第八話 乗り越える意志
【『対象』魔族エレモアの能力開示】
【エレモア】
種族:魔族/女性型
【物理】 A+
【防御】 B
【敏捷】 B
【魔力】 A+
【魔法攻撃】A
【魔法防御】C+
【運】 A
『使用魔法』
【ー舞闘戦姫ー】自身の魔力を鎧に変化させる創造魔法。鎧の耐久力は消費した魔力の量に比例する。
【ー邪霊砲弾ー】闇属性の魔導弾を放つ闇魔法。防御貫通能力有り。
【ー全身強化ー】自身の全ての能力を向上させる支援魔法。
【ー感覚強化ー】自身の感覚を向上させる支援魔法。
『繧ケ繧ュ繝ォ』
【妃毒の権能】閾ェ霄ォ縺瑚ヲ冶ェ阪〒縺阪k逕溽黄縺ォ迪帶ッ堤憾諷九r莉倅ク弱☆繧
【『対象』魔族エレモアの対処方法、開示】
『情報提示』【ー蛇王の圧政ー】
『生存』 フレイラ・フィニット
『推奨』 光属性魔法の使用
『推奨』 治癒魔法の使用
『推定難易度』 A+
ディンは全ての情報を瞬時に理解する。
所々の情報にもやがかかっている部分があることは謎だがディンはこの情報が自身の権能の能力であると悟る。
「頼んだぞ......フレイラ......!」
結界魔法で威力を軽減し、自身の魔法防御の高さも相まって一命を取り留めたフレイラ。
ディンが彼女の名を呼ぶ。フレイラはボロボロになった体を動かし、詠唱を始める。
「詠唱プロセス......開始......闇を払う光の奔流......輝きと暗黒は表裏一体......白色の剣よ、今ここに導きを示せ......」
『ー聖剣錬成ー』
フレイラは狙いをすまし、生成した聖剣を空に投げる。
空に投げられた聖剣は輝きを増し、見えない何かを貫く。
「ギィエェェェェェェェ!!!」
叫び声と共に顕になる翼を宿した悪魔の姿。悪魔が浄化されると同時にこの空間に隠されていた邪法陣が現れ消滅していく。
「あなたと使役した悪魔の位置を入れ替わる方法で邪法陣に刻まれた転移魔法を起動させる......」
「あとは悪魔に隠密魔法で自身の気配と姿を消させれば、魔力の消費を抑え、あたかも様々な位置に無詠唱で瞬間移動ができると錯覚させられる......そんなところかしら......?」
瞬間移動のカラクリを解いたフレイラは余裕の表情を作る。
フレイラはディンがエレモアの動きを止められる時間がほんの僅かであることを察し、相手の動揺を誘うため、続けてエレモアを煽る。
「瞬間移動ができなくなったあなたなんてただの魔物と変わりないわ、このまま光に浄化されて消え去りなさい」
ディンの魔力が尽き、エレモアの拘束が外れた瞬間。エレモアは鬼の形相でフレイラの息の根を止めるため近づく。
フレイラは自身の体に刻まれた拘束魔法を解く。
今まで封印していた力が溢れ、フレイラの体は光を帯びていく。その輝きを浴びたエレモアの体は焼き焦げていく。
「ッッ......!これは......対魔の装衣!?」
「大正解よ、私はあなたたち魔族相手に無策で挑む程、愚かではないわ」
フレイラが普段身につけている服は魔族を滅する光を纏う『対魔の装衣』と呼ばれる装備。
しかしその力は強大で、装備していると常に効果を発揮するため魔力を消費してしまう欠点を抱えていた......
フレイラはその欠点を自身の拘束魔法で装衣の力を封印することで克服していた。
対魔の装衣によってエレモアは近づくことができない。
そんな圧倒的に不利な状況の中、突如エレモアは不気味に微笑む。
「あなた達を強者と認めるわ......あまり使いたくないけど、見せてあげるわ、私のけ、ん、の、う♡」
「まさか!?」
ディンはエレモアの情報の中にあったもやのかかった部分を思い出す。
「フレイラ!逃げろ!!」
【妃毒の権能】権能の名称から最悪の結末を予期したディンは叫ぶ。
フレイラは自身の身を守ろうと距離を取ろうとするが、突如体が動かなくなる。
フレイラの目からは血が吹き出し、体は痙攣を起こす。何が起こったのかわからぬまま、フレイラは倒れる。
「さあ、これで本当の終わりね」
「クソッ......」
「私の権能は私が視た生物に猛毒を付与することができるの♡あまり使いたくないけど、あなた達を倒すにはこれしかなかったからね......」
エレモアはゆっくりとディンに近づいていく。
「あの子の命もあと数分ってところね。でも安心して、私の毒には脳内を麻痺させる効果があるから、苦しまずに死ねるのよ♡」
魔力を全て使い切ってしまったディンには戦える力はない。絶体絶命の状況に敗北を悟った時......
ザシュッ!!
エレモアの体に突き刺さる魔力を帯びた剣。何が起きたのかわからないディンに錆びついた鎧を装備した人物が手を差し伸べる。
「ギルマン......さん......?」
「遅くなってすまない、準備するのに少々時間がかかった」
「どうして......」
「あなた達の姿が、昔の私たちに似ていたんです。王国を守るために、勇猛果敢に立ち向かっていたあの頃の私たちに......」
彼の拳は震えていた。何十年も抱え続けていた恐怖に打ち勝つことは、一朝一夕で出来ることじゃない。
「まだ体が震えます......戦うことが、死んでしまうことが怖い......でも!!」
剣を掲げ、ギルマンは覚悟を決める。自分が犯した過ちに、過去への恐怖に決着をつけるため。
「ここで引いたら......!私は何も変われない!!」
ギルマンはエレモアとの距離を測りながら、剣を構える。
「まさか......あなたみたいな狐に噛まれるなんて......腐っても元王国騎士ね......♡」
不意打ちで受けたエレモアの傷はすぐに塞がっていく。
「やはりあの程度の傷であれば瞬時に再生してしまうか......」
「ギルマンさん、どうするんですか......あの魔族相手にその装備では......」
「確かに、私一人でどうにかなる相手ではないでしょう......私一人では、ですが」
『ー敬愛と聖槍ー』
無数の聖なる槍がフレイラを貫く。
「そうね......私の力があれば全て解決よ」
「フレイラ!?大丈夫なのか!?お前、さっき猛毒に犯されて......」
「ええ、ギルマンさんのおかげよ」
「私の権能【慈悲の権能】の力で毒を取り除いたのです」
【慈悲の権能】
自身が認識できる範囲に存在する生物の状態異常を回復することができる権能。
フレイラの体を蝕んでいた猛毒はギルマンの権能によって消滅していた。
「あとは私に任せなさい!」
「詠唱プロセス開始。罪と罰、星海に流るる7つの願い、人の世に生まれる聖なる星よ、我は望む、我は誓う、願う力は反響し、交わり一つとなる」
「ッ......!させないわ!!」
「私をお忘れか!!」
エレモアと対峙するギルマン。エレモアの攻撃を老体を酷使し、血反吐を吐きながらも必死に捌く。
「こんなことで私の罪は消えぬだろう......しかし!ここで取り戻さねばならんのだ!私に託して死んでいった者のためにも......今を生きる子供達のためにも!!」
「我、正義の体現者、この思い、我が身を持って示さん!!」
『ー聖光ー」
何重にも重なった神々しい光の線が、エレモアとギルマンを飲み込む。
「グゥゥゥゥゥゥッ......!!完敗よ......あなた達......とっても......素敵だわ......♡」
「光に飲み込まれよ......悪き者よ......」
「ギルマンさん!!」
「大丈夫よ。あの人にはもう、悪の心も罪の悔恨の念もないわ」
光は徐々に輝きを失っていき、その中に映る影は一人。
「どうやら......終わったようですね......」
「ギルマンさん!!」
「あの魔族に聞きたいことは山ほどあったけれど、そうも言ってられなかったわね......」
「ああ......これであとは......村の人の......救助......を......」
エレモアを倒し全てが終わった、今まで張り詰めた思いから解放されたディンはその場に倒れ、気を失った。
ーーーー目を覚ますと俺は、クルト村の病院で入院している状態だった。
どうやらあのあとは無事村の人の救助に成功したらしく、今は全員治療が終わり、後遺症も残らず日常生活に戻ることができたようだ。
ギルマンさんも自身の過ちを村の人たちに謝罪し、子供達の説得もあってか村からの追放はされず、現在は罪を償うために、村の復興と警備の強化に力を入れているらしい。
こうして平和を取り戻したクルト村で俺は二度目の入院生活を送っている。幸い怪我はすぐに治るとのことで、三日後にはこの村を出る予定だ。
「それにしても......どうしてお前はピンピンしてるんだ......」
あの戦闘で死んでもおかしくない攻撃を喰らったはずのフレイラは病院で軽い検査を行い、数日安静にしていただけで元気になっているというのに......
「俺は倒れてから三日間眠り続けていたのに......この差はなんだ!」
「あなたが弱いからよ」
「うぐっ......」
俺が弱いことは俺が一番よくわかっている。今回の戦いでも俺は、自分の力だけでは何もできなかった......
【努力の権能】の本来の力を使っても、ギルマンさんが加勢に来てくれなければ、俺とフレイラはなすすべなく殺されていた。
「フレイラ......俺、絶対もっと強くなって見せる。どんな敵が相手でも負けない力を......」
「そうね......私も一緒よ......もっと強くならないと......」
三日後、俺とフレイラはクルト村を旅立つ、この村には随分とお世話になってしまい、少し別れるのが辛かったが、これ以上予定を伸ばすわけにはいかない。
「この村を救ってくださり本当にありがとうございました!こんなものがお礼になるかわかりませんが、フレイラ様お望みの魔導書です」
「ありがとう、大事に使わせてもらうわ」
「いつの間にそんな物を......」
俺たちは村の人たちに別れの挨拶を済ませ、村を出ようとする。
そんな時、ギルマンさんとチャコルが大慌てでやってきた。
「はあ、はあ、すみません......あなた達の見送りに遅れてしまって......」
「大丈夫ですよ、ギルマンさん」
「本当になんとお礼を言っていいか......あなた達がこの村に訪れていなかったら、私は一生自分を責め続けて生きていたでしょう......」
今回の一件で、ギルマンさんは村の自警団に所属することになった。王国騎士としての経験を生かして、これからはこの村を守っていくのだ。
「僕も大きくなったら父ちゃんのような立派な騎士になるんだ!そしてこの村を守っていくんだ!!」
チャコルもギルマンさんに剣術を教えられながら騎士になるために頑張っていくらしい。
二人と別れの挨拶を済ませ、俺たちは村を出る。
初めての魔族との戦い、俺たちは歯が立たなかった......今よりももっと強くならなければ......
そうして俺たちは同じ志を持ちながら、深い森の中を進んでいく。