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殺人鬼シリーズ壱〜赤頭巾〜

作者: 豆腐

赤頭巾は狼に食べられる寸前に狩人によって助けられた。しかし現実はそんなに甘くない。絶体絶命のピンチに駆けつけてくれるような王子様なんてものは存在しないし、間一髪助かりました、なんてオチはもっとありえないのだ。


ふっとそんなことを考えていると、頭上でまとめ上げられていた手首がギリっと痛んだ。その痛みで、私の意識は無常にも現実へと引き戻される。何とも言い表し難い感情でドロドロと色を無くした瞳が私を貫いていた。


「無視しないで、こっちを見てくださいよ。ね?」


そう言って、男は更に私の腕を掴む手に力を込めた。


「ぃっ…ぁ!」


その痛みに思わず顔を顰めた私を見て、男は口の端を緩やかに上げた。


「痛いですか?」


痛いに決まってるじゃないか。何を言っているんだこの男は。今すぐにでもアッパーを食らわせたい気持ちを必死に封じ込め、もうこれ以上惨めな声がもれ無いように必死に唇を噛みしめる。私に跨る男をあらん限りにキッと睨みつければ、彼の口の端があからさまにつり上がった。


「あぁ、いいですねその表情。ゾクゾクしますよ。」


そう言って笑った男はゆっくりとその美しい顔を私の首元に埋め、まるで味わうかのように丹念に舐め始めた。


「ひぁっ…ちょ、やめ……やぁ!」


男の柔らかい舌が首筋をなぞり、吐息が首筋にかかるたびにゾクゾクとした快楽にも似た感覚が体を駆け巡った。

人体の急所とも言える場所を惜しげも無く晒し(晒したくて晒してるわけじゃない)高い声で鳴くなんて、なんのエロゲーだ。


湧き上がる羞恥と必死に戦いながら、ほどけそうな理性を必死に繋ぎとめる。

だめだ、負けるな私の理性。


「は、なして…!」


必死に身をよじるものの、そんな私の抵抗なんて目の前の男からしてみればなんのその。可愛いじゃれ合い程度にしかとられていないようだった。

視界の端で赤い色が瞬く。

おじいちゃんが買ってくれたお気に入りの赤いポンチョは、彼との死闘(彼からして見たらじゃれあい)でもうとっくの昔にくしゃくしゃになっていた。


くそ、お気に入りだったのに…。


湧き上がる怒りを理性が抑え込む。

ようやく冷静に慣れた私は抵抗していた手をゆっくりとおろし、ふっと全身の力を抜いた。

明らかに様子の変わった私に、彼は私の首から顔をあげ訝しげな顔をした。


「おや?もう辞めるんですか?」


男はコテンと首を傾げ、ドロドロの瞳で私を見つめた。

…くそ、何しても様になるなこの男は。

狼の様に鋭く牙を剥いたかと思えば、まるでもやしの様に柔らかくなる男に軽い眩暈を覚えた。思わずため息が口から漏れる。瞳を閉じれば、瞼に先程見た赤い光景が浮かび上がった。残虐でグロテスクで、何処か美しい光景。

私がこの家についた時、あの人は目の前の男の手によって、原型をとどめない真っ赤な壊れたお人形にされていた。

…私の祖母は、この男の手によって殺されていたのだ。

私を押し倒すこの男によって、無残な死体へと変えられた私の祖母は、それはそれはもう素晴らしい女性だった。


「…あの人、優しくて素晴らしい女性だったんですよ?」


「そうですか。…でもそれって表向きですよね?

じゃなきゃ本当に素晴らしい祖母が孫にあの人だなんて呼ばれないでしょうし。」


つぶやく様な私の言葉に、彼は至極当たり前そうにそう答えた。そのあまりにも随分とはっきりとしたものいいに、私は直ぐに言葉を返すことができなかった。

…だって、彼の言ったことは余りにも的を射ていたから。

あの人はとても素晴らしい女性だった…そう、表向きは。優しく華やかな外見とは裏腹に、彼女は家庭内では最悪の母親だったらしい。子を子とも思わずに干渉ぜず、外に何人もの男をつくり、金を絞りあげ豪遊三昧。挙句にお母さんにも暴力を振るい始めたとか。(おじいちゃんがが祖母と別れたのも、それが原因だった。)


そんな祖母から、急に連絡が来たのは一週間ほど前のこと。


‘大病にかかり先が短いため、最後に家族の顔が見たい’とかなんとか。


突然そんな電話が我が家にかかってきたのだが、当然おじいちゃんとお母さんは合うことを拒否。見兼ねたダディが私を祖母のところへ送ったのだ。(ダディはイタリア出身なため、お国柄離れても家族主義)


渋ったおじいちゃんとお母さんをダディと共に顔を見るだけだと説き伏せたのが数日前。

飛行機に乗って遠路はるばる訪ねてみれば、祖母はすでに目の前にまたがる彼によって殺されており、そんな祖母の死体をみつけ固まっていた私を彼が居間まで引っ張り畳に押し倒したのが数十分前。


そしてセクハラされてるなぅ。


そもそも、何故私がセクハラを受けなければならないのだ。

解せぬ、何故だ。


まぁ本来ならば祖母の様に虐殺されていたはずだから、まぁ殺されてないだけまだましなのであろう。それにしても、何故この男は私を殺さないのだろうか?それとも、若い女の子のお約束的展開で犯された後に殺されるのだろうか?

考えても考えても浮かび上がらない答えを探すために、私は閉じていた目をゆっくりと開き、彼の瞳を見つめた。


「……」


「……」


沈黙が続く。

彼は何も言わない。だから私も、口を開かない。



数十秒か、あるいは数分か立った頃、今度は彼が深いため息をついた。無意識に、身体がびくりと揺れる。畏縮する私をみて、彼は再びため息をつくとあっさりと私の上からのいた。そして今度は私の上半身を起こしくるっと半回転させたかと思うと、おもむろに私の体を後ろから抱きしめた。


「…は?」


え、ちょ、え?

突然の彼の奇行に私の脳ミソはパーンなう\(^o^)/


戸惑い固まる私を他所に、彼は酷く冷静に

「やっはり、いい。…惚れました。」

といった。


…は?

惚れた?誰が?誰に?


「…え?あ、は?」


「だから、惚れました。」


「…誰が?」


「私が。」


「誰に…?」


「貴方に。」


絶句。空いた口がふさがらないとはまさにこのことだと思った。混乱する脳みそで必死に言葉の真意を理解しようとしたが、残念な私の脳みそは既にキャパオーバー。全く理解出来なかった。

固まる私をよそに、彼は軽快に話し始めた。


「立ち尽くす貴方をみて思ったんです、あぁこの子だって。この子が僕の天使だって。貴方のその美しい黒髪も、貴方のそのコバルトブルーの瞳も、真っ白な陶器のような肌も、鈴の音を転がしたような声も…すべて、すべてが素晴らしい。まさに貴方は私の思い描いたとおりの天使だ。」


「頭大丈夫ですか?」


思わず言ってしまった私は、悪くない。


「だいたい貴方…私を殺すんじゃないんですか?」


そう聞き返した私に、彼は可哀想なものを見るように、


「殺したら腐っちゃうじゃないですか。」


頭大丈夫ですか?

今度は私が心配されてしまったおわた\(^o^)/。しかも腐るって…

何気無い一言で、彼が殺人鬼であることを思い出した。


彼が殺人鬼であることを差し引いでも、やはり彼の行動が理解できない。だが、これ以上彼の真意を推し量ろうとするのは時間の無駄だろう。

とりあえず、ぶっ飛んでるかれの発言を理解するのは辞めにして、単刀直入に聞いて見ることにした。



「貴方は私を、どうしたいんですか?」


そう問いかけると、今度は彼が困ったような顔をした。


「できればこのまま抱きたいんですけと…畳の上じゃ痛いでしょうし…」


ものすごいストレートだった。

困ったように柔らかく笑うから、てっきりまずは友達から始めましょう的なところに行ってくれるかと思ったら、全然違ってた。


てかやっぱり私ヤラれるのか。

…無念。


……でも、何と無く、嫌ではなかった。

彼の雰囲気が私にそう思わせるのか、はたまた彼の歯に衣着せぬものいいがそう思わせるのか。

そんな自分に思わす苦笑い。

私を抱きしめている彼の手をゆっくりと緩め、向き合うように彼を見つめる。

私の視線に気づいた彼が顔を上げたのを合図に、私は笑った。


「…いいですよ」


「…何がですか?」


「畳の上でも。まぁ確かに始めでにしては全然ロマンチックじゃないですけど…でも、まぁ、その分優しくしてくれるんでしょう?」




挑発的にそう微笑むと、彼は目を瞬かせたあと、まるで子供のように満面の笑みを浮かべた。



「えぇ、えぇ勿論です!」



嬉しそうにそう叫んだ後、彼は私の両手を自分の両手で優しくつつみこみ、真剣な表情でしゃべり始めた。



「私は貴方のお婆さんを虐殺しました。それに関しては何もいいません。恨まれてもかまいません。しかし、私が貴方を好きになった気持ちに嘘偽りが無いことだけは信じてください。」



熱っぽい彼の視線に、思わず顔が赤くなる。

彼の言葉にゆっくりと首を縦にふる。


「信じます。」


「…では、今更ですが、貴方のお名前を教えていただけますか?」


「…リマ、リマ 桜木です。」


「リマ…美しい名ですね。僕は灯茉トウマです。」


灯茉。呟くようにそう呼べば、彼は柔らかく目を細めた。


空気が、柔らかくなったような感じがした。

迫り来る灯茉の口に、私はゆっくりと目を閉じた。



始めてのキスは、甘い味がした。


読んでいただき、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] とても面白いです。 個人的には二人のその後の話などが読んでみたいと思います。
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