歓迎会は突然に②
今回は少しだけ長めです。(当サイト比)
背後霊のようにピッタリと離れなかったアゼルさんを政治的な話があるからと引っ張って行ってくれた何処ぞの貴族様、感謝致します。
ギリギリ歯軋りをしながら着いて行くアゼルさんが印象的でした。
ジルさんが隊員に呼ばれ席を外し、リオ君がお手洗い、私を一人にする事に渋りましたがダンジュさんが付き添いで。三人がいなくなり一人でクリームコロッケを食べながらほんわか幸せを感じていると、いつの間にか横に来ていた孔雀軍団の話し声が聞こえて来ました。
「皆様はご存じ?最近王宮に黒い貧相な鳥が住み着いたそうよ」
「ええ、存じておりますわ。
真っ黒な鳥でしょう?何でもアゼル様自ら面倒を見ているとか」
「図々しくもアゼル様だけではなく副隊長のジル様とダンジュ様まで面倒を見ているらしいですわ。お忙しい方々なのに町や外にまで引き連れてワガママで振り回すなんて、身の程知らずにも程がありますわね」
ほほう?アゼルさんが鳥を飼っているのですか。ジルさんとダンジュさんもそれに巻き込まれて飼育を手伝っていると?昔ハムスターは飼っていたのですが、鳥は飼った事は無いんですよね〜。
友人家のメタボインコが可愛いやら羨ましいやら。家の中を飛んでいる途中で力尽きてベッドの上に、ぼてっと落ちるのですよ。あのくらい可愛いインコなら嬉しいですが、今度見せてもらいましょう。
アゼルさんが甲斐甲斐しく面倒を見ている姿は想像できませんが、面倒見のいい副隊長のお二人に任せていれば安心です。
しかし孔雀軍団がこちらを見ながら話してる気がしますが気の所為ですかね?
「その貧相な鳥、今日アゼル様とセシリード様に怪我を負わせたのですって。野蛮だわ、早く処分してしまえばいいのに」
メタボインコではなく、凶暴インコですか?あの二人に歯向かうなんてなかなか見所がある鳥ですね。ますます会いたくなりました。
“ 早く出て行けばいいのに ”
“ 何処がいいのか分からない ”
“ 愛想の欠片も無い”
等々、まあよくそんなに鳥に対して悪口が出て来ますね。呆れながらもご飯を食べる手は止まりませんよ。
む。このステーキはバーベキューソースが絶品ですが、一口が大きくて噛み切れませんね。モゴモゴモゴモゴモゴモゴ。
「ーー!ちょっと!貴女聞いていますの!?」
はい?
見ると孔雀軍団がこちらを睨みつけておりました。恐っ!
へ?私がステーキと格闘中(今も)に話し掛けてきたのですか?
ち、ちょっと待って下さい。口の中に肉が〜。流石に貴族様に口の中に物が入った状態で喋るのは失礼になると知ってますから、無くなるまで待って〜。(汗)
「まだ無視をしますの!わ、わたくしをベリー侯爵家の人間と知っての事ですの!?」
「そうですわ!無礼ですわ!わざわざ話し掛けて頂いているのに。わたくしはメーロン伯爵家の者です。他の皆様も平民の貴女より上なのですよ!」
ベリーとメロン、美味しそうな名前です。
ではなくて!この場をどうにかしてもらおうと、辺りをキョロキョロ見回す私の仕草を茶化していると勘違いしたのか、赤い顔で睨みつけ手に持っている扇子が怒りでプルプル震えてますが、向こうにいる国王様が青い顔の涙目でこちらを見ており手に持っているグラスが動揺でプルプル震えてますが、何故?
仕方ありません、困った時のアゼルさんは………おいおい、今から勇者に止めを刺すぞ的な邪悪な笑みを浮かべていませんか!?殺る気満々!?しかも怒りで人化の魔法が解けかかっているのか腕や顔の一部に緑色の鱗が……。ひ〜っ!?お祝いの席で血の雨!?だ、誰か止めて……。
あ、アゼルさんの後ろで気づきませんでしたが、ジルさんと隊員数名で必死で止めていました。グッジョブですジルさんと隊員さん達!そのまま抑えて下さい!
アゼルさんと視線を合わせて血の雨は止めて下さい、とお願いしたのですが分かってくれました。よね?
漸く肉を食べ終わり、とりあえず孔雀達に声を掛けようとした時に天の助けが。
「あら〜?可愛いお嬢様達に怖い顔は似合わないわよ?」
「セ、セシリード様!?」
そこには本日の主役であるセシリードさんが立っていました。途端に群がり口々に黄色い声で話し掛ける孔雀軍団。そういえば、繁殖期になるとオスは大声で鳴きメスに求愛するんでしたっけ。…孔雀にも負けない求愛行動ですが、セシリードさん。上手くあしらっていますが口元が引きつっていらっしゃいますよ。
貴族のお嬢様はもっとお淑やかだと思っていたのですが理想像が崩れて行きそうです…。
「ごめんなさいね、お嬢様達。とある上級貴族様がリンちゃんにご用事があるとかで、あたしが迎えに来たの。連れてってもいい?」
「…セシリード様を使いに出すなんてかなりの地位をお持ちの方ですのね。仕方ありません、宜しいですわ」
「待て、先ほど私に話とは…」
「さあさあ!上級貴族様をお待たせしてはなりませんわ!」
………何の話だったのか気にはなりますが関わり合いになりたくないのでセシルさんの後ろを歩いていますが、うう、背中に視線がビシバシと。
黙々と進み、ちょうど会場の死角になる場所まで来るとセシルさんがクルリと向き笑顔で話始めました。
「お疲れ様リンちゃん。大変だったわね」
「やはり助けてくれたのか。助かった、ありがとう。貴族関係はアゼルが抑えてくれていた筈だから呼び出しはおかしいと思っていたんだ」
「…アゼルも過保護よね〜。
でも気を付けてよ。ああいった連中は陰険でしつこいからどんな手を使って嫌がらせを…………する前に没落コースか修道院コースになってるか(ボソリ)」
「?すまない、最後が聞こえなかったのだが?」
「いいわ、気にしないでちょうだい」
???了解しました。
でも本当にセシルさんには感謝です。何かお礼をしたいのですが、と言ったところニンマリと笑って、じゃあ近くお願いしていい?と応えましたが、無理難題は却下致しますので悪しからず。
「護衛が側を離れてた時に災難だったわね。ジルの不幸体質は勿論だけど、ダンジュも間が悪いというかあれで抜けているとこあるから」
「あの真面目なダンジュが?」
「天然って言ってもいいわね。知らない?ダンジュの入隊試験秘話」
「何やら面白そうな話だな」
見つからないように二人でこっそりロールケーキやマカロン、チーズタルトやアイスティーを取って来て食べながら、ダンジュさんの入隊試験事件やシオル隊長さんの魔法実験暴発騒ぎ、アゼルさんVSサリーさんの書類騒動など、私が来る前の城の騒ぎを面白おかしく話してくれ、時間が経つのも忘れて聞き入ってました。
ふとリオ君の方を見るとダンジュさんの服の裾を掴みながら目をこすり船を漕いでいるのが見えます。思ったより時間が経っていたようですね。
事情を話しセシルさんと別れリオ君と一緒に部屋へと帰るはずだったのですが、何故私の隣にはロウカ王子がいらっしゃるのでしょうか?
ジルさんはアゼルさんの側にいるのでダンジュさんと部屋まで帰っていたのですが、何故かこの国の次期国王様がリオ君を抱えて部屋に向かってます。
「リンさん、どうしたのですか?」
「いや、王子が護衛とはおかしくないか?」
「そうですか?第二王子だったダイスは騎士ですし、他国にも冒険者になったり魔法使いに料理人、教師になった王族もいますよ。ですから私が護衛するのもおかしな事ではありませんよ」
そうなのでしょうか?
でも護衛任務付いていたダンジュさんを権力で脅す、いえ用事を押し付けるのは違うと思うのですよ。真面目なダンジュさんは王子に逆らう事も出来ず頼まれた用事を受け何処に行ってしまいましたが、部屋はもう目の前ですし、いいか。
扉の前でリオ君を受け取りベットに寝かせ、サラサラ髪を一撫でし、ロウカ王子をお見送りする為に戻ると優しい目をして見ていました。
「本当にお優しいですね。しかし少し妬けてしまいそうです。
リンさん、私にも少しだけその優しさを分けては頂けませんか?」
ち、ちょっと!?何かフェロモン出てません!?青い顔の国王様の後ろで、いつもニコニコ笑っている印象でしたが、………あれ?ユグドラシルちゃんの時もアゼルさんとセシルさんの喧嘩?の時や魔法使いの実験失敗による異臭騒ぎもニコニコしていた様な気がします……私、笑顔に騙されていましたか?
「おや?どうかしましたか?」
「い、いや別に」
「そうですか?」
近所の優しいお兄さんタイプだと思っていたのに実はロールキャベツ男子だったこの事実。って流し目は止めて下さい〜。(汗)
「リンさん、今度二人きりで食事をしませんか?城下町にお勧めの店がありまして、チーズとワインが楽しめる店なんです」
チーズ!大好きです。
でも二人きりですか。う、う〜ん。ご飯を食べに行くだけですし、いいかな?デートのお誘いじゃありませんし、よく考えたらドラゴンに生まれてからお酒類は飲んでいませんでしたね。一番好きなのは日本酒でしたがお酒は何でもOKなのですよ。
あ〜ビール飲みたい!炭酸!
「興味を持って頂けましたか?
店のオーナーが光の見せ方に凝っていて、二階の個室から見える様々な光がなかなか見応えがあるんです。
リンさんにも見せて差し上げたい」
うんうん。窓から見えるなんて素敵ですね。
ワインとチーズとついでに夜景。楽しみです。
ん?何故に手を握るのですか?先程より距離が近いのですが?
え?え?え?
「あ〜ロウカ王子、アゼル様が探しておられましたよ」
口調も顔もいつも通りなのに若干険しい目をしたジルさんがこちらに駆け寄って来ます。
何だか知りませんけど助かりました。や、やっぱり二人きりはまずかったですか?
チラリと見るとロウカ王子は肩を竦めていました。
「やれやれ、時間切れみたいだね。アゼルの優秀な狗が来てしまったようだ」
「…あまり羽目を外すと痛い目を見ますよ?」
「忠告は有難く受けるけど、此方もこんな機会でもないとなかなか、ね。でもこれ以上は得策ではないし、引き下がるとしようか。
リンさん、考えておいて下さいね。ではおやすみなさい。いい夢を」
私の手を取り手の甲にキスをすると何時ものニコニコ笑顔で帰って行きました。
ジルさんは王子が視界に消えるまで見送ると軽く息を吐きリン様、と振り向いた額には青筋が浮かんでおりました。
あう。
ごめんなさい。もうしませんから寝させて下さい。お説教は明日にして下さい。
ジルさんは意外と真面目な人だったようです。
本文に出ていたインコは実在します。(笑)太った人が階段を上る時のように、よっこらしょっと右足、左足、と揺らしながら枝に上がったり、遊んでいたらネジの切れた玩具みたいに突然動かなくなったりします。( ̄▽ ̄)




