初仕事は突然に
そろそろタイトルを考えるのが、キツくなってきました。(−_−;)
依頼が貼ってある場所に行くとちらほら人がいます。今はお昼前ですが仕事は基本、早い者勝ちなので少しでも条件が良い仕事をとる為に朝から来る人が殆んどだそうです。
「いろいろあるんだな」
依頼書が貼ってある大きなボードには沢山の紙が貼ってあり、それを取って受付に持って行く仕組みです。
大まかに分けて討伐や採集、個人依頼の三つ。討伐の分類を見ていると、横からダンジュさんの呻くような声が聞こえてきました。
彼の視線の先には一番上にだいぶ前から貼ってあるのでしょう、少し黄ばんだ依頼書です。
『依頼書 守護竜の鱗』
……………………アゼルさん、貴方の鱗が欲しい人がいらっしゃるらしいですよ。報酬も一生遊んで暮らせる金額です。おや?依頼者は歴代のギルドマスターさん達ですね?
思わず無言になった私達に声をかけてきた30代中頃ぐらいの同業者の方が唖然としている私達に笑いながら、誰も出来ないお遊びみたいなもんだよ、と教えてくれました。
この依頼が達成できるぐらいの大物になって欲しいとの願掛けみたいなものらしいですが、私、この依頼を簡単に達成できますが?何なら他の守護竜達の鱗を集めてもいいですが?コンプリートしますか?
しかし私の正体を知っているギルドマスターさんが、奥から半泣きで両手を胸の前でクロスしてバッテンサインを必死で出しているので止めておきましょう。
「リン様〜、一体どんな依頼を受けるんですか?」
「やはりここは新人らしく薬草の採集だろうな」
「……新人らしく、ですか?」
初心者は植物採集からでしょう!大まかに回復草に毒消草、後風邪の時に煎じて飲むフウ草など様々です。これは依頼書が無くても常時受け付けている定番のお仕事です。
討伐依頼はゴブリンやオーガ、ジュオン等がありますが、違うと分かっていても森の住人達を思い出すのであまりしたくはありませんし。
え〜っと、採取で気を付ける事は長持ちさせる為に根ごと採るのと必要以上に採り過ぎない事ですね。
さあ、出発ですよ。
国への出入りの審査は身分証明書代わりのギルドカードがあるのですが、副隊長であるダンジュさんとジルさんがいるので顔パスです。
…ちょっと使ってみたかったのに。
徒歩で一時間ほど歩いた場所に目的地の採集場所があります。
途中の道中、イノシシに似た魔獣がこちらに向かって突進して来たのでジルさんとダンジュさんが私の前に出て構えます。
物凄い勢いで突進して来る魔獣とパッチリ私と目が合った瞬間、クルリと方向転換して来た時以上の速さで地響きを立てながら元来た道に向かい走り去ってしまいました。
ジルさんが目を点にしながらポツリと一言、“強力な魔除けですね” っと。人をバリ島の魔除けのお面みたいに言わないで下さい。
着いた頃にはちょうどお昼頃だったので腹が減っては戦はできぬ、とばかりに早めのお弁当です。
チキンのタルタルと魚のフライ、ハムとチーズ、ハンバーグや卵のサンドイッチにリオ君用の野菜やデザートサンドイッチ、副菜もリオ君に合わせてオカラで作った揚げ物、ポテトサラダにコロコロチーズフライ、デザートにはアップルパイ。
……ピクニック気分ですが、お仕事で来ているのですよ。うん。
皆さん残さずペロリと完食してくれましたので、作り手としては嬉しいですね。
さて、お腹も膨れたところで早速お仕事開始ですよ。
ここで培う根気と努力がランクアップへの道に繋がるのです!
結果。すっっっごく簡単でした。
地道に根気強く 頑張ろうと思っていたのですよ?
作業を始めて直ぐに精霊ちゃん達がお手伝いすると言い放ち、一瞬にしてそこいら中に薬草パラダイスを作ってしまいました。
回復草や毒消草は勿論のこと、石化を回復する希少なメデュー草や葉っぱ一枚が金貨と同じ価値を持つゼニゼニ草など量も種類も豊富です。
精霊ちゃん達、愛していますよ。
……でも達成感がないというか、不正に近いというか…ああ!?精霊ちゃん達には感謝していますよ?だから涙目にならないで〜〜!
あまりの薬草の量と豊富さ(絶滅危惧種を含む)にギルド内が騒然となったのはお約束でした。
これはいけない、と数日後にまた依頼書の前で仕事を探しています。
あちらこちらから視線が痛いですが、人の噂も七十五日、そのうち私の事は空気みたいに忘れてくれる事でしょう。きっと。
採集は目立ち過ぎるので今日は却下。討伐却下。他は個人的なものばかりですね。
え〜っと、屋根の修理、却下。飯屋のウエイトレス、リオ君達がいるので却下。恋人募集中、…なぜ貼ってあるのですか?
「…何と言うか、あまり目ぼしいものはありませんね」
「本当、草むしりぐらい自分でしろ、ってんだよ」
「わ〜、これ他の国の依頼書ですよ。え〜っと、『 依頼書 竜王様の私物、使用済みの物 』……依頼者は…ガイラル、レイラ、ルト…誰ですか?三枚とも一緒の内容ですよ?」
「…ははは。何故かな〜、俺その名前聞いたことがあるな〜なんて、はははは」
「…ジルもか?俺もだ」
「…私にはそんな依頼書見えんな」
そう言いながら三枚とも剥がしてゴミ箱にポイっです。
ギルドマスターさんが慌てて駆け寄ろうとしましたが、一番上に貼ってある黄ばんだ依頼書を指差すと目線を逸らしました。…からかい…ゴホゴホ…可愛い仕草といい、厳つい顔とのギャップ萌えですね。ふ、癖になりそうです。
さて、目ぼしいものは…おや?孤児院からの依頼書がありますね?なになに三日後に子守りの依頼ですね。なにかあったのでしょうか?
「リン様?…ああ、孤児院からの依頼書ですね、三日後と言えば年に二回の大きな市がありますから、大人達がそれに出るので残される小さな子供達の子守りでしょうね」
孤児院にはあれから二回ほど訪問しました。悪癖はなかなか直らないものですね。
そう、あの時は異世界のパン屋さん!キター!ゲームでは回復アイテム。回復アイテムは沢山あった方が安心♫、と大量に買い込み……。
冷静に考えたらパンを食べても傷も治らなければ、直ぐに体力も回復しないんですよね。わっはっは。……ゴメンナサイ。
専用となりつつあるリヤカーを引いて、大量のパンを押し付けて御免なさいと謝りに行ったのですが、ニック君とトーマス君に呆れられ、マザーさんには逆に感謝されました。
いい人ですね〜。私を庇ってくれるなんて。
マザーさんは縁側で一緒にお茶を飲みたいほんわかしたお婆ちゃんタイプです。
日頃お世話になっていますし、恩返しも込めて、次のお仕事はこれに決めました。




