恒例行事?は突然に
何故か固まっているジルさんとダンジュさんを引っ張りながらお城へ帰る途中、ジルさんが我に返りダンジュさんに向かい慌てて肩を掴み揺さぶります。
「おい!しっかりしろダンジュ!
いいか、今すぐ城に伝令に走れ。俺よりお前の方が足が速い、分かるな?」
「あ、ああ、すまない。…分かった。城は第一級防衛で待機しておく。後は任せたぞ」
「ああ、お前もな。時間稼ぎは任せておけ」
………これって戦いにでも行く戦友との会話ですか?何なんですか、この悲壮感漂う決意は?ダンジュさんはジルさんに頷き、私達に所用でお先に失礼致します。と言うと、あっと言う間に城の方角へと走り去って行かれました。…あのスピードと筋力、本当にダンジュさんは魔法使いなんですよね?いえ、なんだが宝の持ち腐れという感かひしひしとしまして。
「ちょっとー?第一級防衛って魔法師団員全員が護りの結界を張る鉄壁の防御布陣じゃない。どういう意味よ〜?」
「念には念を、です。…団長は竜王様をナンパされました。恐らくアゼル様はもうご存じだと思われます」
「ふふふ、なるほどね。久々に思いっきり体を動かせそうだわ」
「楽しそうに言わないで下さいよ〜。あんたのせいでしょうが!」
楽しそうなセシルさんに、半泣きのジルさん。防衛とか体を動かすとは何のことでしょうか?
その後はジルさんが時間を稼ぎたいので、ゆっくり帰って下さい、とキッパリ言ったので遠回りしたがらお城へ帰ったのですが、一体これはどういう事でせうか?
ピリピリと緊張感漂う雰囲気の中見たものは、ずらりと並んだ魔法師団と騎士団、どのお顔も真剣そのもので、目の前には(真っ黒)笑顔のアゼルさんと、かなり奥にはこれまた笑顔のロウカ王子と真っ青な顔の国王様。
戦!?戦が始まるのですかー!?
「セシリード、久しぶりですね。お元気そうで何よりです」
「アゼルも元気そうね」
「ええ。そうそうセシリード、あれだけ行きたがっていた旅に出られたのですから、もう思い残す事はありませんよね?」
「何言ってるのよー。耄碌した?まだ一年間しか経っていないのよ?まだまだ足りないに決まっているじゃない」
貴婦(腐)人様方が喜ばれるような中性的な絶世の美貌二人。遠目では旧友が再会を喜び合ってるかのようですが、何故でしょう?キラキラ天使コスプレが似合うお二人なのに真っ黒黒、魔王と堕天使の対決に見えるのは私だけでしょうか?考え込んでいるとジルさんが私とリオ君の手を引いて、結界内へと移動します。
「リン様、リオ様。すみませんが、危険ですので此方に」
「一体、何が始まるというのだ?」
「あ〜、年に一回の城の名物と言うか、恒例行事と言うか、厄災、災害みたいなもんです」
「恒例行事?わー、お祭りですか?僕、お祭り大好きです」
「いや、それ違うし、あの…」
ドオォオオオォンンッッ!!
凄まじい閃光と地面の揺れ。攻撃魔法がぶつかり合った音と共に弾かれた火の玉が此方に向かって来てギョッとしましたが、全て魔法師団の張った結界に弾かれ胸を撫で下ろしました。
モウモウと上がる土煙中、なおも続く破壊音のせいでよく聞こえませんが、何か罵り合う?声と、絶え間無く続く衝撃波に結界を支え続ける隊員達の額には汗が滲んでいますが、何で戦っているんですかー!?
「お祭りの花火?見えません〜」
「リオ様、今はそんな楽しげな雰囲気じゃ無いですよね?」
結界がドーム状になっているのか、土煙も此方に来ませんが、だんだん収まってきました……何か地面にあちこちクレーターが出来ているんですケド…。
某然とする間にも、アゼルさんが幾つもの光弾を飛ばしますが、いつの間にか剣を手にしたセシルさんが凄いスピードで次々に斬り落としていきます。おお!団長の名は伊達ではありませんね。
弾かれた光弾が結界に当たりバチバチと火花のように相殺します。
何とか持ち堪えている隊員達を尻目に、セシルさんは最後の光弾を斬り落とした勢いのまま体を捻り、剣で衝撃波を繰り出しました。えーっ?あの剣は魔法剣ですか!?
地面を抉りながら襲いかかる衝撃波をアゼルさんは余裕の表情で防御魔法陣を展開し弾きます。
余波が結界に当たった衝撃で数人の隊員が弾かれ倒れます、が、ああ!巻き添えで医師の補助要員で来ていたメイドさんが一緒に倒れ……ナイスです、ダイス隊長!片手でメイドさんを助けましたよ。隊員は地面に倒れましたが。
ダイス隊長かっこいいです!まるでヒーローです。メイドさんも怪我は無いようです、が。
………この馬鹿者どもが。
他はともかく、国の至宝に怪我をさせるところだったのですよ!
ギロリと二人を睨みつけると、周囲にいた隊員達が青い顔で後退りしていますが知った事ではありません。しかも今まさにアゼルさんとセシルさんの魔法が放たれようとしていますが氷と炎?水蒸気爆発でも起こす気ですか!?
ーーぷちっ。
パンッ!
手と手を打ち合わせた高い音が響きます。二人とも理由が分からずとも咄嗟の判断で飛び退き、お互いの距離をおきましたが、ええ。今、私が両方の魔法を消去したのですよー。魔法が消えて驚きましたか?わっはっはっは。何か文句ありますかー?文句ある人は前に出て下さいね。
ニコニコ笑いながらお二人へと歩いて行きます。
「あ、り、リン様!近づいては危険です!結界が……」
隊員の人が慌てて止めようとしますが、この薄い布みたいな物が結界ですね?暖簾をくぐる時の仕草で片手でペイッです。後ろから絶句した気配がありましたが知りません。
私の怒りのオーラに慄いているようですがもう遅いのですよ。今からお仕置きタイムの始まりです。
無言でズンズンと、先ずはセシルさんに向かいます。
「あ、あの、リンちゃん!?怖い、顔が笑っているのに怖いわよー!?」
セシルさんの頭に拳骨です。
ゴンッ!といい音がしましたね〜。
「っっ!!いっったーーーいっ!!頭が割れるーっっ!」
頭を抱えてしゃがみ込みますが大げさですよ。私が本気でやったら頭がばーん、になりかねないので多少は手加減したのに。まあ、先程の顔が怖い発言の罰でもう一発ぐらい平気でしょう。
すかさず拳骨をもう一発。完全に沈黙しました。乙女を傷付けた罰なのです。さて、次は…。
クルリとアゼルさんの方を向くと、顔を引きつらせていますが、体が頑丈なので手加減がいらない分、気が楽です。言い訳しようとしたアゼルさんを無視し、軽く助走を付けて決まったのは、ランニング・ニー・バット。
見事にアゼルさんのボディに膝がめり込み吹き飛びます。
ふう。我ながらいい仕事をしました。キラキラと汗を軽く拭いスッキリ。
途端に周りから歓声が湧き上がりました。
走り寄ってきたロウカ王子が手をそっと握り、
「いつも素敵ですが先程のは、まるで戦女神のように凛々しく素敵でしたよ」
と、褒めてくれ、国王様からは泣きながら、
「ありがとうございます、ありがとうございます。城や建物が半壊せず、隊員も無傷など初めての事です。ありがとうございます」
手を掴みぶんぶんと振りながら感謝の言葉を頂きました。
これって、ゲーム風に言うなら、魔王を倒して国中から歓迎される勇者の図でしょうか?
それにしてもこんなに感謝されるなんて、アゼルさん、セシルさん。貴方達は普段どれだけ被害を出しているんですか?




