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第九話 鍛治師の村

 「......」

 

 もっと集中しろ、深く、気配を探れ......


 「......!ここだ!!」


 ディンは狙いをすまし剣を振る。振るう斬撃は的確に一枚の葉を二枚に分ける。


 【残りあと53回です】


 俺とフレイラはクルト村を出た後、次の村に行く前に各自の弱点を補うための修行を行なっている。

 【努力の権能】の力を特訓で使うことができないか試した結果......

 俺は権能から謎の指導を受けながら修行を行なっている。

 

 「ふぅ......これで集中力と反射神経の特訓終わりっと......」


 【水分補給と5分の休憩の後は持久力の特訓に移ります】


  「本当に便利だな......俺の権能......」


 この修行が始まってから一週間が経った。

 フレイラは今別の場所で修行を行なっている。あいつと会う時は夜寝る前だけで、それ以外の時間は別々の場所で修行を行なっているので会うことはない......

 最初はこの考えに俺は反対だったが、フレイラの圧にやられて仕方なく賛成したってわけだ......

 

 「フレイラ......大丈夫かな......」


 フレイラも俺と同じく焦っていた。あまり無茶をしていなければいいけど......

 

 「いかんいかん......今は自分のことだけに集中しなければ......」


 ーーーこうして俺たちは二週間の特訓期間を終えて次の村を目指していた。


 「なあフレイラ」

 「何?」

 「いや、特訓期間はずっと喋ってくれなかったから......俺嫌われたかなって......」

 「バカね、別に嫌いになったわけじゃないわよ......それで?少しは強くなったんでしょうね?」

 「まあな......」

 

 あの二週間を通して、俺は少しずつだが自分自身の権能の力がわかってきた。

 まず【努力の権能】の能力を発動するにはいろいろな条件があった。


 ①『目標』の設定には自分自身が実現可能な範囲でしか設定することができない。

 ②『目標』には明確なイメージがなければならない。

 ③【努力の権能】の力は1日につき一回しか使用することができない。


 わかったことはこの三つの条件。

 ①はたとえば「俺が今から一瞬でスイシャ村に戻れるようにするには」とか、実現不可能な『目標』には反応しない。

 ②は自分の脳内でその『目標』が具体的にイメージできなければ発動しないことだ。「名前だけ知ってる相手だったり、伝説上の生物を倒す方法」とか、その内容が曖昧では反応してくれない。


 この能力を使って俺は二週間の間、効率的に特訓することができた。

 しかし、権能の能力は少しずつわかってきたのだが......いまだによくわからない部分が多くある。

 どうして俺の権能は今まで発動しなかったのか、魔族との戦いの中で発動した時は情報の中にもやがかかっていたのはなぜか......


 そんなことを考えているうちに、次の村である『オルフェ村』が見えてきた。


 『オルフェ村』は鍛治師の村と言われていて、様々な武器や防具のお店が村中に存在するのだ。

 そんな『オルフェ村』で俺たちも武器と防具を新調しようと考えている。


 「まずは寝床の確保だな、村の宿は......あそこか!」


 俺たちは村の宿屋に向かい、部屋を予約する。そのあとは少しの間自由行動となった。

 

 「ん〜色々みたいところはあるけど、まずはやっぱり武器屋だな!」


 村には様々な鍛冶屋が存在している、どの店も腕利きの鍛治職人ばかりでどこに入ろうか迷ってしまうな!


 「おに......さん......そこのお兄さん!!そこの黒髪のお兄さんだよ!」


 自分のことかと思い後ろを振り向くと、そこには橙色の艶やかな髪を結び、ところどころ絆創膏を貼った小さくて可愛らしい女の子がいた。


 「ようやく気づいてくれましたか!お兄さん、その見た目からして旅の方でしょう?」

 「ああ、その通りだけど......」

 「この村によったのも新しい武器や防具を揃えるため......そんなところでしょう?」

 「......そうですけど......」


 彼女は目を光らせて唐突に俺の手を握る。


 「やっぱり!!そんなあなたの武器と防具、私がお作りいたしましょう!!」

 「はい!?」


 いったい何を言っているんだこの子は......って、そういえばこの村についてフレイラに聞いた時......


 「なあフレイラ、次に向かうオルフェ村ってどんなところなんだ?」

 「オルフェ村は鍛治師の街と言われているところよ......村では少し特殊な風習があって確か......鍛治師がお客を選ぶらしいわ」

 「鍛治師がお客を?」

 「なんでも鍛治師に気に入られた人はその年一番の装備を見繕ってくれるとか......」


 彼女は自信満々の表情で俺をみてくるが、こんな小さな女の子が鍛治師だというのか......

 

 「ここで出会ったのも運命ですよ!なのでさあ!」

 「いやいやいや!君と出会ってまだ数十秒しか経ってないよ!それにまだ決めるにはってああああああ!!」

 

 俺は強引に彼女に引っ張られながら連れ去られてしまう。俺よりずっと小さく非力そうな女の子のどこにこんな力が! 

 

 「さあさあ行きましょう!私たちの愛の巣までレッツらゴー!!」

 「誰か......誰か助けてくれぇぇぇぇぇぇ!!!」


 ーーーこうして俺は強制的に彼女のお店へと連れて行かれたのだ......


 「ということで!!どうします!なーんでもお作りしますよ!!」

 「これは......」


 無数の武器や防具が並べられている。そのどれもが素人が見ても造りが良いと思えるほどで、まるで宝石のような輝きを帯びていた。

 

 「ここにあるもの全部君が作ったのか?」

 「そうですよ!あと、私の名前は『エリーナ・ラタロッタ』です!今後はエリーって呼んでください♡」

 「えっと......エリーはなんで俺なんかを選んだの?」

 「ッ!そ、それはですね〜♡」


 エリーナの頬は赤くなり、モジモジと体をくねらせ、恥ずかしがりながら話す。


 「実は〜、あなたの姿を一目見たときにぃ〜、ビビッときたんです!!」

 「ビビッと?」

 「そうです!その黒く染まった気高い髪の毛!いくつもの年月を重ねて磨き上げてきたであろうその体!」

 

 そう言ってエリーナは指を天に指す。


 「あなたこそが!私が今まで待ち焦がれた予言の人だと!そう確信したんです!」

 「予言の人!?」

 

 予言の人とは一体なんなのか......エリーナの言葉に戸惑っていると急にエリーナは俺の体に抱きついてきた。


 「エリーナさん!?」

 「んふふふふ〜仕事上でお客さんの体の寸法を図ることはありますけど......男の人の体ってこんなに硬くって、逞しく感じるんですねぇ〜♡」

 「あの......その......」

 

 こんな積極的にされてしまっては......俺は......俺は......!どうにかなってしまう!!

 そんな精神が参ってしまいそうな状況の中、突如店の扉が開く。


 「っ......!?って、あれ?」

 「誰も......いない?」


 扉がひとりでに動いただけなのか、そこには誰の姿もなく、シーンとした静寂が訪れる。


 「なんだ......びっくりした......ってうぉ!!」


 突然店の中にある商品がガタガタと動き出す。

 

 「なんだ!?何が起こっているんだ!?」

 「まさか!『現霊の盗賊』!?」

 「なんだその盗賊ってぐぉぉぉぉ!!??」


 ひとりでに動く鎧と剣は俺に飛びつき、攻撃してくる。

 そんな鎧と戦いを繰り広げている時、騒ぎを聞きつけてきた村の自警団が駆けつけてきた。


 「現れたな!!今日こそは成敗してくれる!魔術師殿、よろしくお願いします!」

 「私に任せなさい!!」

 「フレイラ!?」


 自警団と共に現れたフレイラは、詠唱を始める。


 「『ー霊光弾ー』!」


 悪を滅する無数の光は動く鎧に向かって放たれる。

 しかし、鎧は迫り来る魔導弾を全て避けながら店の出口へと向かっていく。


 「出口を包囲しろ!絶対に逃すな!!」


 出口に包囲網を敷き、逃走経路を潰す。しかし鎧は出口に出た瞬間地面に崩れ落ち、何事もなかったかのように動かなくなってしまう。


 「クソ!また逃げられたか!!」

 「いったいなんだったんだ......」


 事件後、俺はフレイラに状況を説明してもらった。

 どうやらこの村では武器や防具などが勝手に動き出し、森の奥へと姿を消してしまう事件が多発しているらしい。

 この現象についてはよくわかっておらず、村の人からは幽霊の仕業と噂されており、『現霊の盗賊』という名前までついているのだとか......


 「その『現霊の盗賊』とやらを捕まえるためにフレイラは協力していたと......」

 「ええ、この村の自警団とはスイシャ村にいた時に関わりがあったから挨拶しに行った時に頼まれたのよ」

 「なるほどな......」

 「ところで」


 コホンと咳払いを挟んでフレイラはエリーナをとてつもない殺気を放ちながらも笑顔で話しかける。


 「あなたは一体ディンとどういう関係なのかしら♡」


 束の間の安息から一変、俺はフレイラの誤解を解くために必死になって弁明するのであった......

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