一話
傭兵団。
それは、依頼さえあえば人でも魔でも鬼でも打ち滅ぼすならず者の集団。
ろくな訓練も受けず、ただ腕っ節だけで生きてきた荒くれ者。国に見捨てられ、行き場を失った元軍人。物心が付いた頃から武器を手にしていた孤児育ち。他に進む道の無かった貧困者。命を奪うことが快楽になってしまった戦闘狂。
ろくでなし共の掃き溜め。
どうしようもない負け組み達の兵団。
汚くて醜い、戦うこと以外に生きる術を知らないゴミの集団。
それが傭兵団というもの。
休む間もなく前線に投入され、都合の良い捨て駒にされる奴隷以下の存在。
彼らに自由は無い。明日も無い。人権も無い。幸福も無い。
汚い飯を喰らい、名前も与えられず、戦力として以外に価値の無い、入団させられてから一年足らずで死んでいく消耗品。
山賊の方がまだマシというもの。考え得る限り最低の人種である。
その制度はシンプルかつ非道なもの。
団長階級の人間が、様々な国、組織、団体から金品を貰い、それに見合うだけの団員を貸し付ける。団長にとって団員は商品でしかない。団長の命令ならば、どれだけ理不尽なものであっても絶対服従しなければならない。
奴隷商人と同等に毛嫌いされる人間、それが傭兵団の長である。
だがそれらの常識は、ある事件を境に覆されてしまった。
最下層の人間であるはずの傭兵が、世界の頂点に立ってしまったのだ。
アルムス暦99年のことである。
史上最大規模の大革命『傭兵の勝鬨』が始まったのは。
僅か二十数名からなる無名傭兵団が、世界に喧嘩を売ったのだ。
誰もが目と耳を疑った。現実を疑った。
なんでもない団員一人に、数千数万の兵が薙ぎ倒されたのだから。
その傭兵団は、文字通り一人一人が一騎当千の戦力を保有していたのだ。
政府が誇る絶対の武力集団『軍団』も、教会の洗脳により強化された私兵集団『教団』も、強力な猛者が集う革命家集団『師団』も、比類無き戦闘力を誇る化生の集団『魔団』も、全てがたった一つの名も無き極小傭兵団に叩き伏せられた。
一人で一個団体を滅ぼす。
二人居れば一個大隊を滅ぼす。
三人揃えば一小国を滅ぼす。
二十人集えば天下を取る。
そんな集団。
彼らがやったことは至って単純。
立ちはだかる者を、ただひたすらに屠った。
敵が居なくなり、自分たちが頂点に立つまで殺し続けた。
いつしか人々は彼らをこう呼んだ。
『覆世の覇団』、と。
世を覆す覇団、と。
そしてアルムス暦99年から一年後、アルムス暦100年、世界情勢はひっくり返った。
ついに覇団が世界の頂点に君臨したのだ。最下級の人種であるはずの傭兵が、全ての頂きに登りつめたのだ。
法律を改正し、傭兵の立場を、あり方を一転させた。
間違った法も全て改正させた、誰もが覇団を称えた、覇団の目的は達成された。
全世界の傭兵の勝鬨が上がった。
『傭兵の勝鬨』は成就した。
が、すぐに『覆世の覇団』は崩壊する。
団長、副団長、参謀の三人が死去してしまったためである。
三人の指導者を失い、完全に統制を無くした覇団メンバー達は離散し、対立した。
中でも特に圧倒的絶対的な強さを誇った、戦闘の要である六人。傭兵団における『六大戦闘職』である六人。
最強の戦闘力を誇る剣士。
最大の破壊力を誇る戦士。
最高の防御力を誇る騎士。
最速の瞬発力を誇る槍兵。
最善の迎撃力を誇る弓兵。
最長の攻撃範囲を誇る銃兵。
それら六名の団員が、それぞれ別々の傭兵団を創設した。
知力でも支配力でもなく、ただ一個人の強さのみで、『六大傭兵団』は勢力を伸ばしていった。
アルムス暦101年。
現在、『六大傭兵団』を一つずつ擁する六つの大国の間で、睨み合いの膠着状態が続いていた。
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不定期更新です。それと、たまに内容を書き換えることもあると思いますが、その時は後書きにて報告致します。