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追放令嬢はゲーム知識と生活魔法でダンジョンを攻略する ~もふもふな相棒と始める、自由気ままな冒険者ライフ~  作者: 速水静香
第十五章:偽りの聖女

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第六十四話:英雄の日常、そして新たな企み

 広場は水を打ったように静まり返っていた。

 誰もが、今、目の前で起こったあまりにも劇的な結末に言葉を失っている。


 その重苦しい沈黙を破ったのは。


「―――審問は、終わりだ」


 審問官の長による、絶対的な権威に満ちた声だった。

 彼は、ゆっくりと壇上の中央へと進み出ると、その冷たい瞳で床に崩れ落ちたリアナを一瞥した。


 その瞳には、もはや何の感情も浮かんでいない。ただ、壊れてしまった道具を見るかのような無機質な光があるだけだった。


「これより、中央教会本部の名において、裁定を下す!」


 彼の、魔法で増幅された声が広場全体に厳かに響き渡る。

 広場を埋め尽くした観衆が、ごくりと固唾を飲んでその次の言葉を待っていた。


「告発者リアナ! 貴様は、聖女の名を騙り、私怨をもって、無実の者を貶めようとした! あまつさえ、神より授かりし聖なる力を、己が憎悪のために、悪用しようとした! その罪、万死に値する!」


 魂からの、怒りの断罪。それが、広場全体をびりびりと震わせた。


「よって、本日をもって、貴様の『聖女』の地位を、正式に剥奪する! そして、その穢れた魂を清めるため、北の果て、辺境の修道院にて、生涯を、神への祈りに捧げることを、ここに命じる!」


 それは、もはやただの処分ではなかった。

 社会的な死の宣告。

 二度と、この華やかな表の世界へと戻ってくることのできない、永遠の追放。

 あまりにも重い裁定にリアナは、何の反応も示さなかった。


 ただ、虚ろな瞳で白砂の地面を見つめているだけだった。


 審問官の長は、そんな彼女にもはや一瞥もくれることなく、今度は私の方へとその身をゆっくりと向けた。


 そして。


 その石のように硬かったはずの体を、深々と私の前に折り曲げたのだ。


「……アリア殿。いや、アリア様。我らの、あまりにも愚かな過ちを、どうか、お許しいただきたい。我々は、偽りの言葉に惑わされ、貴女様という、真の聖女を疑ってしまった。この罪、どう償えばよいか、言葉も見つからん」


 その声は、かすかに、しかし確かに揺れていた。

 それは、恐怖からではない。ただ、純粋な畏敬の念。

 私の、あまりにも規格外な力と、そしてその力を決して驕ることのない気高い精神。


 その全てを前にして、教会の権威など、もはや何の意味も持たないことを彼はその身をもって悟ったのだろう。


「顔を上げてください、審問官様。わたくしは、あなた方を恨んではおりません。ただ、真実が明らかになった。ただ、それだけのことですわ」


 私の、あまりにも穏やかな、そしてどこまでも優雅な言葉。


 それに、審問官の長ははっとしたように顔を上げた。


 そしてその瞳には深い感謝と、そしてそれ以上に深い畏敬の念が浮かんでいた。


「……ありがとうございます、アリア様。中央教会本部は、貴女様の活動に、今後、一切、干渉しないことを、ここに神の名において、誓わせていただく」


 彼の力強い言葉。

 それが、この実にくだらなく、そして実に面倒だった問題の終結を告げる合図となった。


 騎士たちが、床に崩れ落ちたままのリアナの両腕を無言で掴み、引きずるようにして壇上から連れ出していく。

 彼女は、もはや何の抵抗もしなかった。ただ、虚ろな瞳で宙を見つめたまま、まるで魂の抜け殻のように運ばれていく。


 その哀れな後ろ姿が雑踏の向こうへと消え去った、その瞬間だった。


「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」」


 大地が揺れるほどの、すさまじい歓声。

 それまで、息を詰めて事の成り行きを見守っていたフロンティアの住民たちが、一斉に爆発的な歓喜の声を上げたのだ。

 それはもはやただの賞賛ではない。


 熱狂。


 この街の英雄であり、真の聖女である私を心の底から称える魂からの叫び。


「アリア様! 万歳!」

「フェン様! 万歳!」

「俺たちのフロンティア、万歳!」


 割れんばかりの歓声と拍手。


 歓声の渦の中心に私はいた。


 私の隣では、フェンが自分の名前が呼ばれたことに少しだけ照れくさそうに、しかし満更でもないといった様子で誇らしげに胸を張っている。


「アリア様! 見事じゃった!」

「アリアさん! 本当に、本当に、ありがとうございました!」


 ドワーフの棟梁や、ソルマーレのマスター、そしてアル=カリードの老人たちが、その顔を喜びでくしゃくしゃにしながら私の元へと駆け寄ってきた。

 彼らは、代わる代わる私の手を握り、その肩を叩き、私の勝利を自分のことのように喜んでくれている。


 その温かくて力強い祝福。


 それに、私は少しだけくすぐったいような、誇らしいような、そんな不思議な気持ちになった。


(……ふう。これで、ようやく静かになるかしらね)


 私は、そんな熱狂の喧騒をどこか遠い世界の出来事のように聞きながら、ふと自分が作り上げたこの白砂の場面を見渡した。

 月明かりに照らされて、神々しいまでに輝いていた昨夜の姿とはまた違う。朝日を浴びて、その一粒一粒がダイヤモンドダストのようにきらきらと輝く白砂の円形劇場。

 その、あまりの美しさに、私は思わずほうとため息をついた。


(……うん。なかなか、いい出来じゃない。我ながら、上出来だわ)


 この壮大な宗教問題の顛末も、偽りの聖女の末路も。


 今の私にとっては、もはやどうでもいいこと。


 私の思考は、すでに次の、新しい『お楽しみ』へと向かっていた。


(……この砂、このままにしておくのも、もったいないわね。家の庭に、小さな砂場でも作って、フェンの遊び場にしてあげようかしら。ああ、そうだわ! 工房の、あの、ごちゃごちゃした道具を整理するための、新しい棚も作らないと!)


 私の頭の中は、もう、次に始める予定のDIY計画のことでいっぱいいっぱいだった。


 偽りの聖女がいなくなったことで、私は最高の日常を取り戻したのだから。


「さあ、フェン」


 私は、隣でまだ興奮冷めやらぬといった様子で尻尾をぶんぶんと振り回している、最高の相棒にそっと囁いた。


「帰りましょうか。私たちの、愛しの我が家へ」

「わふん!」


 私の楽しげな声に、フェンは待ってましたとばかりに高らかに一声吠えた。

 私たちは、人々の歓声に包まれながら、その熱狂の中心を後にした。


 私の冒険は、まだ、始まったばかり。これからも、きっとたくさんの面倒なことや、たくさんの厄介なことが待ち受けていることだろう。


 けれど、もう、何も怖くはない。

 だって、私には帰る場所があるのだから。

 最高の我が家という、何よりも心強いセーブポイントと、そして。


 この世界で一番頼りになる最高の相棒が、そばにいてくれるのだから。

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