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幕間は突然に ③

ある下っ端騎士視点です。

オイラは騎士団の中でも下っ端だ。


オイラの実家は代々食堂をやってる。

普通ならそのまま家業を継ぐんだろうけど幼い頃からの夢だった騎士になる事をどうしても諦めきれなかった為、一回だけの覚悟で試験を受けて見事合格したんだ。

他の国は知らないけどこの国では、貴族も家名を持たない一般人も差別なく城の試験を受ける事が出来るんだ。

騎士団や書記官、魔法師団、侍女、試験は様々だ。



小さな頃からの基礎がある貴族に比べるとオイラ達は一からだ。礼儀作法や剣の型、鎧や剣の手入れなど、寝る間も惜しんで訓練した。


毎日、本当に厳しくてへこたれそうになるけど、そんな時はいつも思い出すんだ。

泳ぎの訓練だと鎧を着けたオイラ達を笑いながら川に蹴り飛ばす前騎士団長様のシゴキに比べればなんてことない、と。

……あの時は向こう岸から死んだ爺ちゃんが手を振っているのが見えた。


そんなこんなで頑張りが認められて、今年からダイス隊長の直属の部下になれた時は飛び上がる程に喜んだ。




ある日、内密に騎士団と魔法師団全員を集めてダイス隊長らが言った事に全員が驚いた。

国の許可も無く沈黙の森にユニコーンを探しに行くと言うんだ。勿論、処罰対象で悪ければ死罪もあるという。

反対意見もあったけど、ダイス隊長は良くも悪くも真っ直ぐな人だ。一度決めた事は絶対に曲げない。

前騎士団隊長は畏怖と尊敬で皆を引っ張る感じだったけど、ダイス隊長はオイラ達がサポートしなくちゃという責任感?連帯感?で纏まっていると思う。


始め、オイラは置いていかれる予定だったけど、それって酷いよ。オイラもダイス隊長の部下なんだ!

何とか粘って同行を許して貰えたけど最終的な決め手が、“こいつの飯は上手いしな”って、それも酷い。




オイラは森の外で隊員達の馬の見張りをしている。

流石に森には連れて行けないし、多分森に入らない事でオイラの罪を少しでも軽くしようとしたのだと思う。




目の前に現れたその女性ひとはとても綺麗な人だった。

ズボンに長めの上着を羽織り、真っ黒な瞳と同じ色をした髪を上で一つに括っている。艶やかな髪は腰辺りまで届きとても長い髪だ。

キラキラした水晶の結晶のような髪留めが黒髪と、とても良く似合っている。

思わずボーッと見つめていると先輩に頭をはたかれた。


ーーー!!皆無事だったんだ!

ユニコーン!?

やっぱりダイス隊長達は凄い!


それから直ぐに出発する事になったんだけどリン様を誰の馬に乗せるかで揉めてたみたいだ。

ユニコーンのリオ様が乗せることであっさり決着は着いたけど。

オイラは馬に比べると、小さく頼りないリオ様を心配していたけどあっという間にオイラ達を抜き去り、逆に足を引っ張る事になった。




森を出たのが遅かった事もあり、今夜はニルニ峠の近くで野営準備だ。

ここからはオイラの出番だ!

小さい頃から店の手伝いをしていたので料理にはそこそこ自信があるんだ。やっぱりオイラは料理が好きなんだろうな。

準備をしていると、リン様が近づいて食材を尋ねてきた。

あわあわわわわ。母ちゃんと妹以外でこんなに女の人に近づくことが殆どないからき、緊張する〜。



「携帯用のパンだからこんなに硬いのか?」

「いいえ?日常的に食べてるパンですよ」

「……………子供や老人はどう食べる?」

「スープに浸して食べます」

「……………それ以外は?」

「?それだけですよ。あ、ミルクに浸したりもしますね」

「……は〜。…屋台も期待できない、か?

パンを蒸したり、粉にしたりは?」


出来上がっている物を態々粉にする?蒸すって何かな?


それをオイラが聞くと、リン様は深〜〜いため息を吐いた。

その後、オイラは料理の革命に出会ったんだ!



リン様が魔法を使って蒸したパンはモチモチして甘みが増してる!

先輩達が川から釣り上げた魚に塩コショウしてボウボウ鳥の卵にくぐらせてから、パンを粉にしたものと数種類のハーブをまぶしたもの(衣って言うらしい)を油で揚げたものは、今迄食べたことの無いサクサクした食感で、美味しさのあまり涙が止まらない〜。


リン様も先輩達も引いてたけど、モチモチしたパンに揚げた魚を挟んで食べると、美味しいいぃ〜〜〜!!


引いてた先輩達も皆泣きながら食べている。

世の中にこんなに美味しい料理があるなんて!

パンに挟んで食べるなんて発想をするリン様は凄い料理人に違いない。

この人からもっともっと教えてもらいたい!





もう国は目前だ。

深夜の時間帯なので人の行き来は少ない。

オイラはリン様の横に張り付きいろいろな質問をしている。

あの後、リン様に土下座してお師匠様になって欲しいとお願いをした。

リン様、いやお師匠様は目を細めた後に

“会社の使えない奴等に爪の垢を煎じて飲ませてやりたい”

とブツブツ言いながら、自分は料理人では無いが暫く国に滞在する予定だから暇な時なら、と約束してくれた。

喜ぶオイラに先輩達から“勇者だ”と言われたけど何でだろう?

そして爪の垢?煎じるって何?



今はお師匠様の横でオイラ達みたいに魔法が使えない人でも、鍋や水があれば簡単に蒸せる方法を教えて貰っている。

綺麗で料理が上手い上に博識なオイラの師匠様は凄い人だ。




オイラの夢は騎士になること。

小さな頃からの夢が叶い毎日がとても充実している。

隊長らも先輩達も大好きだ。

でも初めて剣を握った時の嬉しさより、未知の調理方法を知った時の嬉しさの方が大きい事に気付いたんだ。

野営で先輩達がオイラの料理を美味しいと食べてくれる笑顔がとても好きで、同時に幸せな気持ちになった。

結局オイラにも料理人の血が流れていたという事なんだと思う。






半年後、一人の若い男が騎士団を脱隊した。

そして数年後、城で働いている者達専用の食堂内で姿を見かけるようになる。



後年、彼の腕を聞きつけ王族専属の料理人にならないかと上司から打診もあったが、彼は沢山の笑顔が見たいからと、それを断り生涯食堂の主として腕を振るい続けた。







国に向かう道中がグダグダ長くなりそうだったので下っ端さん視点にしたら、何故かこの人の人生話になりました。不思議です。

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