表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/13

一員

 ネフィルの背負っていた荷物は、十中八九あのクミリー達に盗られた。では、何処に隠すのか。私なら、誰かに預けて、後を任せる。

「もしかしたら、私を捕らえてたあっちの方にあるかも。」

 確信は無いけど、此処に在るとも思えなくて、来た道を戻る。段々と外の空気を感じなくなっていき、足音が増えていく。

 足を止めた時、周りには、既に黒い集団が武器をこちらに構えており、誰かの放った一言を合図に、一斉に襲い掛かってきた。

 大きな右手で武器を払ったり、蹴り一つで数体を壁まで吹き飛ばしたりと、以前よりも圧倒的に身体能力の上がったネフィルに対し私は、左手に短剣を構えたところで、たった一人の剣でお腹を貫かれ、意識を失う。

 目が覚めたら、もう一度お腹を刺され、切り捨てられる。

「あなた、何度も生き返るけど、呪い被りなら限界、あるよね。迎えるまで何度だって切る。」

 目が覚めた瞬間は、短剣が手に無く、鞄から取り出すか死体()から回収するしかない。だから、意識が戻ったと同時に後ろに跳ぶ。

 幾度切られたかは憶えていない。何体も遺体を重ねて、漸くまともな回避が出来た。すかさず、鞄から短剣を取り出そうとするも上手く取り出せない。

 次に意識が戻った時、ずっと私を切り殺す女性の背中が見えた。その瞬間、私の首目掛けて、右から刃が振るわれ、咄嗟に両手で短剣を構えて受け流す。

 足元に転がる死体()からも短剣を分捕り、決死の特攻を見せるも、敢え無く撃沈。しかし、私は再度女性の背後に現れ、首に短剣を突き立てる事が出来た。

「あ…た……はや…。」

 やってしまった。他でもない、この手で誰かを殺めた。胸が高鳴る。息が苦しくなる。心臓が張り裂けそうな程痛む。

「アイビー、終わった。」

 人生初の殺害に、思考がまとまらない私を余所に、ネフィルは至っていつも通り冷静に私の肩に触れ、声を掛ける。

 ネフィルの方を向いた私は、その奥に広がる惨状に愕然とする。一滴たりとも血が流れていないのに、誰一人として、微動だにしない。この場で血を流しているのは、死体()と私が殺めた女性だけ。

 口が開く事すら忘れ、今ここに居るのは、夢や幻覚ではなく、紛れもない現実の自分自身なのだと、固唾を飲み込み、再認識する。

「あれ、ネフィル。首が…。」

 ネフィルの顔を見ようと視点をずらすと、よりはっきりと白色が姿を現しており、右肩から出ていた黒い粒子は、首の中心から右胸にかけての範囲まで移動していた。

「たくさん使った、当然。」

 無表情で言い放つネフィルに、「どれだけ肝据わってんの。」と思うも、殺害を繰り返すと私も、こうなるのかと、先を見据えるのが怖くなった。

「ここ、離れる、良くない?」

 ネフィルの言う通り、早いとここんな場所離れるのが得策だろう。でもその前に、ネフィルの荷物を見付けないと。

「じゃあ、私は二階見てくるから、ネフィルは…。」

 私が話し終わるより先に、ネフィルは跳躍し、軽々と二階に飛び移って見せた。私が自力で二階に上がった時には、既に半分以上調べていた。

 私は壁から順に調べていき、ネフィルは豪快に壊しながら探す。結局、見つかったのは、私が捕らえられていた檻の隣の木箱に入っていた。

 荷物も取り戻し、退散しようと階段に向かうと、派手な音が響き渡り、飛び降りようと手摺りに乗っていたネフィルは体勢を崩し、落っこちる。その寸前、何とかネフィルの下に潜り込んで、下敷きになる事を選んだが、ネフィルは私を軽く蹴飛ばし、無傷で着地して見せた。床には小さめなクレーターが出来た。

 一方私は、何の工夫も無く床と衝突。完全なる無駄死にをした。明らかに上がっている身体能力を見て、ようやくネフィルの呪い被り、力の窃盗について理解する。

 次に目が覚めた時、ネフィルは私の顔を窺っていて、何かあるのかと身構えていると、ネフィルは、とある事に気が付いていた。

「アイビー、カタル、集まり、早くなってる。」

 ネフィルの気付きで、私の呪い被り、死体残しの特徴がもう一つ発覚した、それは、死ぬ度に復活までの所要時間が短くなるというものだ。

 ネフィル曰く、六秒だったのが四秒になっているらしい。これまでに死んできた明確な数は数えていないけれど、とにかくたくさん死んだのは憶えてる。その数合わせて、二秒の短縮。これに対して、何か思ってはいけないと、理性で思考を阻む。

 気を取り直し、音のした方、基、ネフィルが連れてこられた場所へ急ぐ。

 案の定と言うべきか、積まれた箱や檻が崩れており、一部は脱走し、外に向かって一目散に突っ走っている。

「これは…酷いな。」

 思わず声が漏れた。すると直後、足元に樽が転がってきた。そして、中からは声が聞こえる。

「あ~。あ~。」

 声から察するに、ドゥームーであることは確か。だけど、真面に言葉を教わっていないのか、赤子のような発声をしている。

 開けてみると、そこに入っていたのは、真っ白な色の皮膚と髪。両目の位置には、代わりと言わんばかりに漂うカタル。体格は、私より少しだけ小さな、無足二腕種のヴァーオリーの白皮個体だった。

 樽から取り出そうと手を伸ばすと、直後、私の体は固まり、僅かな身動きすら取れなくなり、私に顔を向けていたヴァーオリーが力無く樽の底に伏した。

 体の感覚は正常で、考えることもできるのに、動かすことが出来ず、声も出せない。

 拘束されてもいないのに、体の自由が利かないというだけで私は、今見聞きしている事の全てが、自分の体に訪れているのかと疑ってしまう。

「悪い人、違う。」

 ネフィルではない、別の誰かの声が頭に聞こえてくる。そして、声が聞こえなくなると、体の自由が戻ったが、あまりに突然の出来事で、体勢を崩し、樽を軽く蹴ってしまう。

「あ!ごめん!大丈夫⁉」

 私が慌てて樽を立て直そうと掴むと、中に居たヴァーオリーが尾を靡かせて這い出て来た。

「あ~。あ~あ~。」

 相変わらず、言葉は通じないものの、お互い敵意が無い事が確認できたみたいで一安心。

「アイビー、逃げる、早く。」

 ネフィルに急かされ、ヴァーオリーを抱えて走り去っていく。幸い、あまり広い国ではないため、日没には国を出て、鉱山横の樹海に到着していた。

 そこからは、走りこそしないが、一刻も早くハージンを離れようと、足は止めなかった。

 鉱山を目印に、真っ直ぐ国を背にして進むこと数時間、荷物を降ろして野宿に備える。振り返って見ると、ハージンはもうすっかり見えなくなっていた。

 全く整備のされていない道を進むのは久しぶりだけど、空いた期間の割には、私の体力を奪っていかなかった。

「う、あ~。」

 勢いで連れてきてしまったが、目の前のヴァーオリーはおそらく、集落が襲われ、拉致されてあの場所に居た。

 種族売買に使われる筈だった商品を勝手に連れ出しているのだから、どちらが悪者になるか分かったもんじゃない。

 かと言って、またあの国に戻るのも、此の子をあそこに放置するのもしたくない。どうしたものか。

「アイビー、次、どこに。」

 糧板を差し出して、ネフィルは訊いてくる。

 目印にしていた鉱山も、気付けば振り返っても見えない所まで来ていた。

「そう言えば、どうしよう。何も考えてなかったな。」

 ヴァーオリーが糧板を見て、物欲しそうな声を出していたため、私の分を食べさせながら、次の目的地について考えを巡らせる。

「まあ取り敢えず、色んな国を見て回ろ。だから、このまま進んで、見かけた場所が次の目的地ってことで。」

 どことなく、ネフィルが浮かない表情になった気がしたけれど、その後は、何事も無く全員が木漏れ日を浴びて起きる事が出来た。

 寝る前にネフィルが提案してくれたことにより、ヴァーオリーには、リーカという名前が付いた。

 それが気に入ってもらえたのかは分からなかったけど、何故か、ネフィルの鞄に体を収めて、手と顔だけ出した状態で落ち着いた。

 長い間、閉じ込められていた影響なのか、元々そういう性格なのか、詳しい事は分からないけれど、あまり外に出てこようとしない。

 けれど、こちらを警戒している様子は無く、旅に付いて行く事に対する不満は窺えない。

 そうして、この当ての無い旅に付いて来る仲間が一体増えた。そのことは喜ばしいが、この子の呪い被りがどんな力なのか、それがまだ分からない。

 色々と不明な点はありつつも、二回夜を過ごした私達は、立ち往生していた。

「雨、この時期でも降りはするんだ。」

 視界の先には、集落が見えているけど、今は足元が泥濘していて、思うように進めない。

 時期に関係無く、一度雨が降り始めると、酷い豪雨が短くても数十分は続く。そのことを踏まえると、今までにも見てきた木々が一向に枯れていないのにも頷ける。

 結局、雨が止んだのはその日の夜で、明かす準備をする頃には、私の顔やお尻、至る所に泥が付き、着替えることにする。

 この世界の鞄は、旅を想定して作られているため、基本全てに防水加工が施されている。そのおかげで、替えの服は無事だった。

 ハージンに居たことで忘れかけてたけど、連日同じ服を着続けていたのだから、匂いも気になってきたし、丁度良い機会だったかもしれない。薪を拾ってくるついでに着替えを済ませて合流する。

 ネフィルにも着替えを促した結果、簡単に断られた。まあ、私と違って汚れていないから、必要は無いのかもしれない。

 朝になれば、足元に注意しながら進むことで、坂道でも、汚れず安全に下る事が出来、集落へ辿り着いた。

 出入り口の門が、同じ高さに見えてきた位から、波の音が聞こえてくるようになり、視線をずらすと、この世界に来て、初めての海を見つけた。

「ねえ、二名は海って見たことある?」

 私の質問に、両者不揃いに首を横に振る。そして、私も海の無い土地で生まれ育ったため、実際には見た事が無い。

 宿に着いたら、真っ先に海を見に行こうと決意する。

 私は、今日初めて海を直接見れるのだと、内心舞い上がっていたのだけれど、いざ見てみるとそこは、高い堤防が、非常に強い波を跳ね返す海岸で、私の想像していた浜辺は、見る影も無かった。

 ただ、ネフィルが珍しく、口を開けて反応していて、リーカも、よく笑っていた。私も、思い描いていたものとは違ったけど、「見れただけ良し。」と二人を見習うことにした。

 しばらく街を散策していると、食料品店を見つけ、保存食品を買い足しておく。ここの糧板は、魚が練り込まれているようで、味が違うとのこと。食べるのが楽しみだ。

 宿に戻る道中、多くの者が騒がしくしている様子が目に入る。何事かと近づくと、グラニの女性が一人、血が流れている右脚を押さえ、苦しそうに引きずっている。

 周りの者は、心配を彼女に呼び掛けるも、その抑制を全て無視して歩き続ける。そこに、高笑いをしながら、一人の人族女性が落っこちてきた。

「その怪我、とても看過できないな。見せてみなさい。」

 その女性は、右の頬にカタルを漂わせていた。

 種族:ヴァーオリー

無足の軟体種族で、肩より後ろに細い骨髄と神経が通っている。

本来、黄緑の体色をしていて、雌は、顔以外の全身が細く硬い毛に覆われている。

尾は、あまり筋肉が無く、枝に掛けてぶら下がることは出来るが、獲物を絞めることが出来ない。

幾つかの種族から同時に命を狙われた過去があるため、他種族に対する抵抗意識はしっかりしている。

種族自体が小さい部類だが、リーカは特に小さく、動きも遅い方なので、野生では生きていけない。

リーカが攫われたのは、種族間での迫害と攫った者が熟達していたことが原因。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ