相談事は突然に
「ーーーと言う訳で、リンさん何かいいアイディアはありませんか?」
それはロウカ王子の相談から始まりました。
曰く。暇、いえ国民との交流を深める為に国主催で何か面白いイベントをしたい、と。(……この人絶対に暇って言いましたよね?)
厄介なイベント事に外側は竜王、中身は一般人の私を巻き込まないで下さい。
小市民の私にはお断りする勇気もなく、取り敢えず定番の武術大会は?と聞いたところ、ロウカ王子は顔を曇らせ数年前にルトさんが守護する東の国、ナウノドールで開催された武術大会。そこであった事件を話してくれました。
トーナメント形式でその時には国の騎士や魔法使い、ギルドの冒険者の他、一般人も参加可能だったのですが、何と並み居る国の騎士や魔法使いを押し退け一般人が鼻歌交じりで優勝したとか。
……さぞかし皆様のプライドがズタボロに、と内心ハンカチで涙を拭ってたのですが、その一般人の正体は何とお祭り大好きセシルさん。身分を隠し一般人枠で参加した上、それがばれて周りは大慌て。こちらシャリーズ国もまさか自国の騎士が休暇を取って他国で暴れているとは梅雨知らず、いきなりナウノドールから苦情が殺到しロウカ王子が顔を曇らせる程事後処理が大変だったそうです。
国家間の問題にまで発展しなかったのはまあ、セシルさんが騎士団長とはいえナウノドールの騎士達が手も足も出なかったのですから外聞も悪いというところでしょうか。
そんな理由から向こうへの遠慮もあり、武術大会はここ数年は開催を見送られてきたのですが、でもやっぱり見たい。
似たようなものか、もしくは開催しても角が立たないアイディアはありませんかと問われたのですが。
ふむ、難しいですね。一番近いのはスポーツ大会ですがルールや道具の準備も大変ですし、どうせならもっと簡単に楽しめるイベントをしたいですよね。
む〜〜、む〜。むむ〜〜。あ。
「宝探しゲームはどうだ?」
「宝探しゲーム、ですか?」
ピンと来ないようですね。
我ながら良いアイデアです。これならロウカ王子の要望もクリア出来ますし、見てる方も楽しいと思いますよ。
何よりゲームの文字が付くと途端に緩くなる感じが気楽です。
「決められた範囲内にこちら側が用意した宝物を隠すんだ。中身は金貨や宝石、お菓子や本、何でもあり、ダミーの宝箱もいいな」
「ふふ、散々苦労して見つけた宝箱の中にはハズレの紙きれ一枚ですか。……いいですね、流石はリンさん、見事な心理的ダメージです。想像するだけで楽しくなってきました」
………?ゴシゴシ。……あれぇ?何時もの優しい笑顔なのに何故真っ黒に見えるのでしょうか?
ロウカ王子、これは皆さんがドキドキワクワク楽しむゲームであって罠に嵌めるイベントではないのですが。
「ま、まあ、中身は後から考えるとして場所とルール決めだな」
「そうですね。ただ場所に関しては闘技場の様に全体が見えないので何かしらの工夫が必要ですね」
「それは大丈夫だ。その場に居ながら幾つかの場所を同時に見れる方法がある。
そうだな…闘技場をメイン会場としてそこに映し出すか」
この魔法、風や水の他にメインは禁呪指定の空間魔法なのですが、娯楽目的なので良しとしましょう。うん。
簡単に言えば見たい場所に配置した精霊ちゃん達協力の元、テレビカメラマンさん代わりになった精霊ちゃん達と私が魔法でリンクし水と風を使い会場に映し出すのです。地球にもある水のスクリーンという訳ですがそこは魔法を使いますので映像はこちらの方が鮮明で液晶テレビにも負けませんよ。
臨場感を体験したいのならば現場へゆっくり見たい方は闘技場へ。
残念ながら魔法を維持しないといけないので私はメイン会場組ですね。
「それは凄いですね、ならば宝箱は広範囲に設置出来ます。となると残るはルール決めですか。私の意見としては面倒な…いえ武術大会と同じく団体より個人での出場が好ましいですね。リオ殿、ジル、ダンジュ、貴方方は何かありませんか?」
「んー、宝箱は見つけた者の自由ですよね?中身が気に入れば他の奴との宝箱と交換するも良し、気に入らなければ放置も良しとして、何人かが同時に見つけた場合はどうするんですか?」
ジルさんが最もな疑問を尋ねるとロウカ王子様は聖母の様なそれはそれはお美しい笑顔でそれが醍醐味の一つですよ、とお答えになられました。
それが武術大会の代わりで勝ち抜き戦になるのだと。つまり生き残った者が勝者。知力体力時の運、全てが揃ったゲームになりそうです。
そこへダンジュさんが、一言。
「しかし、それでは非力な自分達魔法使いは不利です」
「 「 「…………………… 」 」 」
「あ、ダンジュさんみたいな魔法使いさん達は魔法しか使えませんから危ないのですね」
「そうですリオ様、しかも体力も無く接近戦にも弱い。武術大会の様な個人戦はともかく数名相手では何かハンデがないと厳しいと思われます」
「 「 「…………………… 」 」 」
普通はそうでしょうがダンジュさんが言うとその、違和感ありまくりですね。この間、薬草採取の為に森に入った時に木の上から飛び掛かって来た魔獣を素手で殴り飛ばしてませんでしたか?…そうですか非力で接近戦にも弱いですか……。
「まあ、それも後ほど決めるとして、個人戦と言っても宝欲しさに結託する者も出て来るかもしれないな。何か罰則を決めておかねばな」
「それは重い罰則にしなければなりませんね……そうですね。例えば全ての権利を剥奪し国外永久追放の上、結託する程お仲間が好きならば一緒に二ヶ月程無人島にでも放り込みましょうか?私も悪魔ではありませんので、一ヶ月分の飲み水ぐらいは付けますよ。…ふむ、罰としては軽いでしょうか?」
「(重過ぎるだろうが!)…………あ〜、その王子?個人的な疑問なんですが、そいつら残り一ヶ月の水は?それにその島獲物いるんですか?」
「はい!僕この前クルークルー漂流記を読んだから知ってます。ご飯は食べ放題ですし、困った事が起きても知恵と友情で乗り越えるんです!だから大丈夫です!」
元気良く答えてくれたリオ君の頭を撫でながらロウカ王子が正解です、と言いましたが、ちょっと待ちましょう。
この前寝物語にリオ君に読んだクルークルー漂流記は、船が難破して主人公が一人だけ無人島に流れ着くのですが、お腹が空けば仲良しになった精霊ちゃん達が飲み水や果物を持ってきてくれて、ついでに住む洞窟まで用意してくれて。釣りをすれば大漁、森に入れば狩り放題。何か食べたいと思ったら似たような植物が自生し、衣類はたまたま持っていた裁縫道具とたまたま島に生えていた柔らかい葉で服や下着を作り、たまたま島に流れ着いた鍋で煮炊きをし、最後はドラゴンの背に乗り国に帰り英雄扱いになるという、ほぼ苦労無しのご都合主義なバカンス物語でしたよね?
リオ君、本を基準にしてはいけません。
ロウカ王子様、間違いは正して下さい。




