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旅路

 女性は、ほんの数秒で姿が変わり、現れたのはカプシンの男性。そして、其の男性の左腕は、中腕が無く、前腕と上腕が分離していて、上腕が異様に短い。

「いやあ驚いた。同族以外で、僕の偽装見破られたの初めてですよ。」

 明朗に、そこそこな声量で呆気なく正体を明かした男性は続ける。

「僕はキブ。お二方の名前を伺っても良いですか?」

「わ、僕はアイビー。」

「…?」

 ネフィルは、ケーペレで話す私達の会話が理解出来ず、質問されている事にも気が付いていないから、顔を向けられて、反応に困っている。

「名前聴かせて欲しいって。」

「…ネフィル。」

 私が通訳をして会話をする状態になった。

 名前を聴けたキブと名乗った男性は、明るい声色で続ける。

「アイビーさん、ネフィルさん。お二人の旅は、どのような目的ですか?」

 私は、質問の内容を訳し、ネフィルにも伝えた。其れにネフィルが答えて、再度私が訳してキブさんに伝える。

「僕たちは、靄の烙印(カタル)を消す方法を探すため、旅を始めました。」

「アイビーさんも呪い被りなのですか?」

「はい。只、条件で発動するので、今は靄の烙印(カタル)が出てませんけど。」

「そうなのですか。ネフィルさんは、どのような力をお持ちでしょうか。」

 通訳というのが、これほど疲労が重なるものだとは、思ってもいなかった。体格の違う二人に、別の言語で同じ文章を伝える。出来ることなら、今すぐこの場を逃げ出したい。

 けれど、私の気持ちなんて露知らず、ネフィルは躊躇なく口を開く。

「キブ、どうして詐欺してる。」

「えっと…。」

「どうかなさいましたか?」

 ネフィルの発言に言葉が詰まる。翻訳をする私の身にもなってほしいものだ。

「…どうして詐欺をしているのか。と訊いてます。」

「ほう。」

 キブさんは、微塵も動揺すること無く、変わらず声色は明るいまま。

「あなた方は、警備でも、憲兵でもない、ただの旅のお方。お話しても良いかもしれませんね。」

 そう言って、表の看板を”えいぎょうちゅう”から”きゅうけいちゅう”にして、お店の奥へと案内してくれた。其処で初めて気付いた。此処が、キブさんのお店であることを。

 会計をしてくれた店員さんも、黒い粒子が流れ落ちた後は、大きめなぬいぐるみとなった。

 お店の奥に在った扉の先は、下り階段が続いており、地下へを足を進める。そうして着いたのは、何かの作業場と思われる部屋。

 壁には様々な道具が掛かっており、隅に置かれた机には、大量の紙が重なっている。その横に、本の詰まった棚が在って、部屋の奥は、巨大な生物が暴れたと言われても疑わない程、壁と床と天井に大量の凹凸が見える。

「此れは…。」

「僕は、呪い被りが何なのか、何故生まれたのか、どうして遺伝性や統一性が無いのか、それを研究しているのです。」

 キブさんは、至って冷静だ。私は、ネフィルが服の袖を引っ張って、翻訳を訴えてきている事にも気が回らない程、部屋の惨状と異臭に滅入っていた。

「アイビー!」

 ネフィルの呼ぶ声で、私は我に返る。そして、ネフィルにキブさんの言っていた事を伝える。

「研究、一人で…。どうして詐欺になる。」

 ネフィルの意見も尤もだ。協力者が居るにしても、詐欺をする道理が分からない。

「何故…。実に簡単な事ですよ。僕自身も研究対象ですから、力は正確に把握しておく必要があるのですよ。」

「じゃあ、此の部屋の此の有り様は、此の匂いは、どう説明するんですか!」

 多分、私は今までの人生で、一番声を荒げたと思う。其れは、鼻を劈くような此の異臭が、異世界にやって来て、嗅ぎ慣れたくない匂いの集合のように感じたからだ。

 私の問いにキブさんは、少しの間を開けて、また変わらない声色で話してくれた。

「…ここには、元々僕以外にも住んでいた者が居たのです。」


 僕は、カララの本舎に入舎し、呪い被りについて調べていました。僕自身が呪い被りという事もあって、同じ研究内容の者が居ても、僕が単身、書斎に籠もる事は少なくありませんでした。

 そんな時、偶然にも呪い被りの協力者が得られたのです。それも二名。片方は、医者志望の人族(ジョーハ)の女性、キュッサさん。二腕種は、大抵が店舗に立つ業種を選ぶため、医者を目指すという方は珍しい。

 もう片方は、救命隊所属の獣族(エルジー)の女性、アスッテ・ラードさん。貴族の生まれであり、将来の心配が無い育ちの方だそうですが、救命活動に生きがいを見出し、何とかご両親を説得して、救命隊に入隊したのだそうです。

 二名は、行動理念が命を救うという共通点から、知り合って間もなく親近感を覚え、行動を共にするようになったとのこと。

 事件や事故が発生すると、アスッテさんが負傷者を保護し、キュッサさんが治療する。お決まりの流れでした。

 アスッテさんは、背中から。キュッサさんは、右頬から靄の烙印(トゥーケ)が出ており、どちらも、靄の烙印(トゥーケ)に触れた後、対象に触れる事で力を発揮していました。

 アスッテさんの力は、変化。対象の物質自体を全く別の物へと変えてしまうのです。そのため、瓦礫の撤去でも、アスッテさんは、重宝されていました。

 キュッサさんの力は、複製。対象と全く同じ物を作り出すのです。その力を負傷者の細胞に使い、回復の手助けをするという方法で、医療に活用出来ないかと奔走していました。

 僕は二名に、研究を手伝って欲しいと頼んだんです。当然ながら、僕も知識を提供することで、二名とも、快く引き受けてくれました。

 その日から、キュッサさんとは、力の汎用性や制御を、アスッテさんとは、範囲と限界を解き明かしていき、僕自身の力も利用して、研究を進めていきました。

 二名が卒業する頃、実は家を借りていたようで、各々仕事をしながら僕の研究に付き合ってくれていました。

 そして、僕が卒業する頃には、僕のために地下研究室まで用意してくれていて、

「一緒に住まないか?」と、誘ってくれたんです。とても嬉しいお誘いでした。

 家の敷地面積よりも広く、材質も家には一切使われていない物で作られた地下研究室は、ここが借家であることを忘れさせる程見事な出来栄えでした。

 違法建築であることは、全員が理解していました。それを承知で二名は、

「キブの研究は、絶対この世界の住民全てにとって、助けになる。」と確信を持ってくれたのです。


「僕は、あの二名のおかげで研究を続けられました。成果を出せました。ですが…。」

 キブさんの声色が変わり始めた。おそらく、此処からは個人の事情に踏み込んだ話になる。そう感じずにはいられない程、キブさんの言葉は、重みを孕んでいた。

「まだ未知の部分が多い力で救命活動をするのは、危険だと判断する者が居たのです。」


 キュッサさんが仕事から戻って来て、いつも通り、僕の研究に付き合ってくれていた時です。その時は、アスッテさんはまだ戻っておらず、二人で細胞の複製を試みていたところでした。

「すみませーん。」

 玄関の扉を叩きながら、中に聞かせるように大声を上げている者が居たのです。

 その日に来客の予定は無く、何者かわからないため、地下へ続く扉を閉じ、玄関の扉を開けに向かいました。

「はい。どちら様でしょうか。」

 開けた扉の前には、大変身なりの良いグラニ(ゲッサウ)の男性が立っていました。

「ここに”呪いの散布医”が居るそうですね。出してもらいましょうか。」

「どなたの事をお探しなのかは分かりませんが、ここに呪いを散布しようなどと画策している者は断じて居りません。」

 しかし男性は、僕の制止を振り払い、家内へと侵入。

「匿うということは、あなたも共犯なのですね。」

 そのまま地下へ続く扉に手を掛ける男性。この時僕は、キュッサさんの冤罪よりも、違法建築を施した地下が露呈することを恐れていました。

「負傷者を救ったふりをして、世界に呪いを広げようとしているのでしょう?隠しても無駄ですよ。」

 何度注意を促しても、全く聞き入れない男性に憤りを覚えながら、次第にキュッサさんの姿が見え始めてしまいました。

 男性とキュッサさんが対峙すると、男性の奥、部屋の壁がいつもより近く、とても狭く感じました。おそらく、キュッサさんが機転を利かせてくれたのでしょう。

「あなた、患者に呪いを植え付けているそうですね。とんだ医師の恥さらしだ。」

「一体何のことですか?僕は自分の力を医師の仕事に役立てているだけです。実際、患者の方には、何の異常も見られていません。」

「正体不明な怪しい力を使っていることに変わりはないでしょう?一見、助けたように振舞っても、後々裏切ることだって可能ではありませんか?」

 何の確証も根拠もないのに、好き放題言葉を浴びせる男性に更なる憤りを覚え、思わず割って入りそうになりましたが、キュッサさんが僕の方を見た時、その思いを押さえつけることにしました。

 途中から言語が変わり、会話の内容は、僕には理解できませんでしたが、激しい口論になっていることは見て取れました。


「それから程なくして、キュッサさんは、医師の資格を剥奪され、除名されました。その男性は、医師の中でもかなり高い地位を獲得しており、故意に権力を使用したのです。」

 謂れの無い罪で、大切な人が職を失ったという話をしたキブさんの様子は、妙に冷静で、怒りや憎しみを抱いているようには思えない。

「それじゃあ、アスッテさんは?一体どうして…。」

 私の質問にも冷静に、淡々とキブさんは答える。

「その日に亡くなりました。事故現場に落下してきた瓦礫に変化が間に合わず、そのまま下敷きになったそうです。」

 私は、言葉が出てこなかった。言語が通じないネフィルには、私達がどう映っていたのか、其れを確認する余裕は、今は無かった。

「僕は、どうしてもその男性を野放しにしておきたくなかったため、ここで僕の実験に”協力”してもらいました。」

 キブさんの協力という言葉に身が凍り付く。どんな実験をしていたのか、想像したくはないけれど、凄まじい部屋の状態を見るに、何となく察しが付く。

「…詐欺、してた理由、何?」

 ネフィルが服の裾を軽く引いて尋ねる。そう言えば、其処をまだ訊いていなかった。

「じゃあ、詐欺をする理由は?どうしてあなたは、本当の犯罪を…。」

 キブさんは、再び明るい口調に戻り、私の問いに答える。

「僕、研究の傍ら、憲兵に志願しているのです。そのため、街中を騒がせている詐欺事件の犯人を捕まえ、確実に憲兵になれるように準備しているところです。」

「準備…?」

 全身から冷や汗が浮かび、悪寒が走る。

「はい。今は、呪い被りが意図的に作り出せるのかを研究している最中です。」

 キブさんは、自作自演で憲兵になろうとしている。そして、私達は本物の呪い被り。嫌な予感がしてならない。

「安心してください。僕は、あなた達を犯人に仕立て上げるつもりはございません。」

 その言葉が本当かどうかは分からないけれど、少しだけ安心した。それと同時に、考えている事が見透かされた気がして、動揺した。

「あなた達は、何も悪事をしていないのですから、犯人にする必要がありませんよ。それに、犯人はもう、決まっていますから。」

 建築:扉

横開きでない限り、玄関戸の蝶番は、中から見て右側に、室内戸は左に付いており、どちらも外開き。

木造が主流だが、民家では石が含まれており、牢獄では鉄扉が使用されている。

基本的に横開きは、民家に用いられ、宿屋といった出入りの多い施設では、両開きになっている。

扉全般、本体よりも、蝶番の方が頑丈で、意図的に壊すことは容易ではない。

荷車にも扉と呼ばれる個所が後方に有り、蝶番は下に付いている。

キブの店は、元々民家だったが、初めから片開きの扉を使っていた。

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