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オモイノ・シリーズ

オモイノタネ 2

作者: 風紙文

ついに明かされる。謎の少女の…

 私の名前は真崎 望。高校の二年生で、成績は程々。陸上部に所属していて……まぁ自己紹介はこのぐらいでいいかな。

 誰かが言っていた言葉に、こんな言葉がある。

 先輩は常に後輩に見られる立場なのだから、油断をするんじゃない、と。

 その点を踏まえて考えると、二年生は楽な者だ。

 先輩も後輩もいる。一年が見るのは二年より三年だし、三年は三年で後輩に見られて大変だ。

 いや~楽だな。

 二年である私も例外なく三年生を見ているが、その中の一人に私は釘付けだった。

 釘付けと言っても、憧れに近いものだけどね。

 天川美弥子先輩。

 運動神経抜群で、陸上部期待のエース。その上才色兼備で、乙姫様(天川だから)なんて呼び名がある程で密かにファンクラブもある。もちろん私も会員だ。

 そしてファンクラブがあるという事は私以外にも先輩を狙う人は数知れない、ファンクラブの会員数。いやそれ以上だ。

 でも恋人とかは決して聞いたことがない、もちろんそんな勇気のある男子がいないのが理由だ。

 そんな中で私は偶然同じ部活で、他の会員よりも一、二歩リードしている。

 もちろん他の部員にも会員はいるけど、同じ競技…ハードル走なのは私だけだ。

 それを踏まえて、私は天川先輩の一番近い位置にいる。

「ふふ…ふふふ…」

 思わず笑ってしまう。

「どうしたの? 真崎さん」

「うひゃあ!?」

 気づかなかった…こんなに近くにいたのに。

 今の聞かれた…かな?

「何か妙に汗かいてるけど、大丈夫?」

「だ…大丈夫っス。ご心配おかけしたっス」

「そう。でも無理だけはしちゃダメよ?」

「はいっス」

 良かった。聞かれてないみたい。

「ま、真崎先輩…大丈夫…ですか?」

「うん。本当大丈夫だから、心配してくれてありがとね。真菜ちゃん」

 桐川真菜ちゃん。

 ハードル走の3人目で、私の後輩、一年生だ。

 この陸上部のハードル走は何故かこの3人しかいない。他の競技には十人単位で居るのに。

 理由は知らない。でも私にとってこれは幸いだ。

 先輩をこんなに近くで見られるのだから。

 この高校に入って良かった。

 陸上やってて、良かったな…。



「…はぁ」

 私は家の自室に入り、植木鉢に水をやりつつため息をついていた。

「…はぁ」

 ため息も出るさ、先輩はカッコイイ。故に人気、ハードル走という何故か人の数少ない競技にも自分の部活そっちのけで見に来る会員は数知れず。

 …はぁ。

 確かに私は同じ部活で同じ競技だからとても近く感じるが、逆に先輩は仲間としてしか思ってないかもしれない…。

 出来れば…もう少し上の関係で…いやいや、その気は無いんだよ?

 友達として、先輩と仲良くなりたいんだ。そして、もっと先輩の色々を……いやいや、その気は無いってば。

 でも…無理だよね。


 こうなったら…先輩になってみたいな…。

 先輩の事をもっと知るには、本人になるのが一番早いと思う。

 まぁ…無理だけどね。


 その時、光が部屋を包んだ。



 次の日…。

「あ! 天川先輩だ!」

「乙姫様だ!」

 天川先輩は登校している。周りには名前を呼ぶ会員と思われる生徒が見え、こちらを見ている。この場に私は居ない、元より通学路が違うから天川先輩がどこをどう通っている知らない。

 では、何故分かるのか。

 理由は簡単。 私がそうだからだ。

 どうやら、なれたようだ。なれてしまったようだ。

 最初は体にあった違和感で気づいて、次に鏡で姿を見た。

 その姿はまさに、天川先輩だった。


 目を開けた私は、まずは驚いた。

 誰だって驚くよね? 植木鉢から椅子が生えてれば。

「…何だろう…アレ」

 四脚の足と背中の板、そして座る板部分だけ、背中に花の模様が一つだけ描かれたシンプルな椅子だけど…。

カサ

 よく見ると、椅子の上に小さな紙が一枚置いてある。手に取って見ると、それにはこう書かれていた。


あの人になりたイス


「あの人になりたイス?」

 …ダジャレ? いや、ダジャレにもなって無い。

 どうやらこれは取扱説明書らしい。


あの人になりたイス

なりたい人を思い浮かべてイスに座ると、その人物になれる

姿形だけではなく、その人の能力まで使える


 何…コレ。

 まさに今の私が欲していた物、…本当だったのか。

『発明の種』

 欠かさず水あげてたから、本物に欲した物になった。

 一体どうやって……まぁいっか。

 そんな事より今は、このイスを使いたい。植木鉢からイスを抜いて床に置いた。

 えーと…なりたい人を思い浮かべて座ると…。


 …先輩に。

 天川美弥子に…なりたいっス!



 授業が終わり、部活の時間が来た。

 天川先輩になった私は真菜ちゃんに見られながら一人ハードルを跳んでいる。普段なら隣に私がいるが、今はあり得ない。私は天川先輩だからだ。

 そして思った。改めて天川先輩は凄いと。

 体が軽い、そして早い、姿勢も綺麗で、三拍子揃っている。

 まるで私じゃないみたい…って、そうなんだけどさ。

 凄い…これが私の憧れる先輩なんだ…。


 足取り軽く帰路についていた時に、気付いた。

 私の家に帰っても仕方ない、私は今、天川先輩だ。だから天川先輩の家に……何処だろう…。

 今日だって親に見つからないように家を出てきた。天川先輩の家の場所は知らなかった。

 家が分からずに右往左往していたら、

「…見つけた」

 後ろから声が聞こえた。振り返って見ると、そこには妙な女の子がいた。長袖長ズボンで、頭には帽子、全部に灰色だ。手には黒い箱を持っていて、身長は真菜ちゃんと同じぐらいかな顔に表情は無いけど、結構かわいい……いやいやその気は無いってば。

 その子は箱に目を通して、

「貴女は本物じゃないね」

 そう言ってきた。

「え…」

 当たっている。

「な…何を言っているの?」

 冷静になりつつ、昨晩猛練習した先輩の口調を真似して返す。

「ウソ。貴女の中は、貴女じゃないはず」

「……!」

 バレてる…何で、何でバレたの?

「それはアタシの力よ!」

「先輩のマネが下手だったのかな…でも見た目は先輩そのものだし、そう簡単にバレる訳が…」

「ちょっと! 話を聞きなさいよ!」

「え…誰? 何処から?」

 機械を通して喋ったような声が聞こえた。

「ココよ! ココ!」

 声が聞こえたのは、あの黒い箱からだった・

「黒い箱言うな! アタシにはね、ビーケっていう名前があんのよ!」

「ビーケ?」

「ビーケ…少し静かに」

「ふん。珍しくアタシの名前を呼んだから、仕方なく黙ってあげるわ」

「…素直じゃないね」

「ふん…」

 女の子は顔を上げた。

「貴女も発明の種を使って発明をしたね?」

「発明…」

 確かにそうだ。でも何故知っている?

「いきなりだけど…発明を渡して」

「…どうする気なの?」

「分解する」

「!?」

 分解する? あのイスを?

 そんな事は…。

「させない!」

 私は女の子に背を向けて走り出した。

「あ…」

 足なら負けないはずだ。

 私はまさに逃げるように 走っていった。


 そして次の日、今はもう部活の時間だ。

 結局あの後は無事に逃げ切れ、走り疲れて立ち止まった場所が偶然先輩の家だった。無我夢中過ぎて道 覚えるの忘れてた…って今はそれどころじゃない。

 ふぅ…しかし、あの子何だったのかな。見た目的に同い年ぐらいだろうけど、なんで椅子を分解するだなんて…。

「あ、あの…天川先輩…」

 そこに真菜ちゃんが訪ねてきた。

「何? 真菜ちゃ…」

「え?」

 おおっと危ない、今は私じゃなかったんだ。えーっと、先輩は真菜ちゃんを呼ぶ時は…。

「どうしたの? 桐川さん」

「えっと、今日…真崎先輩は…」

 そうか、私が天川先輩だから、私は今居ないんだ。

「えーと…風邪で学校を休んでるみたい」

 もちろんウソだ。ごめんね真菜ちゃん。

「そ、そうでしたか…」

 どうしたんだろう、こんなに私を気にかけるなんて…。

 その時、

「…見つけた」

 昨日も聞いた声が聞こえた。振り返ると、やはりあの子だ。

「…ちょっと来て」

 私はその子の手を取り、走り出した。

「せ、先輩!? どうしたんですか!?」


「どうしたの?」

 私達は体育倉庫の裏にいた。

「何で…分かったの?」

「…コレ」

 その子が取り出したのは昨日の黒い箱。確か、ビーケとか言った。

「この発明がある限り、貴女は逃げ切れない、大人しく発明を渡して」

「…ねぇ、どうして発明を分解なんてするの?」

「……発明には欠点が、デメリットがあるの」

 欠点? デメリット?

「貴女の発明は、誰かになる発明。デメリットは、使い続けると貴女という存在がいなくなってしまう」

「え!?」

 私が、存在しなくなる?

「貴女という存在はなくなり、貴女は貴女では無い誰かになる。そうしたら…悲しむのは貴女だけじゃない」

「……」

「…考える時間はあげる。決めたら…言って」

 そう言い残して女の子は行ってしまった。

「……」

 私という存在が無くなって誰かに…今なら天川先輩になる。

 そんなことになったら…。

「あ、あの…天川先輩」

 いつのまにか、真菜ちゃんが後ろにいた。

「い、今の人は…」

「何でもないわ、ゴメンね、急に走り出して」

「い、いえ…あの、先輩…今日の帰り…真崎先輩のお見舞いに行きませんか?」

「え?」

 マズイ、ウソだとバレちゃう。取り合えず理由をつけて何とかしないと…。

「ど、どうして?」

「私…真崎先輩が心配で」

「…心配?」

 私の事を、心配してくれている?

「私…真崎先輩に憧れて…この高校を目指して…この陸上部に入ったんです…」

 私に…憧れて?

「真崎さんに…憧れて?」

「はい…真崎先輩は…私の、憧れの人なんです…」

「…」

 …憧れ、か…。まさか私にもいたなんてね。

 実は私、中学の頃は陸上部のエースだった。その推薦でこの高校に入れたぐらいのだ。

 その時に、少なからずファンがいるというのを小耳には挟んだ事があったが、信じてはいなかった。まさか真菜ちゃんがその一人だったのか…。

「私…真崎先輩に憧れていました。でも私…知っていたんです。真崎先輩は…天川先輩に憧れているって」

「……」

 知られてたのか…。

 私は知らないが為に、先輩になってまで知ろうとしていたのに。真菜ちゃんは、知っていて言わなかった。

 やはり知るには、見るのが一番なのか…。

「…ゴメンね。この後私、用事があって行けないの」

「い、いえ…」

「だから、明日…行こ?」

「は…はい!」

 でも、多分無理かな。だって…。


 私は帰ってきた。

 先輩の家ではなく、私の家に、真崎望の家にだ。

 何故かその玄関にあの子がいた。探す手間が省けて良かった。

「…決まった?」

 女の子訊かれた。

「…うん」


 私は、私に戻った。一日ぶりの自分の部屋、中はあの時のままだ。ただ一つ違う所は、あの子が居る事だけ。

「貴女は貴女。別の誰かに憧れるのは自由、でも貴女も、別の誰かに憧れられている」

「うん…分かってる」

「全く…分かるのにこんな掛かるなんてね」

「ビーケちゃん…」

「ちゃん付けはやめてよ、何か恥ずかしいわ」

「うん、じゃあビーケ」

「それでいいのよ」

「分解するよ」

 女の子はイスの足を持ち上げた。その一つにネジにあった。星形のねじ穴をした変わったネジだ。

 女の子は取り出したネジ回しを取り付けて回し…、

「…ちょっと待って」

 そうになった所を、私は止めた。

「何?」

 女の子が顔を上げて無表情のまま首を傾げた。

「あなたの名前…聞いてもいい?」

「…水野葉、恵里」

 ネジ回しを回した。


「真崎望! 無事完治いたしましたっス!」

「お帰りなさい、真崎さん」

「お帰りなさい、真崎先輩」

 三日ぶりに、私は私として高校に来た。

 部活の時間。天川先輩と真菜ちゃんに迎えられて、私達はいつも通りの部活を始めた

 そして今、改めて思う。

 二年生だからって、決して楽ではない。確かに今は三年の先輩はいるが、それは長くは続かない、受験シーズンになれば居なくなるからだ。

 そうしたら見られるのは、もちろん二年生になる。

 だから今から油断せずにちゃんと練習しないと、後輩の良い見本になれないんだ。

 百聞は一見に如かずとは、よく言ったものだ。

 何かを知るには。

 誰かに聞くよりも。

 それになるよりも。

 側で見るのが。

 一番理解しやすいのだ。


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