不屈の闘志は突然に
……………………。
頭の中が真っ白です。
………………。
泣いてもいいですか?
手塩にかけていた植物が枯れた時ってこんな気持ちなのでしょうか?
ふっと、視界の隅に何かが映りました。ーー砂?
ああ、そういえばアゼルさんがあの木は人為的に作られたと言っていましたね。
作られた影響なのか目の前で見るも無残になった木が徐々にですが、サラサラと砂になっていきます。
それをぼーっと見ているとピンク色の果実があちこちに落ちているのに気付きました。
……あれだけ力のあった大きな木です。生命力も桁外れのハズですよね。
…………、まだ種って残っているかも…よし!まだ希望が残っていますよ。ネバーギブアップです!
まだ砂になっていない木の中心部に、割れた木の破片や葉っぱの中に混ざっていくつか落ちている果実があります。こうしている間にもどんどん砂になっていますので、慌てて無事な果実を探して……有りました!
思わず笑みがこぼれます。
果肉は若干砂になりつつありますが、一個だけ他とは違い大きく種も無事です。…ん?これは何でしょうか?
モモンゴーの青い種にグルグルと銀色の糸の様な物が巻きついています。
??何でしょうかね、これ。確かめようと種から剥がした瞬間、空気に溶ける様にフワリと消えました。
ーーーあれ?これって前にも同じような事がありませんでしたか?、というかあれって種から剥がして良かったのでしょうか?いや、でも砂になるのは止まったし。
考え込んでいるとアゼルさんが近づいて来ました。
「…アゼル」
さっきの糸を剥がして、モモンゴーちゃんは大丈夫ですか?枯れたりしませんか?と、尋ねようとするとアゼルさんが “大丈夫です、ご安心を” と、言ってくれました。まだ質問もしていないのに私の考えている事が分かるなんて、これが目と目で通じ合う、というやつですか?
……嫌かも。
とにかくこれで安心ですね。後はこの種を植えるだけです。
「…アゼル、ここの中庭の一部を使う許可をシャリーズ王に確認をとってきてくれないか?」
「…ああ、その種ですね。
我が主様、この全ての土地は貴女様の物です。お好きなようにお使い下さい」
「しかし…」
いやいや、全ての大地を借地?していますが、彼らはここに住んでいるのですから許可は貰わないと。
「大丈夫です。お好きにお使い下さい」
「分かった。(…笑顔が怖い)」
めくれ上がった地面を魔法で元通りにし、種を埋め魔力を少しずつ与えてながら様子を観察します。
私は学習する子なのです。失敗は繰り返しませんよ。
ゆっくりと芽が出て……おや?
この種には樹精ちゃんがいたようです。
滅多にない事ですが、精霊の中には気に入った木や花に同化し、本来の在り方が変質した精霊がいます。
花に宿った華精や岩に宿った石精などもいますが、精霊とは違い共に成長し寿命がくれば共に消滅する、正に一心同体ですね。
他の植物や鉱石と比べ、力も寿命も桁外れです。
気配はしますが、この子は怯えて出てこようとしません。
…原因は私?あわわわ。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
ちよ〜っとだけ大きくしたかっただけなんです〜、つい出来心で。
「…出ておいで(面と向かって謝らせて下さい)」
【……怒ってるですの?】
をを。可愛らしい声が聞こえましたよ。実の成る木に宿るのは女の子の精霊ちゃんが多いですが、この子もでしたか。
怒っている様に見えているのかと、内心ショックを受けながら怒っていないと告げると、おずおずと姿を現しました。
ふあ〜。天使ですよ!
人化したリオ君より少し年上の姿で若葉色のカールしている髪と白い衣、何より印象的なのは実の色と同じ薄いピンク色の瞳です。
リオ君と一緒に花を持たせて愛でたいですね。
その前に画家さんに絵を依頼……樹精ちゃんの姿は見えませんね。やっぱり早急に保存魔法の開発に取り掛からなければ。
私は屈んで樹精ちゃんに目線を合わせて謝ります。
「…すまなかった。(欲望丸出しの駄目な大人ごめんなさい)」
【う、う、うぅ〜っ、ごめんなさいぃですのっっ】
樹精ちゃんは大粒の涙を零しながら私に抱きつき泣き始めました。
私は慰めるように頭を撫でながら話を聞くと、南の森にあったモモンゴーの種に一目惚れで同化し、今か今かと発芽の準備中にいきなり銀色の糸が自分を包んだらしいのですが、覚えているのはここまでで、後の記憶はサッパリだそうです。
泣きながら謝る姿にキュンキュンですよ。
ーー不謹慎ですが、今のうちにこのフワフワヘアーを堪能したいのです。
「いい加減に泣き止め、誰もお前を責めやしない。
…しかしこうやって比べると、アゼルお前の娘のようだな」
瞳の色を除けばグリーン系の髪と白い衣で、娘と言われたら納得しそうです。
「なっ!私はこんな娘はいません!第一、番いなど持ちません!勿論我が主様一筋です!
大体人間もドラゴンも、雌という生き物は虚栄心が高くて甲高い声で擦り寄って来る寄生虫の、、うぐぅっ、い、痛い、で、す、」
ギリギリギリギリ。
「アゼル、お前私も雌だということを忘れていないか?」
ギリギリギリギリ。
アゼルさんをアイアンクローで締め上げます。世の中の女性に対する暴言、許すまじです。
意識が飛んだアゼルさんを地面に放り投げ樹精ちゃんの方を向けば、若干怯えている様な気がしますが、多分私の見間違いです。
「どちらにしろこのままだとお前が危険だな。
生まれ変わった状態だからな…私がお前に名付けてやろう」
【主様が私に、ですの?】
「お前が力を付け成長するまで私がお前の名を預かる」
【本当に?嬉しいですの〜、でも今回みたいに操られないようにする為じやなくて、主様ならずっと支配されてもいいですの〜】
「…成長した時に、まだその気があったらな」
「いけません!」
がばっ!、とアゼルさんが起き上がりました。
…結構本気で締め上げたのですが。
「そんな羨ましい、ではなくて、我が主様の力では相手を死ぬまで支配してしまいます!……これ以上我が主様に纏わり付くゴミを増やしたくありません!」
「…(スルーするのです、私)私の魔力で成長しているし、名を預かると言っても一時的なものだ。問題ないだろう。
この子は私が育てた言わば子の様なものだ。名を付けるのに何の問題がある?」
「前言撤回致します。
樹精殿、私のことはパパと呼んでもいいですよ。
そして貴女を育てたこの方はママと呼んであげると喜ばれるでしょう」
「いや、私は今まで通りでいい。
望み通りこの男はパパと呼んでやるといい」
【はいですの、主様、パパ】
崩れ落ちたアゼルさんは無視して、樹精ちゃんに向き合います。
もう名前は決まっているのですよ。北欧神話に出てくる木の名前です。
「誰も知らない神話に出てくる世界を支える巨大な木がある。
世界樹とも宇宙樹とも呼ばれる神聖な木だ。名前に負けぬよう生きるといい。
お前の名はーーーユグドラシルだ」
定番の名前ですね。( ̄▽ ̄)




