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第七話 努力の権能

 「あなたのさっきの質問に答えましょうか?私のこのコートは、魔王様に忠誠を誓った魔族だけが着ることを許されるの。あなたのお知り合いの魔族も魔王様の手の者だということね♡」

 「魔王の手先......」


 魔王とはこの世界の理から逸脱した存在である『災厄(さいやく)』と呼ばれる者の一人。

 この世界の魔物や魔族を従え、人間界を支配しようとしている。まさかこの魔族が魔王軍に属しているなんて......


 「そう......なら全て話してもらうわ。この戦いが終わった後にね」

 「あら、強気ね♡いいわよ、あなたが勝ったらあなたが知りたいこと全部話してあ、げ、る♡」


 大地が揺らぐほどの魔力の放出。過剰に放出された黒く澱んだ魔力は徐々にエレモアの体を包み込み、形を帯びていく。


 「どう?なかなか似合ってると思わない?『ー舞闘戦姫(ドレスコーデ)ー』私の得意魔法よ♡」


 自身の体に纏うは魔力でできた鋼鉄の鎧。

 ディンは驚きを隠せなかった。その圧倒的な魔力にではない、彼女が魔法詠唱を一切行わなかったという事実にである。


 「詠唱破棄、無詠唱だと!?」

 「ディン、そのくらいで驚かないで」


 そのくらいと言われても、魔法を使うには必ず術式をコントロールするための詠唱が必要だ。

 その詠唱を使わずに魔法を発動させる為にはその魔法の術式の構造を完全に把握し、脳内だけでそのイメージを作り出さなければならない。

 普通の人間がそんなことをしたら、脳の容量が足りずに気絶してしまう......これが魔族の力か!


 「ワイバーンを倒した時と同じ作戦でいくわ、ディン!」

 「わかった!!」


 今の俺と奴との力量がわからない以上、危険な行動はできない......

 俺は『ー影の立役者(サイレントジャック)ー』を操り、奴の能力を限界まで引き出すことを第一に考え行動する。

 

 相手との距離を瞬時に詰め、影で作り出した短剣を振るう。しかし振るった短剣は魔力の鎧で容易に防がれてしまう。

 

 あの攻撃が防がれた!?「ー影の立役者(サイレントジャック)ー』で作られた分身の攻撃はどんな防御も貫通するはず......

 っ......!驚いている暇はない、奴のあの鎧を貫けないのなら、奴の肌が露出した部分を狙う!


 自身の分身と共にエレモアを囲う形で陣形を組む。


 「あら、私を囲んで離さないってわけ?や〜ん♡エレモアこわ〜い♡」


 警戒を強め、ディンはエレモアの隙を伺い続ける。

 エレモアの間合いを確かめるために距離を縮めていくが、エレモアが仕掛ける素振りは見せない。

 しかし......


 「っ!バカな!?」


 目を逸らしたわけでも瞬きをしたわけでもない......一秒前、いや0.1秒前までは必ずそこにいた......なのに......

 

 エレモアの姿はない。動揺した俺に、後方からフレイラが叫ぶ。


 「後ろよ!!」

 「なっ!?」


 咄嗟の判断で体を守る、しかし高速で放たれた拳に、ディンはなすすべなく吹っ飛ばされる。

 

 「どう?私の拳は?こう見えて私、格闘技を(たしな)んでんでいるの♡」

 

 壁に激突した衝撃に体は耐えきれず、ディンは血を吐き出す。


 ......くそ!あの時のライノールさんよりも速い......!いや、何かが変だ......

 ディンは先程の出来事に違和感を感じる。


 あの攻撃には殺気も気配もなく、気づいた時には俺の後ろに回り込んでいた......

 ライノールさんの時のような速さだけで説明がつかない何かがある。


 『ー敬愛と聖槍(セインランス)ー』『ー霊光弾(フォトンレイ)ー』『ー寵愛なる清廉歌(ホーリーチャント)ー』


 フレイラの放つ三種の魔法。光属性を付与された聖なる槍、対象を追尾する光の魔導弾、悪しき感情を持つ者だけに対し、動きを制限する天使の歌。その全てがエレノアに向けて放たれる。


 「どれも喰らったらタダじゃ済まないわね......でも♡」


 無数の槍と自信を追尾する魔導弾をフレイラは自身に届く瞬間に消える、槍は壁にぶつかり自壊、魔導弾は標的の急な座標変更に対応できずにあらぬ方向に飛んでいく。


 目の前に現れ、フレイラに躊躇いなく放たれる正拳。しかし予知していたフレイラの周囲には結界魔法が貼られていた。

 

 「......っ!」

 

 すぐさま危険を察知しフレイラから距離を取る。その隙を逃さんとするディンの分身は短剣による一点集中の攻撃。しかしコンマ一秒、エレモアは消え、攻撃は外れる。

 体勢を立て直し、次の行動を伺うディンとフレイラ。


 「あの瞬間移動のカラクリを見つけなければ、何度攻撃しても無駄だな......」

 「えぇ......私の予想としては魔道具を用いた転移魔法の簡略化、あるいはこの空間に何か仕掛けがある可能性が高いわ」


 事前に用意していた通信魔法で相手に思考を読まれないよう会話を続ける。


 「なら俺は再度奴の注意を引きながら能力を暴く、フレイラはこの空間内を調べてくれ!」

 「わかったわ!」


 もう一度......そう呟いてディンは自身の体に鞭を打ち、立ち上がる。


 ディンが注意を引きつける中、フレイラは最大限集中し、周囲を見渡す。

 

 もし私自身が彼女の動きを再現するとしたらどうする......無数のアイデアを脳内でシュミレートし、どれが最適解であるかを探る。

 しかしその並外れた集中力は周囲から彼女を隔絶し閉じ込める。その隙をエレモアは逃さない。


 「何か考えてるようだけど......隙だらけよ♡」


 ディンと分身を軽くあしらいながらエレモアは詠唱を始める。 

 詠唱を止めることに全力を尽くすもエレモアとディンの実力差は歴然であり、簡単に魔法の発動を許してしまう。


 『ー邪霊砲弾(エヴィルレイ)ー』

 全てを飲み込む暗黒の闇が、フレイラを襲う。

 闇は結界魔法に阻まれ、進行を抑えるも、徐々に光を飲み込んでいく。


 「フレイラ!!」

 「私がいながらよそ見はダメよ♡」


 助けに走るもエレモアが行手を阻む。ディンの奮闘も虚しく、フレイラは結界魔法と共に闇に飲み込まれる。

 

 「はい、おしまい♡」

 「ッ......!お前はぁぁぁぁあああああ!!」

 

 憎悪に飲み込まれ、ディンは怒りのまま剣を振る。怒りに身を任せた攻撃はエレモアにとってはあまりにも単調で、滑稽に見えるものだった。


 「あのねぇ......彼女のことが大切だったのはよくわかるけど、自分の怒りに飲み込まれる者は、誰も守れやしないわよっ!」


 エレモアの渾身の右ストレートを正面から受け、立つことすらできず地に落ちる。

 

 「ぐ......お前......だけは......」


 地面に這いつくばりながらも、その目に宿る殺意は消えない。

「奴を殺す」それだけがディンの体を動かす原動力になっていた。


 【『目標』対象の抹殺を設定。達成方法の開示を承認します】


 突如、ディンの脳内に見知らぬ女性の声が響くと同時に、まるで思い出したかのように様々な情報がなだれ込んでくる。


 【『対象』魔族エレモアの能力開示】

 【『対象』魔族エレモアの対処方法、開示】

 

 次々と脳内に流れてくる情報の数々は、全てエレモアを倒すための方法を指し示していた。


 【努力の権能】

 諦めることを知らず努力することができる能力だとディンは長年思い続けてきた。

 しかしそれは権能の一部に過ぎず、本来の能力とはまた別である。


 【『目標を達成する』ために必要な『情報』を授かる能力】


  それが【努力の権能】の本来の能力である。


 ディンにトドメを刺そうとするエレモアが拳を振り上げた瞬間、彼女の体は石のように固まり動かなくなる。


 『ー蛇王の圧政(イビルアイ)ー』

 自身と目が合った生物の体を固定させ、動けなくする拘束魔法。

 導き出された結論の中にあったディン自身も全く知らない未知の魔法。だが、魔法の効果も、術式の形も、詠唱が必要ないほどに洗練されたイメージが頭の中で構築されている


 「ッ......ッッ......!」

 

 エレモアは魔法の発動を試みるも、魔力の流れ自体も固定されているため、放つことも許されない。

 しかしこの魔法は魔力消費が激しく、ディンがエレモアを止められる時間はあと一分ほどである。

 

 残り時間が刻一刻と迫る中、自身の記憶の中に刻まれたエレモア攻略の情報。ディンはその中に存在した彼女の名を呼ぶ。


 「頼んだぞ......フレイラ......!」

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