないものの、参加者全員を行動不能にしゆっくり捜索したいところだが、このイベントは彼の王が提案、企画をしている。万が一にも自分のせいで失敗などに成れば、彼はスライディング土下座をした後にリンの姿を目に焼き付けながら首を括るか身投げをし詫びる算段だが、引く。思いっきり引く。

因みにこれは《自分の死に様考察》によるパターンGでパターンAはリンのふくよ……ささやかな胸に包まれながら事切れる、というものから様々あるが、これをリンが知ればパターン以外の死に方になるだろう。





しかし見つからない。まだ三個しか宝箱を発見していないのも苛立ちを増加させている。一つは有名な画家の絵。大空に鳥が羽ばたき今にも額縁から飛び出してきそうな躍動感あふれるものだが、彼には何の価値も無いのでそのまま放置してきた。もう一つは一週間の休暇。これはいろいろと有効活用出来そうなので先程のマル秘観察日記と共に懐にしまってある。


本来なら真っ先に自分が用意した宝箱に向かうのだが、それを妨害したのが何を隠そう補佐官のサリアだ。規定では出展者自ら宝箱を隠す決まりなのだが、サリアはさっさとアゼルにも分からないよう何処かに隠し、いい仕事をして来ました、と言わんばかりの清々しい笑顔に一瞬本気で殺意が湧いた。アゼルが参加するのも、真っ先に自分の宝箱をとりかえすうと予測している辺りも、サリアが読心術を使えると言われても驚かない自信がある。サリアに言わせれば子供でも分かります、バレバレです、とでも答えるだろうが。





「ーーーッ!」


先を急ぐアゼルの頭上に殺気を感じた瞬間、上を振り向きもせず咄嗟に大きく横へと飛んだ。ーー刹那。



ドゴオオォォンッッ!!



破壊音と共に細かい破片が辺りに散乱する。

パラパラと降り注ぐ中、そこにはくるぶしまで地面に足をめり込まる蹴りを放ったエキゾチックな美女がいた。褐色の肌にメリハリのあるグラマラスな身体、茶色混じりの朱色の髪の髪を靡かせながら、ギラギラ迫力のある笑みは思わず見惚れてしまう程のものだが、誰もナンパする度胸はないだろう。何せその笑みは獲物を狙う肉食獣そのものだったのだから。



「…久しぶりの挨拶がそれですか?相変わらずの野蛮ぶりで安心しました」


「アンタも大概だね。まあ、デスクワークばっかりで体が鈍ってるんじゃないかと思ったけどいい逃げっぷりだったねー」


「ええお陰様で。同僚に暴力的な女性が居たもので、逃げ足が早くなりました」


「そのセリフは一度でも殴られた奴が言うもんだよ!」



拳を震わせて怒鳴るレイラ。

昔からアゼルとルト、たまにガイラルの無神経発言(無自覚と確信犯と唐変木)でキレまくり、喧嘩になる事が多いがアゼルのスカした顔を一度も殴れていない事が体術を得意とするレイラを苛立たせている。

更に逆なでするかの様にアゼルが呆れながら肩を竦めた。



「無抵抗の人を殴りたいなんて怖いですね。まるで美しい鳥に襲いかかる凶暴なジュオンのようです」



「あーーっ!本っ当にムカつく男だね!!アンタは!今からでも遅くは無いからそのツラボコボコにさせなっ!」



元々そんなに気が長い方では無いレイラが早速ブチ切れ地面を蹴り上げた。アゼルの威嚇射撃は予測の範囲内だったので慌てず前方に防御陣を展開し弾き飛ばし、そのまま詰め寄ると右フックを叩き込む。あっさりとかわされたが、その勢いのまま身体を捻り蹴りを放てば今度は銃のグリップで止められた。



「やるじゃないかい?だけど詰めが甘いよっ!」



左手を突き上げる形で得意の炎の魔法を叩きつけると、グリップで足を払い除け、高く飛び上がり回避したアゼルにレイラの口に笑みが浮かんだ。まるで罠に獲物が掛かったかのような様子を訝る暇もなく頭上に気配が一つ。咄嗟に振り向くと、藤色の髪の青年に姿を変えたルトが屋根から落ちながら武器を振りかぶりアゼルへと襲いかかる姿だった。

下にはレイラ、上にはルト、完全な挟み撃ち。ルトは罠に掛かったアゼルを嘲笑ってやろうと口元を上げようとした表情が驚愕に変わった。


アゼルは左手をルトに向けると空間魔法からもう一丁黒いの銃を出現させた。

その間、僅か一秒。


次の瞬間、二人に向けた銃口から魔弾が連射された。




「ちょっ!?うそーーーっ!?」



レイラは大きく飛び退き、空中にいたルトはバランスがとれず捌けるものは武器で打ち落とし、避けきれないものは直接手で払いながら地面へと着地した。払った腕の方は一部アメシストの鱗が光に反射し神秘的な色合いを醸し出している。

ルトはアゼルに詰め寄るとまくし立て始めた。

先ほどの不意打ちに、まだ鼓動が激しい。別に当たったところで鱗に弾かれ死にはしないが、それとこれとは話が別だ。聖銃を持っているのは知っていたがまさかの二丁銃。

見慣れたシルバーと対をなす黒いメタリックな光沢に同じ細やかな細工が施された美しいフォルム。二つで一対のシルバーとメタリックブラックの聖銃だ。




「二丁銃とは恐れ入ったね。全く何百年も共にした仲間にも手の内を明かさないなんてどういう了見だい?」


「切り札は取っておくものです」


「酷いよ!仲間だと思ってたのは僕たちだけなの!?」


「貴方達の言う仲間が、頭を潰そうとしたり騙し討ちをする関係なら謹んで遠慮しますよ」



正論だ。

誰もそんな命がけの仲間など欲しくはないだろう。

あまり銃の事を追求されたくないのかアゼルが二人に問いかけた。



「しかし、やはり貴方達も参加していましたか」


「あったり前だよ。我が主様自らが宝箱を用意したんだよ?価値の分からない人間なんかに渡るなんて考えただけでも虫唾が走……コホコホ、嫌な気分になるよ」


「姿は見えませんがガイラルも参加しているんでしょうね」


「それこそ愚問だねぇ。アタシ的にはすっっごく不本意だけど、考えることは皆同じさね」



全員が不本意と思っているだろうが、性格がバラバラの彼らだが、王に関する事のみシンクロ率は120%を超える事から、他のドラゴン達から陰で “ 魂の四つ子 ” 、と囁かれていることを彼らは知らない。





「でもほのぼのお気楽宝探しゲームと思ってたら、こんなワクワクするエキサイティングなゲームを考えつくなんて、本当に我が主は素晴らしいお方だねぇ」



レイラが頬に手を当て頬を染める姿は恋する乙女そのもので、観戦者から同じ種類のため息が漏れる。

暫し三人が同じ思いを馳せ、うっとりする彼らの頭の中はキラキラ輝いているリンが、“お前は私の自慢の部下だ”、“ずっと私を守ってくれ”、だの微笑みながら言っている都合の良い脳内変換は彼らの通常仕様だ。





「……その我が主を独り占めしてる裏切り者がいるよね?」


「……裏切り者には死を!がアタシ達のモットーだからねぇ?……アゼル覚悟しな」




ふっと、どす黒い空気を醸し出しながら、拳を突き出し構えるレイラが地面を踏みしめ、三節棍を構えるルトが腕に力を込め、聖銃に次弾の魔力を装填し終えたアゼルが二人に銃口を向けた時、第三者の声が聞こえて来た。




「ち、ちょっと待って下さい!!宝箱を獲得する以外の争いは、ご、ごご法度ですよ!!」



誰かからの通報でもあったのか、監視員が息を切らせて走って来る姿に守護竜達は妙なところで感心した。

一人が呼吸困難に、騎士団長の顔が青ざめた以上の殺気の中、自分の職務を全うしようとする彼は正しく監視員の鏡とも言えよう。例え足がガクガクと震えていても。



「えー?でも宝箱、あるよ?」


「……………は?」


ルトが指差す方向に今まで無かった筈の宝箱がどーんっと存在を主張しているが、宝箱の位置が記載されている丸秘リストを見ても何処にも載っていないことに首を傾げる中、三人は再び対峙した。



「……空間魔法で持ってくるとは卑怯ですよ」


「えー?さっき僕が見つけた宝箱だよ?それって僕の物でしょ?金貨入りで重たいから要らな……置いてきたけど、やっぱり持ち歩こうと、たまたまここに持ってきただけだもーん」


「ナイスだよ、ルト。…さてアゼル。これで戦う理由は出来たねぇ?」





溜め息を吐きながらアゼルは銃のグリップを握り直した。



長い戦いになりそうだ。






ジルが散々苦労したアゼルの宝箱に設置した罠はサリアさんが仕掛けていました。(^_^)


アゼルの見つけた宝箱は三つだったので加筆修正しています。m(__)m

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