閃きは突然に
大きな揺れは一回でしたが余震が来る可能性がありますので、慌ててリオ君と司書さん達を外へ避難させます。本に潰されたくはありませんが、ゲームのコントローラーを握ったまま死ぬのと、どちらがマシでしょうか?
外に出ると若干の微弱な揺れと怒声、悲鳴が飛び交いパニック中です。
人身的な二次災害を防ぐ為に少しだけ威圧を込めて落ち着くようにお願いしたところ、周りの人達が全員ダルマさんが転んだ状態になりました。……そんな怯えた目で見なくても。(泣)
ただ落ち着いて下さい(黙れ)と、言っただけなのに。
「落ち着いて深呼吸をしろ、その後頭上に障害物がない場所へ避難だ。中庭がいいか?」
「あ、ありがとうございます。あ、でもリン様、その中庭が危ないと聞いています」
「私達も分からないのですが、近づくな、逃げろと」
中庭といえども、あの場所の広さはかなりのものです。木々や花々が美しい庭なのですが、逃げろ?
そこへ精霊ちゃん達が泣きながら集まってきました。
【うあぁぁん!主様〜!】
【怖いよ〜、食べられちゃうよ〜】
【お庭で大きな木が僕達を食べちゃうんだ!主様助けて!】
【人間達もいっぱい倒れてるんだ、あんな木やっつけちゃって!】
???
とりあえず中庭で…人や精霊ちゃんを食べる木があると?
……真っ赤に染まった木が人間を貪り食らう?……ガクブルガクブル。ひ〜、城にはそんな物騒な木が生えていると言うのですかーっ!?
私、グロもホラーも大嫌いなのです!
…嫌〜!絶対に嫌です!行きません!!
【主様〜〜】
い、嫌です。
【あ〜ん、怖い〜!】
……分かりましたよ。行きますよ、行けばいいんでしょ(泣)
私も怖いですよ〜。表情筋は動いてませんが、こっちが泣きたいのですよ。…トホホホ。
一緒に行くと言い張るリオ君を宥めて司書さん達に預けると急いで中庭に向かいました。
ハイスペックな身体のおかげで息も切れずに辿り着くと、既に騎士団と魔法師団の方達が円陣を組んで遠巻きに見ているのは大人が三人が手を繋いだぐらいの大きな木です。
木の周りにはアゼルさんの結界が張られているようですが、……はて?昨日まであんな木はありませんでしたが?
根元の土がめくり上がり所々根っこが出ているので、先ほどの音はこの木が原因のようです。
白い幹に若草色の大きな葉っぱが付いている見惚れるほど、とても美しい木です。……ざっと20人程周りに倒れている事を除けばですが。
し、死んでませんよね?ね?
ひ〜っ。家に帰りたい〜。
「リン様!?」
そこへ最近復帰したダイス隊長さんが駆け寄って来ました。相変わらずのイケメンさんですね。
「何故このような場所に!?いえ、今は危険ですのでお下がりください」
「あれは?(あの人達死んでませんよね、幽霊やゾンビになりませんよね?ね?下がる前に確認させて下さい〜!)」
「(この様な時にも冷静にされてるとは流石だ)
は!先程、突如地中から謎の植物が生え、最初は子供の背丈程の大きさだったのが、今はあの大きさに。
魔法師団の攻撃を吸収し成長した事もから魔力攻撃は危険と判断し、直接攻撃に切り替えましたが、見えない壁で剣も弓も弾かれ逆に攻撃した隊員が力を取られ動けない状態です」
「…無事なのか(生きているんですね〜。ゾンビなんか冗談じゃありませんよ〜)」
「(隊員の無事を喜ばれるとは、何と優しい方だろうか)はい。ただ此方からは救出も攻撃も困難になっています」
心配して損しました。
ゾンビもグロいのも幽霊も気にしなくていいなら怖いものはありませんよ。
落ち着いて見ると、ゆっくりとですが木が成長しているのが肉眼でも分かります。
スローバージョンのリアルト○ロを見れるなんて思いませんでした。
しかし私も自分で言うのも何ですが、ホラー系とは関係ないと分かるとケロリとしているんですから、現金なものです。
「我が主様!?」
今度はアゼルさんが焦りを滲ませながら、駆け寄って来ます。
「ここは現在、あの木に魔力が無尽蔵に吸い取られ危険な状態です。私に任せて我が主様はお下がり下さい」
いえいえアゼルさん、ホラー系では無いならもう私に怖いものはありませんよ!
どんと来て下さい。ハイテンションですよ。わっはっは。
しかし、あの綺麗な木は何でしょうか?アゼルさんなら何かご存知ですか?
「アゼル、あの木は何なのだ?」
「…人為的による突然変異でしょうが、おそらくは元になった植物はモモンゴーでしょう」
「モモンゴー…」
一週間程前に食べた魅惑の果実ですか!?
桃に良く似た薄いピンク色の芳醇な香りで私を誘惑して来た、あの!?
薄い皮を剥くと中身は濃いピンク色でアボガドのような大きな種があり、身はあまり食べれる箇所は少ないのですが、口に含んだ途端いっぱいに広がる香りと下で蕩ける果肉、甘いのに後味は癖がなく、今まで果物はミオの実が一番美味しいと思っていましたが、ダントツ一位になりましたよ。
ただ残念なのは、枇杷程の大きさの為に二口ぐらいしか食べれない事です。
しかも幻の木と言われる程とても希少で自然界にしか生息せず、何度も人の手による栽培を試みたそうですが全て失敗に終わり、今では王族ですら入手困難な果実でした。
因みにそんな事とは露知らず、また食べたい、とアゼルさんに言ってしまい、その後アゼルさんが探索の旅に出発し、一時城中が騒然になるといった事件が起こりましたが、そこはご愛嬌で。
しかし魔力で大きくなるなら、夢のスイカサイズも可能ですか?
守護竜がやって来たと思った皆様すみません。m(_ _)m
彼らを出すと話を引っ掻き回しそうで(汗)




