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12ヶ月

9月の憂鬱

作者: 山側 森


ビニールの膜が頭の上で弾けている。行き交う街は憂鬱を前面に圧しきり、撥ねた泥を受け止めた寛大な我が靴をある人は見下げ、ある人は褒め、ある人はそのことに気付きもせずに池に飛び込む。 時よ止まれと世人は願うが、止まった時がこのような時分なら、願いを叶えて欲しかった誰かは願いを叶えた誰かを恨むのだろうか。 自分勝手な気もしたが、そもそも誰かに願うのは己が勝手が始まりかと、ふと考えなおす。



何かしらを願う人を横目に流し、一本裏地に足を進める。 季節はずれの紫陽花が塀の隙間からくたびれた顔を覗かせ、避難を知らぬ雀は電線上でバランス感覚を磨いている。 気が付けばカラフルな長靴が、幼い宿主を必死になって守ってる。あぁ、あぁ、そんなに駆けたら彼の願いは無残に砕かれ、無用な働きだったと母に怒られるだろうに。 いつだって宿主は彼の気持に無関心なんだ。 黄色い友達はすでに、何のために登校したのか疑問を抱いてるに違いない。



視界を横に逸らせば、昨日までいた毛むくじゃらは消えている。主を失った温もり構成材は、はたして役目を果たせたのだろうか。 小さな主はその働きに気付かず、懐かしい母親ばかりを求めていたのかもしれない。 主は今頃どうしているだろうね。 もう戻ってこなければ良いと、本当に思えればいいけれど、そしてそれが現実になれば良いけれど、実際の現実はそんなに簡単なものではないような気がする。



幼い頃は前も後ろも見ていなかった。ただ足元を、ただ一歩を踏み出すのに夢中であって。 転べば誰かが差し伸べてくれる手を無条件に掴んで良いものだと、根拠もなく信じていた。振り返るようになった今は思う。あの根拠のない安心感は何で構成されていたのだろうと。ビニールで弾けた音楽はいつか止むものだと、今の自分は信じているのだろうか。 見え始めた夕暮れがなにか物悲しく、止みきらない音を、ビニール越しではなく、己が身で受けてみようと思ったのは。




この感情の中で何かが起こったからなのだろうか。







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