第一話「出会い、別れ、再会。」
「そうちゃん!こっちこっち!」
そう言って俺の手を引いて天使のような笑顔でこちらを振り向く少女。胸の鼓動が早くなる。この気持ちは…いつからだろう。
春の訪れを知らせる桜。今日は高校の入学式。
「ねぇねぇ、どこのクラスだった?」
「私?2組。〇〇ちゃんは?」
クラス名簿票の人ごみの中でありふれた会話が聞こえる。俺は眠い目をこすりながら自分の名前を探した。
(えっと…瀬戸口…せ…あった。俺は1組か。)
自分のクラスを見つけ、そのまま教室に向かおうとしたその時。見覚えのある名前を見つけた。
小鳥遊 薫 1年1組
「あ…え…か、薫?」
思わず声に出た。あの日以来。中学を転校し疎遠になった幼馴染。
「あいつ…同じ高校だったのか…」
俺は教室に向かった。
教室にはどこか気まずい独特の雰囲気が流れる。運がいい。どうやら俺は名簿順的に後ろの席らしい。後ろの席から眺める教室は様々な人を見れた。入学早々仲睦まじく会話する者。あたふたする者。寝たふりをする者。みんなきっと不安なんだ。
「よっ蒼太。元気してた~?」
机でボーっとしていると、中学から同じサッカー部で仲のいい渡会旭が後ろから声をかけてきた。
「んだよ旭。まぁぼちぼちかな。そういうお前は校門の前で盛大に転んでたけど大丈夫だったのか~?」
「ばっお前見てたのかよ!なんで助けねーんだよ!めっちゃ恥ずかったんだけど!」
「あんな盛大に転ばれてたら友人の俺が恥ずいだろ。」
「蒼太はつめてぇなぁー。」
そんな会話をしている中内心俺はそわそわしていた。小鳥遊薫。自分の向かいの家に住んでいる幼馴染の女の子。そして、初恋の子。小さいころからずっと遊んでいて、明るくてまっすぐな女の子だった。中学も一緒だったが、中一のころ理由も知らず転校してしまった。そこから遊ぶことも無くなり、疎遠だった。そんな彼女が偶然にも同じ高校で同じクラスだ。期待に胸が膨らんでいた。
「…っ!」
俺の後ろをどこか懐かしい雰囲気で通った女子がいた。俺は視線を奪われその子を見た。そしてその子は座席表の小鳥遊薫の位置に座った。俺から見て左斜め前の席。俺は彼女の容姿に目を疑った。
レンズの大きな眼鏡をかけ、黒髪のおさげで前髪も重い。極力人とも目を合わせないように視線を下げ、一人本を読んでいた。
「か…薫…なのか…?」
信じられなかった。あんなにも明るく無邪気な笑顔を見せていたのに。別人なのではないかと誤認するほどの変わりように。同姓同名なのかと思って俺は声をかけるため席を立ちあがった。
「あ…あの、小鳥遊薫…さんだよね?人違いだったらいいんだけど…俺…瀬戸口蒼太なんだけど…しってる?」
本に目線を向けていた彼女は俺の名前を聞き目を少し大きくあけ俺の顔を見た。そして震えた小さな声でつぶやいた。
「…え?蒼太…君…?」
言いかけた聞きなじみのあるあだ名。聞き覚えのある声。彼女は俺の知っている小鳥遊薫なんだ。
「そうそう!蒼太だよ!いやーひさしぶりだな!」
「そう…ですね…お久しぶりです。」
「中学転校しちまったよなー何してたんだ?」
「……」
気さくに話しかけたつもりだが薫はうつむき震えていた。
(あれ?転校のことあんまり聞いちゃまずかったか…)
「ごめんなさい…お手洗いに…」
「お、おう。」
震えてどこか悲しそうな彼女を俺は見送ることしかできなかった。
「なんだー蒼太。知り合いか?」
「あぁ…そのはずなんだが…」
暗い雰囲気。俺のことは覚えいるうえであの対応。俺の知っている小鳥遊薫とは似ても似つかない感じ。
「薫…なんか…あったのか…?」
俺は小さな声でこぼした。
変貌した薫。昔のような薫はどこへ行ってしまったのだろうか。蒼太だけが知っている彼女の昔。そして蒼太が知らない彼女の過去。




