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第六話 大人が消えた村②

「そうだ......私がこの村の大人を魔族に差し出した......」

「仕方がなかったんだ!魔族から子供達を救うには契約するしかなかったんだ!!!」


 己の弱さを憎み、唇を噛み締める。魔族への恨みと、自分の不甲斐なさを後悔しながら......


 「私は、魔族が怖いんだ......私の仲間を......愛する妻を奪われてから......私は!!」


 あの頃は幸せだった。信頼できる部下、私のことを支えてくれる妻、そしてもうすぐ生まれてくるチャコル。

 王国騎士としてそこそこ名を上げていた私には怖いものがなかった。どんな魔物も、信頼で結ばれていた部下たちと一緒なら怖くなかった。


 魔族と出会うまでは......


 突如として現れた魔族の討伐に、私達は失敗した。

 私達は必死に抵抗した、だがあれは戦いと呼ぶにはあまりにも圧倒的で......あまりにも残虐的だった。

 仲間を殺され、挙句奴は私の妻をも手にかけた......

 そこからだ、私が戦いを恐れるようになったのは......


 私は息子のチャコル以外の全てを失った。

 

 「だからこそ、チャコルと......未来ある子供達だけは守らねばならんと思ったのだ!!他を犠牲にしてでも......弱い私には、それしかできないのだから......!」

 「それで、誰かを犠牲にしてまで自分の大切なものだけを守ったのね......悪魔に白旗を掲げて......」

 「フレイラ......まさか最初から気づいて......」

 

 自身の心情に重なる、だけど違う......そんな複雑な感情を胸の内に秘めながらフレイラはギルマンの鎧を掴み上げる。


 「あなたがその決断に至ったのは、過去の凄惨な出来事からでしょう。そんなあなたを私は否定できない、怒ることだって違うと思っている......でも!」


 「そんな結果を、私は望まない!!」


 自身も魔族によって家族を、幸せを奪われた。だからこそフレイラは奮起する。

 これ以上誰も失わせない、自分自身の手で救える幸せがそこにあるのなら、絶対に手放さない。


 「いくわよディン。これ以上、私の目の前で奪わせない......」

 「あぁ......」


 その時俺には今まで青く綺麗であったフレイラの瞳の奥が黒く濁っているように見えた。


 「フレイラ、フレイラ!聞いてるのか?」

 「聞こえてるわ、それで何?」


 俺たちは魔族の行方を辿るため、聖堂の邪法陣を調べている。フレイラ曰く、この機能しなくなった邪法陣を利用すれば魔族のいる場所まで転移魔法を使っていけるらしいが......

 

 「本当にこれでいいのか......?」

 「ええ、そのまま続けてちょうだい」


 俺はフレイラが持っていたよくわからない四角い石ころのような形をした魔道具を邪法陣の中に星を描くように置いていく作業を任されている。

 こんな物で本当にうまくいくのかと思いながら作業を続ける中で、俺はフレイラのあの時の表情が頭から離れない。


 「あのさフレイラ......あんまり背負い込み過ぎないでくれよ......すまん、それだけ伝えたくて......」

 「......じゃあ私と一緒に背負ってよ」

 「え......」


 ポツリと本音をこぼす。一人で抱えていた気持ちが溢れてしまう。


 「......っ!なんでもない!いいから手を動かしなさいバカ!!」

 「ぐえっ!!魔道具を投げつけるな!優しく渡せって!」


 だめだ......俺には女の子の心情ってやつがわからん。

 本当に大丈夫なのだろうか......心配な気持ちは変わらないが、今はそれよりもフレイラに言われたことに取り掛からなければ。

 邪法陣の周りにフレイラから渡された魔道具を設置していく。一体いつこんなものを手に入れたのかわからないが、今は一刻も早く村の人達を助けなければ!


 魔道具を全て設置し終えた後はフレイラが魔道具を起動させる為に魔法を唱え始める。


 「詠唱プロセス開始(セット)邂逅(かいこう)、展開、表裏の裂け目、我、事象を代え従える者なり」


 『ー空間転移(テレプト)ー』


 詠唱を終えると同時に魔道具が光り、動き始める。

 円の中にいる俺たちは、白い光の中で浮遊感に包まれながら徐々に迫り来る光に飲み込まれていった。


 眩しい光から解放された俺は目を開ける。

 そこにはさっきまでの神聖な聖堂とは真逆の暗黒に包まれたかのような不気味な遺跡が広がっていた。


 「ここは......まさかダンジョンか!?」

 「どうやらそう見たいね......」


 ダンジョンとは、この世界各地に存在している古代遺跡の名称である。

 

 「敵の気配は?」

 「まだしないわ。でも......」


 フレイラはダンジョン内の不可解な魔力の流れを感じる。

 

 「この先に複数の魔力の流れを感じるわ。おそらく連れ去られた村人たちの魔力ね」

 「じゃあこの先に魔族が......」


 俺たちは慎重にダンジョン内を進む、どこに罠が仕掛けられているかもわからない......そんな慎重的な行動とは裏腹に、俺の気持ちには焦りがあった。

 フレイラの息が少し荒い。苦しくて息が乱れているのではなく、怒りで興奮した獣が放つような息だ。


 探索を続け、魔力を辿った先に俺たちを待ち構えていたのは見るからに終点と思わしき大きな扉だった。

 

 「ここね、魔力の流れはこの先を示しているわ」

 「この先に魔族が......」


 私の手が震える、この震えは恐怖だけが生み出しているのではない。

 怒りや憎しみ、強い憎悪がこの手にこもっている。

 私のお母様とお父様を殺した奴じゃなくとも、魔族が......

 

 私がやらなきゃ私がやらなきゃ私がやらなきゃ私がやらなきゃ私がやらなきゃ私がやらなきゃ私がやらなきゃ私がやらなきゃ私がやらなきゃ私がやらなきゃ私がやらなきゃ私がやらなきゃ私がやらなきゃ私がやらなきゃ私がやらなきゃ私がやらなきゃ私がやらなきゃ私がやらなきゃ私がやらなきゃ私がやらなきゃ私がやらなきゃ私がやらなきゃ私がやらなきゃ私がやらなきゃ私がやらなきゃ私がやらなきゃ私がやらなきゃ私がやらなきゃ私がやらなきゃ私がやらなきゃ......

 

 「フレイラ」

 「!?」


 ただ手を握ってくれただけ......それだけなのに......さっきまでの怒りと憎悪で溢れていた感情が消えていく......

 

 「俺がついてるから、だから一緒に行こう」

 「......ばか」


 俺はフレイラの手を繋ぎながら、二人で扉を開ける。

 重く重厚な扉の先には瘴気がただよい、まるで先ほどとは違う別世界のような黒く(よど)んだ部屋だ。

 周りには今も稼働し続けているであろう古代の機械が並んでいる。


 「これは、なんだ......」

 「魔力の流れはここから溢れていたのね......おそらくこの古代機械は魔力を貯める貯蔵装置。入り乱れた魔力の気配は......連れされた人の......」


 「正解正解だいせいか〜い!!」


 先程まで何もなかった空間から禍々しい魔力の流れを感じる。

 剣と杖を構え振り向く先には、黒く大きなキャペリンハットを被り、黒いコートに身を包んだ何かが不気味な笑顔で笑っていた。


 「あのコートは!!!」

 

 エレノアの感情が一気に熱くなる。しかしフレイラはディンの言葉とまだ手に残っている感触を思い出し、落ち着きを取り戻す。

 

 「あの時の魔族と同じコート......しかし違う、あの時の魔族ではない......」


 「あらあらもしかして私以外の魔族とお知り合い?それにその様子だと......その魔族に恨みを持ってそうね♡そしてここを追ってきたということは......私が(さら)った村の人を助けに来た感じかしら?」

 「そうよ大正解。ところでそのコート、他の魔族も着ていたけど、魔族の間で流行っているのかしら?」

 「あら?もしかしてこのコートが気になるの?ンフフ♡いいセンスねあなた!」


 そう言うと魔族はコートのボタンを外し、自身の体をあらわにさせる。

 長く妖艶な黒い髪、男の欲望を忠実に再現したかのような姿。豊満な胸には魔族の印である魔紋が刻まれており、その印を見て俺は奴が本物の魔族であることを確信する。


 「私の名前は『エレモア』どうぞよろしく♡」

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