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幕間は突然に ⑨

遅くなりました。m(_ _)m

リアルが忙しくなってきました。(・_・;

城内がお祭り騒ぎの中、勝手知ったる何とやら、セシリードは会場からくすねたワイン片手に鼻歌交じりで城内を歩いて行く。

奥まった扉の前、アゼルの部屋の前まで来るとノックと同時に扉を開けた。



「アゼル〜、居る?」


「……セシリード、それではノックの意味がありませんよ」


「いーの、いーの、細かい事は気にしなーい」


アゼルは作業の手を止めて、ため息をつく。他の者なら叩き出しているが、セシリードとはそれなりの付き合いだ。


「…はぁ。大体何故、本日の主役がここに居るのです?」



本来ならこの場にいることはあり得ないのだが、一応主だった貴族達の面倒な挨拶は終えている上に、途中から修繕費だの前回は東の建物が全壊して泣きそうになっただの絡み酒になったので早々に退散したが、飲み足りなかったのでこうしてワイン持参で訪れたのだ。


「なかなか良いワインですがグラスは?」


「そんなもの直飲みに決まってるじゃない。因みに国王専用のワインだから味は保証付きよ」


セシリードは中性的な美貌と女性的な言葉使いで誤解されがちだが、本人は漢気溢れる豪快な性格の持ち主だ。



「貴方が飲んだものに口を付けたくはありません」


キッパリはっきり言い切ると何もない空間からワイングラスを出した。


「相変わらず凄い魔法よね〜。地味過ぎて気づきにくいけど。

それよりココ、まだ鱗が残ってるわよ」


褒めているのか貶しているのか分からない感想を言い、セシリードがワインをつぎながら腕を指差すと、グラスを取る時に袖がめくれ腕に一部緑色の鱗が覗いている。

アゼルとは長い付き合いだが、彼があんなに怒りの感情を表していた事に内心驚いていた。昔は氷の守護竜と呼ばれる程、冷静沈着そのものだった男が竜王が側にいるだけでこんなにも変わるとは。



「ああ、私とした事が。人化が解けかかるなんて久々……いえ、数ヶ月前にもありましたね」


「数ヶ月前?何かあったの?」


「ダイス達が起こした事件の会議の席で我が主様を侮辱した上級貴族おろかものがいたんですよ。

その時に少し。気が付いたのは国王あれだけでしたが」



馬鹿だ。馬鹿だろう、その貴族。

よりにも寄ってアゼルの目の前で彼の王を貶めるなんて。殺して下さいと懇願するような陰険な報復をされた上で間違い無く潰されているだろう。

となると、今回も。



「リンちゃんに絡んでいたお嬢様達は五人居たから、今回は五つの家が潰されるワケね」


「いいえ、今回は放置します」


あっさり言ったアゼルの顔を、セシリードは信じられないものを見たような顔をした。放置?何を企んでいるのか?



「……何ですかその顔は?本当ですよ。私が手を出す前に家が彼女達を切り捨てましたから。

先程、子飼いの者達からの報告で我が主様の正体を知らずとも、私の怒りを恐れたのか会場を早々に引き上げ、修道院に放り込む手続きをとっているようですよ。明日の朝には出発するんじゃないですか?

まあ、貴族らしい判断ですね」


「…あんた一体数ヶ月前に何したのよ…」


「知りたいですか?」


ニッコリと微笑むアゼルに、間違い無く竜王の部下だと再認識する。リンが二人を止めた時の笑い方にそっくりだ。


城下町で初めて見た時には単に彼女に纏わり付く精霊の数に驚き興味本位で声をかけただけだったが、漆黒を纏った美人さんが竜王だという事にまた驚いた。

話してみると気さくで気取らず、無表情に見えるが目が感情豊かで面白い。緑茶を語る時は目がキラキラしていたり、お嬢様達に囲まれている時には無表情に食事を食べ続けながらも、困惑した目をしていたので余計なお世話かと思いつつ声を掛けてしまった。

本人は淡々としつつも、お嬢様達を咎めもせず逆に殺気を飛ばすアゼルを目で諌める器の大きさだ。

アゼルの怒りに気付かなかった彼女らはある意味幸せだろう。ツケは自分で払う事になったが。







「セシリード、忘れていましたがレイラに会えましたか?」



ちょうど三本目を開けたところでアゼルが聞いて来た。

アゼル秘蔵のワインを水を飲むかのようにスイスイ口に運んでいた手が止まる。セシリードは苦笑しながら、ええ、と答えた。



「やっぱりあんたの見たて通りあたしの遠いご先祖様にドラゴンの血が入っているそうよ。予想通りルビードラゴンだったわ。レイラのお墨付き。

もう亡くなってるけど、1500年以上前に人間と番ったメスがいたらしいから多分そのドラゴンが遠〜い、あたしのお婆ちゃんかも知れない、ってだけ分かったわ」



幼い頃から自分が他の人とは違うと感じていた。自分は人間ではないのか?その疑問は年々強くなりながらも日々を過ごしていた時にアゼルに会った。そして、 “おや?貴方ドラゴンとのハーフですか? ” その一言で長年の疑問が氷解した。本人に言うつもりは無いが感謝している。アゼルの何気ない一言で救われたのは確かな事だったから。


先祖返りらしいが、力だけで姿も寿命も人間のままだが、潜在能力は本家のドラゴン達と引けは取らない。そのメスは余程力が強かったか、もしくは守護竜だったのかも知れない。



「唯の人間が私達と張り合える方がおかしいんです。桁外れの体力に魔力。その上火の魔法が得意で、粗野で粗暴、短気で無鉄砲なんてルビードラゴンの特徴そのものではありませんか」



「……あんたレイラにチクるわよ」



半年前に会った南の守護竜。ルビードラゴンのレイラはルビーの宝石のごとく巻き毛の真っ赤な髪と抜群のスタイルを持つゴージャス美人だ。姉御、お姉様と慕われる人物だが一度キレるとあたり一帯を破壊するまで止まらないパワフル姉御だ。



「何にせよまた一人、我が主様の下僕が出来たのは良い事です」


「…あたしの存在価値って」


「他に何か?第一、貴方もルビードラゴンの血が入っているのなら我が主様の為に死になさい、寧ろ死ね」


「あんた、一体あたしに何させるつもりよ!?」


「きな臭くなって来ましたので、近く我が主様のごえいにするつもりですよ。光栄に思いなさい」



キラキラと背後に後光が差すかの慈愛の微笑みで言い切った。

アゼルとはそれなりに友好を深めていたと思っていたが、竜王様至上主義は1ミリもブレがない。

友人?を大切な王の護衛に任せる程には信頼しているのか、肉の壁程度の価値しか見出していないのか微妙なところだ。



意趣返しではないが思い付いた意地の悪い質問をしてみた。

勝手に想像でもして半泣きにでもなってしまえ。



「そんなに依存して〜。変な話、リンちゃんが先に死んでしまったらどうなる事やら」


「決まっていますよ。

勿論、我が主様の後を追いますよ」



「………は?」



思わずワインを飲む手が止まる。

アゼルは今、何と言った?



「疑問に思いませんでしたか?

私達種族は世界の頂点に君臨しています。強靭な肉体と精神、力、長寿。卵も一組の番いに一つと決まっていませんし、何回も産めるのですよ?なのに長い歴史の中で数が一定化している現状を」


「……考えた事もなかったわ」


「竜王様が亡くなると守護竜は勿論のこと、全ての一族が一斉に卵を産み…ベビーラッシュと言うんでしたか?その後、彼らも後を追います」


「はああぁぁぁ???」


「流石に卵を放っておく訳にはいきませんので、数名が保護者として卵を育て孵化し、成長したのを見届けると後は子守役が最後です」


「………イかれてるわ」


「そうですか?まあ、種族の価値観の違いですが、私達は幸せですよ。

我が主様と同じ時代ときを生き、共に死ぬことが出来るのですから。竜王様のいない時代の同胞達は悲惨なものでしょうね、存在価値いきるりゆうが無いのですから」


「イかれているのは、あんたやレイラ達守護竜だけだと思ってたら、竜種自体がそうだったなんて、夢が崩れそう。

それって竜王様りんちゃんは知ってるの?」



それには答えず意味ありげに微笑む。想像だが歴代の竜王達は自分達が亡くなった後の事は知らずにいるのだろう。

竜種自体が秘匿にし、王でさえも欺く。しかも自分達が共に死ぬための秘密。先程の話ではないが竜種の腹黒さにイメージがガラガラ音を立てて崩壊してゆく。


実際、絵本や物語に出てくるドラゴン、とりわけ守護竜に憧れを抱いて国に携わる仕事を希望する者は後を絶たない。

此処だけの話だがセシリードも幼い頃憧れた者の一人だ。絵本で見るドラゴンは魔獣を退治し、精霊と空を飛び、あらゆる悪者を退治する英雄で、純粋に憧れた時期はあった。ただ実物を知った後では黒歴史に成り果てたが。




「頭痛いわ〜、あんたと話してると、欠片で残ってた夢まで粉砕されそうよ」


レイラといいアゼルといい人の憧れをバキバキとへし折ってくれる。


「おや?酔いが回ってきましたか?」


「…そうね〜、明日から忙しいしそろそろ寝るわ。あ、この飲みかけのボトル貰って帰るわね」


「いいですが、そのワインは100年前の特級品ですよ?それに見合った働きを期待していいんですよね」


「勿論〜。んじゃ、おやすみ〜」




セシリードは特級ワインを振りながらもと来た道を帰って行った。

彼を見送ると、アゼルは先程中断していたマイコレクションの整理を至福の表情で再開した。







次は日記公開と前から書きたかったギャグ満載の話の予定です。


恐れ多くもこの作品のイラストを描いて頂きました。詳しくは活動報告まで。

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