開始の合図は突然に
会場内は集まった参加者と観戦者との熱気でヒートアップしています。
逞しい男性が多い中、チラホラ女性も混じっていますね。この国には戦うメイドさんはいますが女性騎士はいませんのでギルドの方でしょうか?因みに騎士団、魔法師団の隊員達は私服で出場しています。地位も遠慮もなく本日は無礼講なのですよ。
ザワザワとした会場内の雰囲気は、年に二回ある某祭典みたいで懐かしいです。
流石に国王様のスピーチには静かにしていましたが、終わるとまたザワザワ。学生さんみたいな感じは嫌いではありません。
次に出てきたのは司会進行役のサリーさん。このイベントの主旨とルール説明を進めていくと、学生さんばりにザワザワしていた会場が、違反者の罰則に移るとだんだん音量が下がっていき最後には物音一つたちません。皆さん白い顔や青い顔色をしながら黙られ、中には横にいた知り合いと距離をとる人、小刻みに震える人達もチラホラと。
葬式中に心霊現象が起こったかの様な怯える雰囲気の中で、次にほんの一部だけ宝箱のリストを挙げていきます。
サリーさんの飴と鞭の使い分けが絶妙ですが、これは参加者のヤル気を上げる為と提供者自らが希望した為ですが何故中身を教えたいのでしょうか?
「では次に一部だけですが中身のご紹介を致します。
金貨。エメラルドとダイヤモンドの首飾り。一週間の休暇、これは国が保証しますので全ての職種において公認です。冒険者の方々は自由業ですので一週間働いた分の金額が支給されます。………セシリード団長、貴方からの提供もありますが基本、参加者からは認めておりませんがいつの間に?」
「他意はありません。単純にゲームを盛り上げる為に提供しただけですから」
「盛り上げる?……これは…マル秘観察日記?」
訝しげな顔でリストを読み上げましたが、何ですか?朝顔観察日記みたいなものは?
夏休みの宿題を思い出しているとざわめきが大きくなりました。あそこの一画は隊員さん達?何なのでしょう?
「おい。もしかして、あれって」
「……間違いない。前団長達を廃人寸前まで追い込み退任させるに至った、セシリード団長の恐怖の隊員個人情報集だ」
「何だと!?あれが?本当に存在したのか!?」
「セシリード団長が入隊した時から今に至るまで、国の諜報部が足元にも及ばない程詳細に書かれた隊員全員のプライベートが全て書かれているハズだ……マズイ」
「何でそんなものを個人が。団長が諜報部に勧誘されているという噂は本当だったのか!?」
「じゃあ何か!?隊員以外の奴らが手に入れたりなんかしたら………ギャー!!俺達のあんな事やこんな事が世間に晒されるのか!?」
「身の破滅だ…団長アンタ鬼ですか!?僕達のプライバシーは!?訴えてやる!!」
「鬼!悪魔!ああ俺のミリアンヌちゃんがー!!」
「俺は断じて恋愛小説なんか書いていないぞぉぉー!」
「ぬいぐるみなんてワシは知らん!」
「喧しいわよーアンタ達。文句有るなら自分達が手に入れればいいじゃない。頑張ってね、応援してるわぁ」
「「「 アンタが言うな!! 」」」
別の意味で盛り上がってきました。
隊員達に同情の目が集まる中、サリーさんは我関せず、と進行は淡々と進みます。
「さて次は似顔絵、です」
「!!似顔絵、だと?…少し前に似顔絵が話題になっていたな」
「……まさかあの漆黒の二頭身天使?各国の守護竜様と一部の人間のみが所有すると言われる、あの?」
「その姿は全ての人間を魅力し、その衝撃は城の機能を一時ストップさせたと聞くぞ」
???何か絶世の美女の似顔絵ですか?あ、二頭身と言ってましたから違いますか…話題になっていたなんて知りませんでした。
「次は、この大会一番の宝、…………………」
あの冷静沈着なサリーさんが固まりギギギギギギ、と人形の様に軋む音を立てながら私の方を向きました。えへ♫ 何にも思い浮かばなかったのでユグドラシルちゃんの言っていた希少価値のある物にしてみましたが、やっぱりアレはマズかったですか?駄目?駄目ですか?
サリーさんは動揺を押し隠し、ため息をつくと世界中、守護竜様さえも欲しがる宝です。とだけ言いました。ご承認ありがとうございます。
会場内からいろんな憶測が飛び交う中でロウカ王子が壇上に立つとざわめきは収まっていきます。
彼が微笑むとお嬢様方からため息が漏れます。流石は次期国王様。そう言えばあのお店、ロウカ王子の絵姿もあったような?
「では開始の合図をする前に私からヒントを差し上げます。
この会場内にある皆様から見て左、大きな木の板が置かれている後ろに宝箱の一つに至るヒントが隠されています。宝探しは暗号が付きもの。皆様童心に帰ってお楽しみ下さい」
「つまり王子が用意した宝箱が置かれている、と」
「午前中の部であった船の模型、あれはプレミア物で金貨50枚以上の価値があるらしいぞ」
「子供にそれか。じゃメインの今回はそれ以上のお宝か……いや、俺達には団長のマル秘観察日記を見つけるという使命があるんだ」
「……ちょっと待て。確かに王子は宝箱の在り処を示すヒントだと言ったが一言も自分のだとは言っていないぜ……つまり団長の物の可能性が有る!」
周囲の者たちが “ おおー!! ” “探偵みたいに冴えてるな! ” と尊敬の眼差しで賞賛しています。
「そうだ。しかし違うかも知れない。あの人達は俺達の想像を遥かに超える。特に人を嵌める事に関しては天才的だ。そしてあらゆる可能性を考えれば俺達は全ての宝箱を見つける必要がある!
皆は一人の為に、一人は皆の為に!俺達の尊厳の為にやるぞー!!」
「「「 おおーーっ!!! 」」
ダイス隊長の掛け声の元、スポ根のノリでガッツポーズです。敵は身内ですか。
さあ、始まります!
ロウカ王子の開始の合図と共に大半の方々がヒントに向かって猛ダッシュ。
先頭が勢い良く板を外すと、壁に紙が貼っておりそこに書かれていたのはーー。
東
二代前と三代前の竜王様の亡くなった時の年齢を掛け合わせた数。
西
4時間36分を秒になおした数
南
この国と北のスノーダリアを流れる川、レヒダット川の長さと世界で四番目に長い川の長さを足した数。
北
守護竜アゼルのファンクラブ会員数は?
それぞれ数字を出し終えたら、東西南北の順に道沿いにその数の歩数を歩く。辿り着いた場所に次のヒントが隠されている。
……悲鳴と怒号が飛び交うこの状態で童心に帰れ、と?




