追放された「お掃除係」の私が、魔王城の黒ずみを落としたら世界最高の聖域になってしまった件
「リナ、お前はクビだ。
我が『暁の剣士』パーティに、掃除ばかりしている無能はいらん」
勇者ゲイルは、使い古された雑巾を投げ捨てるように私に告げた。
私の役職は「雑用係」。
主な仕事は、彼らが散らかした食べカスを拾い、血に汚れた装備を磨くことだ。
「でも、ゲイル様。装備を清潔に保たないと魔力の伝導率が落ちます。
それに、このキャンプ地は不浄の魔気が溜まりやすい構造で……」
「うるさい! 俺たちは伝説の武具を探しているんだ。
ちまちました掃除など、勝利の後に奴隷にでもやらせればいい。
お前のような非戦闘員を養う余裕はないんだよ」
仲間たちの冷ややかな視線を背に、私はパーティを追い出された。
手元に残ったのは、愛用の『無限に泡立つ魔法の石鹸』と、ボロボロのデッキブラシだけ。
「……あーあ。せっかくピカピカにするのが楽しかったのになぁ」
行き場を失った私は、あてもなく歩き続けた。
気がつくと、目の前には禍々しい紫の霧に包まれた「魔王城」がそびえ立っていた。
*
「うわぁ……何これ。汚ったない……」
目の前の城を見て、私の「掃除魂」が震えた。
壁には数百年分のアクがこびりつき、床は魔物の粘液でベタベタ。
何より、漂う「瘴気」がひどい。
これは掃除のしがいがある。
私は正面玄関から堂々と侵入した。
「おのれ人間め、死を……って、何をしている!?」
襲いかかってきたガーゴイルを、私は無意識にデッキブラシでなぎ払った。
正確には、なぎ払ったのではない。
――磨いたのだ。
「ちょっと動かないで!
翼の裏にコケが生えてるじゃない。
不衛生よ!」
「ぎゃあああ!?
しめる、石鹸がしみる!
……あ、あれ? 体が軽い?」
高純度の聖水を含んだ私の石鹸で磨かれたガーゴイルは、本来の石像の輝きを取り戻した。
さらには、邪悪な呪いが浄化され、真っ白な「エンジェル・スタチュー」へとクラスチェンジしてしまった。
私はそのまま城を突き進んだ。
ドロドロの廊下をモップで拭き上げ、カビだらけのカーテンを洗濯し、換気扇に詰まった闇の魔力を削ぎ落とす。
私が通り過ぎた後には、魔王城特有の絶望感ではなく。
「レモンの爽やかな香り」が漂っていた。
*
ついに辿り着いた玉座の間。
そこには、漆黒の鎧を纏った魔王が鎮座していた。
しかし、私は彼を見るなり、ビシッと指を差した。
「あなた、その鎧。最後に手入れしたのはいつ?」
「なっ……何者だ、貴様。我が威光に恐れをなさぬとは……」
「威光っていうか、それ『サビ』よね?
ほら、マントの裾も泥だらけ。
魔王ならもっと身だしなみに気をつけるべきだわ!」
私は激昂する魔王を無視して、バケツから「特製・高濃度アルカリ聖水」をぶっかけた。
「なっ、貴様、何を――!?
ぐわあああ、温かい!?
浄化されるううう!?」
魔王の鎧から黒い泥のような汚れが剥がれ落ちていく。
数分後。
そこには、金髪をなびかせた超絶美形な青年が、ピカピカに輝く白銀の鎧を着て呆然と立っていた。
「……呪いが、解けた?
歴代の魔王の怨念という名の『蓄積した汚れ』が、たった一杯のバケツの水で……?」
実は、魔王城とは「汚れ」が溜まりすぎて呪いとなった場所だったのだ。
私が城全体を掃除したことで、魔王城は――「世界で最も神聖な聖域」へと変貌を遂げていた。
「リナと言ったか。
……頼む、私の『宮廷洗浄師』になってくれ!
この城を、いや、この世界を君の手で浄化してほしい!」
「ええ、いいですよ。
ちょうどこの玉座の裏のホコリが気になってたんです」
*
その頃。
勇者ゲイルたちは、魔王城に辿り着く前に全滅の危機に瀕していた。
掃除を怠ったせいで剣はボロボロ。
鎧は重いだけの鉄クズと化していたからだ。
「くそっ、なぜだ!
なぜ攻撃が通じない!」
「ゲイル様……見て。
装備がサビついて魔法が発動しないわ。
リナがいないから……!」
彼らが這々の体で魔王城に辿り着いた時。
そこは「世界一クリーンな観光名所」として賑わっていた。
白銀に輝く城門。咲き乱れる花々。
そして、元魔王と仲良く並んで、元気に雑巾掛けをする私の姿があった。
「あ、ゲイル様。
そこ、土足厳禁ですよ?
汚い装備の持ち込みも禁止です。
今すぐ捨てて、その辺の川で身体を洗ってきてくださいね」
「な、リナ……!?
お前、何をしているんだ!」
私は満面の笑みで、ピカピカに輝くデッキブラシを掲げた。
「掃除ですよ。
世界を、ピカピカにしているんです」
後日。
私は「掃除聖女」として歴史に名を刻むことになるのだが、それはまた別のお話。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
「お掃除聖女、もっと見てみたい!」 「勇者たちのその後が気になる……(笑)」 など、もし少しでも「面白い」と感じていただけましたら、
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また次の短編でお会いしましょう!
【追記:連載版スタートしました!】
皆様の多大なる応援のおかげで、本作が全20話の連載版として生まれ変わりました!
短編では書ききれなかった魔王様との甘々なお掃除生活や、フィオナ王女の「黄金タワシ」無双、そして世界の寿命シミを洗う最終決戦まで、設定を大幅に加筆・再構成してピカピカに磨き上げました。
本日より11日間、初日は3回(12時/18時/21時)更新で、一気に完結までお届けします。
「あの掃除の続き」が気になっていた皆様、ぜひこちらからリリアたちの勇姿を見届けてください!
▼連載版はこちらから読めます▼
https://ncode.syosetu.com/n5623ls/1




