ギルド登録は突然に
平和っていいですよね。
露店で搾りたてのフレッシュジュースを飲みながら、しみじみ思います。
勿論、リオ君と一緒ですよ。
両手でコップを持ち、ぷはぁっと飲み干すリオ君の可愛らしさに私も周りもメロメロです。
後ろにはジルさんとダンジュさんもいます。
お二人は正式?に私の護衛となりました。
庶民感覚の私には恐れ多くて護衛は要らない、と突っぱねたのですが、アゼルさんは女性や子供だけで歩く危険性をくどくど説明し、リオ君は自分が騎士なのに〜っと拗ねるし、最後には王様までやって来て儂の髪を守って下さい、と訳の分からないお願いをされまして今に至ります。
ユグドラシルちゃんいらっしゃい事件の後、盗難事件が発覚したのですが何と被害者はアゼルさんでした。
私は見ていないのですが、部屋はボロボロの上、長年収集していたコレクション(これは聞きたくない)が破壊されていたらしいです。心中お察し致します。
まあ荒れる、荒れる。
顔は笑っているのに纏っているのは殺気に近い荒れた雰囲気。背後に阿修羅像の幻影が見えました。
ひ〜っ。犯人さん早く自首して下さい〜。今なら何とか命だけは多分、きっと助かるようにお願いしますから〜。
犯人は人生をかけて一体何を盗ったのかと思えば私の髪留めとか。あれダイヤモンドですから売ればそれなりにしますよね。
何ならもう一つ作りましょうか?と提案したところ涙ながらに、 “あれは我が主様から私の為だけに、と頂いた初めての贈り物なのですよ〜” と。………買い取ったの間違いですが、どうやらアゼルさんの脳内でおかしな変換が行われているようです。
あまにも可哀想(周りが)なので昔ハマっていた手作りの組紐をあげました。
勿論最初に作ったのはリオ君。とても喜んで首飾りにして付けてくれています。メイドさん達はブレスレットやアンクレット等、センス良く付けています。流石オシャレマスターさん達です。
組紐ってコツさえ掴めば素人でも意外と簡単に出来るんですよね。
渡した時のアゼルさんの反応。カッコイイ人はお得だと思いました。ストーカーと分かっていても、喜ぶ顔に思わず見惚れてしまったのは一生の不覚です。
しかし完璧主義のアゼルさんが珍しく鍵のかけ忘れですかね?ジルさんが “あの鬼畜結界を突破しただと!?どんな化け物か勇者だ?” と何やらブツブツ言っていましたが何でしょうね?
まあ、その後も他の守護竜達の分まで作ったりといろいろ大変だったのですよ。
気を取り直し、ジュースの残りを飲み干して出発ですよ。
わっはっは。
ついに来ましたよ。冒険者ギルド!
建物内を行き交う人々、依頼を受ける人、休憩スペースで何やら話してしる人などが珍しくてキョロキョロしてしまいます。………二度目ですけどね。
一度来た時に、登録しようと思っていたのですよ?
リオ君はまだ幼いですし、隊員さん達は副業が認められていないので私だけが登録です。
パーティ登録は出来ませんがギルドとは関係ない人の助けも借りていいそうです。
申請すればギルドから引退した冒険者や元騎士から実戦の中で指導を受けられ、新人を死なせないようにする為と、もう一つはお金持ち達を死なせないようにする為とか。
お金にものを言わせて、新人のお坊ちゃんがゴブリン一匹に対して腕利きの使用人30人とか実際にあったらしいですが、どれだけビビりなんですか?
ギルドは国の公認なので、騎士や魔法師団とも関わってます。なので事前にジルさん達からある程度のギルドの説明は聞いてます。
復習のつもりで眼鏡が可愛らしい受け付けのお姉さんからの説明を聞いていました。
ランクはSからFまでで、新人はFランクから。
生死に基本ギルドは関与しませんが、任務中の冒険者同士の殺しと新人殺しは御法度。その時はギルドの制裁が待っているらしいのですが、任務外ならば余程のことが無い限り基本黙認……シビアです。
自分の実力に合う依頼を選ばなければ、任務達成出来ずランク評価にも関わってきますし、罰金などのペナルティーも課せられます。
その前に信用を無くしますけどね。
でもギルドに入れば仕事の依頼もあり、提携いているお店や薬屋、宿屋は割引がきいたり、素材も一般人が持って来るものより高めに買取ってくれたりします。
何より国の保証があり高ランクや国やギルドに貢献した人達は老後も安泰です。
お姉さんの説明を聞いていると、奥から頬に傷がある厳つい顔のオジ様のご登場です。…前の世界だったら絶対に特殊なご職業の方だったと疑わなかったですよ。
ギルドマスターと呼ばれたオジ様は私達を見ると、名前を確認してきました。
「…アゼル殿と張り合う美貌に見事な黒髪……俺はギルドマスターのドイルだ。お前さんがリン殿、か?」
「ああ私がリンだ。何処かで会ったか?」
自分から名乗ってくれたのはポイントが高いですね。
しかし何故、私の名前を知っているのでしょうか?会ったら絶対に忘れないお顔ですが。
「あ〜、まあ連れも一緒にこっちに来てくれ」
周囲の視線に気付いたのか奥の扉を指差します。その奥の部屋に案内されて渡されたのがS級のギルドカードでした。
………は?
ギルドマスター曰く、私の実力は軽くS級を凌駕していますので、どうぞ納めてください、と。
勿論、簡単に魔獣倒せますよ?国王様とも魔王様とも知り合いで、大抵のお願いは聞いてくれますよ?
でも楽してランクを上げようなんて思っていませんよ?…これって……名前の事といい、カードの事といい………元凶は一人ですね……。
無言のままジルさんとダンジュさんの方を向くと、二人とも青くした顔を首だけブンブン横に振ります。…どうやら本当に知らなかったようですね。
見るとギルドマスターの顔色も悪いですが、知った事ではありません。
「…主様、何を怒っているのですか?」
リオ君が袖を掴み不安そうな顔でこちらを見上げてきました。
ーーいけませんね。リオ君を不安にさせるなんて。
リオ君のサラサラの髪を堪能するとイラついた気持ちが落ち着いてきます。ふふ、極上の癒しですね。
「リオ、例えば森の仲間達と一緒に木の実を採ったとする。高い場所や崖近くの場所に生えていて大変だったが何とか幾つか採れた」
「はい。森でもみんなで採っていましたよ」
「そうか。皆で採ったその木の実を森に入って来た知らない奴が全部食べてしまったとしたらどう思う?
一緒に協力したわけでも努力したわけでもない奴が」
「そ、そんなのズルいです〜!」
「だ、そうだ。子供でも分かる道理だぞ。この子の前で不正をするか?」
「い、いやしかし…」
「安心しろ。ギルド長に迷惑がかからぬよう、元凶にはきっちり私が話をつけてくる。…きっちり、とな。
すまんが今回のカード登録は見送らせてくれ。……子供でも分かる道理を大人に説明せねばならなくなったのでな」
皆さん顔色が悪いですけど気にしません。
そして城に帰り、出会い頭にアゼルさんに走り寄りシャイニング・ウィザードをきめた私は悪くありません。
……どんどん性格が攻撃的になっている気がしますが。
色々ありましたが、やっとギルドカードがもらえます。
建物の中に入ると幾つか視線を感じます。この前目立っていましたからね〜。
銀行窓口のように縦長に幾つか受付がいる中で先日説明をしてくれた眼鏡のお姉さんを発見し受付に向かいました。
「あ、先日の。
ギルドマスターがまた貴女が来るからって言われてたのでカードを作っておきました。必要な書類は先日、記入済みですので後は貴女の魔力を込めれば完成です」
カードには私の名前とランク、ギルドの承認のマークが押してあります。魔力は指紋や声紋と同じで一人一人違います。それをこのカードに魔力を込める事で世界に一枚だけの自分のカードになるのです。
だから悪用も出来ませんよ。
魔力を込め、承認を貰いやっと自分だけのカードです。ニヤニヤがとまりません。わっはっはっは。
これで私も冒険者です。ゲーマーの血が騒いできます。
さて、早速ボードに貼り付けてある依頼を見に行きましょう!
依頼達成まで書けなかった。(−_−;)




