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第四話 フレイラ・フィニット

 病院での療養を1ヶ月経て、俺はフレイラとスイシャ村を旅立った。


 これからの計画としてはスイシャ村を襲った魔族の手がかりを見つけるため、『ヨルガンド国』の中で最も大きい冒険者ギルドがあるこの国の首都、『ヘイレム』を目指している。

 スイシャ村からヘイレムへの道はそれほど遠くなく、三つの村を経由して進んで約二週間ってところだ。


 村の外を出たことのない俺にとって、新しい旅立ちは心が躍る。

 フレイラと一緒という一抹の不安要素はあるが、金銭や食料は十分だし、何事もなければ三日で最初の村につけるだろう。


 涼しい森の中を進んでいる途中、フレイラは止まれと合図を出し、辺りを見渡す。


 「急にどうした?」

 「黙って」


 フレイラの真剣な表情に俺も何かが来る予感を察知し、周囲を警戒する。

 先程までの鳥のさえずりや木々のさざめきがピタッと止んでいる。一体何が......

 

 「ディン、あそこを見なさい」

 フレイラが指差す方向を見ても何もいない......


 「何も見えないけど......」

 「バカ、何のために腰に望遠鏡をぶら下げてるの?」


 そう言われ俺はすぐさま望遠鏡を覗く。

 そこには巨大な爪を携えた足で森路(もりじ)を堂々と闊歩(かっぽ)する竜、『ワイバーン』がいた。


 「あれはワイバーン!?なんでこんな森に!?」

 ワイバーンは通常標高の高い山に生息している。こんな人里が近い場所に降りてくるなんて......


 「ここからスイシャ村までの距離はそう遠くないわ。ディン、あのワイバーンを討伐するわよ」

 「討伐ってワイバーンを!?いくら何でも無茶だろ!?」


 ワイバーンは冒険者ギルドが提示している危険度の中でも最高危険度の星5に属している種だぞ!

 俺たち人間が権能を持ってしても、討伐するには高い魔物への知識と技術がある熟練の冒険者が複数人いてやっとの相手だ......

 

 いくらフレイラがスイシャ村で随一の権能使いだとしても、ワイバーンが相手では無謀すぎる!

 そんな俺の思いも知らず、フレイラは杖を構える。


 「私たちがここで止めなければスイシャ村に被害が出る可能性が大きいわ。あなたはそれでもいいって言うの?」

 「違うって!俺だってそんなこと望んじゃいない!だからこそ一度村に戻って対策を......」


 「呆れた......そんな言い訳、あんたから聞きたくなかったわ」


 「私はあいつと戦ってるから、あんたは助けを呼びに行きなさいよ」

 そう言い残してフレイラはワイバーンの方向に向かっていく。

 

 「......っ!あーーもうっ!お前一人に背負わせてたまるか!!」


 あいつには後でどぎつい説教をしてやろうと思いながら、フレイラの後を追う。

 

 『ー全身強化(オールオペレイト)ー』『ー感覚強化(センスオペレイト)ー』『ー空中飛行(フライ)ー』


 三重詠唱を難なくこなしながら自身の魔法の射程圏内まで近づく。相手はワイバーン、高い攻撃力と強固な鱗に守られている皮膚は物理魔法攻撃関係なく弾く強大な防御力を持つ。


 「あれは『フレイムワイバーン』、あちこちに傷がついている......おそらく生存競争に負けて住処を追いやられて人里に迷い込んだ個体のようね......」


 あの手の個体は闘争心が強く、気性が荒いことが多い。今のうちに仕留めなければこの森の生態系にどんな被害をもたらすかわかったもんじゃないわ......


 長年自警団で森と村を守ってきたフレイラの勘がそう告げる。

 自身の射程距離にワイバーンを捕捉したフレイラは相手が気配を察知する前に詠唱を始める。


 「詠唱プロセス開始(セット)永遠(とわ)の誓いに氷の大地、寒美(かんび)と賛美に憂いを帯びろ、復唱せよ、反発せよ、我が手に宿るは氷皇(ひょうおう)の意志......」


 この世界では、五重詠唱が魔術師が一度に重ねられる最大の詠唱の数だとされている。しかし何事にも例外はある。


 フレイラ・フィニット。彼女がライノールを置いて自警団No1であった理由は彼女の持つ権能の力が大きい。


 「巨を砕く氷雪の槍、我、皇の使者なり!」


 無限の魔力を持つ【無窮(むきゅう)の権能】

 それがフレイラ・フィニットの権能である。


 『ー氷結の刃(ヘイルスパーダ)ー』×2『ー氷牙の咆哮(フリーズビート)ー』×2『ー破滅の凍土(アースフィンブル)ー』×2『ー氷皇零度(コキュートス)ー』×2


 八重詠唱、フレイラ・フィニットの最高火力。その力は自然豊かな森を一瞬にして氷の世界へと変えた。


 「はあ、はあ......ようやく追いついた......って寒っ!!」


 フレイラが放った魔法は辺り一面全てを氷に包み、ワイバーンを一瞬の内に凍らせた。

 フレイラの実力は昔から知っていたが、まさかここまでとは......


 「遅いわよバカ」

 「うるさいな!それよりもこれどうすんだよ!森を真っ白な氷景色にしちまって!」

 「そんなのは後でちゃんと元に戻すわよ。それよりも早く構えて」

 「構える?ワイバーンはもう氷付けで再起不能じゃ」


 瞬間ワイバーンを包んでいた氷は割れ、凍った木々を砕くほどの咆哮を上げる。

 

 「嘘!?」

 「さすがワイバーンね......ディン、作戦を伝えるわ。あなたはワイバーンの気を私から逸らして」

 「囮ってことですか!?」

 「違うわよ、あたしが強化魔法で強化してあげるからあいつの傷をもっと広げなさい。その傷をあたしの魔法で狙い、内側から凍らせるわ」

  

 それってやっぱり囮作戦なんじゃ!?なんて言ってる余裕はない、もう奴が俺らのことを認識して飛んできてやがる......!


 「信じてるからね、ディン」

 「!!」


 信じてる......ただその一言だけで気持ちが救われる感覚になる。

 俺って多分チョロいんだろうな......そう思いながら覚悟を決める。


 『ー全身強化(オールオペレイト)ー』『ー感覚強化(センスオペレイト)ー』『ー回避強化(イヴェイドオペレイト)ー』『ー幸運強化(ラックオペレイト)ー』

 フレイラの持つ全ての強化魔法をディンは一身に受ける。

 

 「すごいな......これが強化魔法の力か......」


 全身の細胞が活性化している......これなら......


 ディンはワイバーンに近づき注意を引く。

 ワイバーンはすぐさまディンに気づき火球を連続で放つ。

 

 身体と感覚の強化を施したディンの反射神経は常人の域を超えており、難なく避け続ける。


 「魔法を警戒してか、中々降りてこようとしないな......なら!!」


 『ー影の立役者(サイレントジャック)ー』


 ディンは自身の影に常に忍ばせている分身を操り、影の腕を伸ばしワイバーンの足を掴む。


 「力ずくで地面に叩きつけてやる!」

 

 急な下からの力にワイバーンは地面に叩きつけられそうになるが、自らの翼を使い地面に着地する。


 「ここだ!!」

 地上に降りてきた瞬間の隙をディンは逃さず、ワイバーンの腹の傷に剣を突き立てる。


 ギィン!!


 ワイバーンの皮膚がディンの剣を弾く。ワイバーンの防御力はディンの予想を上回っていた。


 「クッ......俺でダメなら.....」


 ワイバーンを自分自身に引き寄せ気を伺う。

 

 一つ一つの攻撃は遅いが、一度でもくらえばまともに動けないだろう......

 攻撃を回避しながらディンは自身の影を操る。

 

 『ー影の立役者(サイレントジャック)ー』で作り出した分身は全ての攻撃に闇属性が付与されている。

 闇属性の性質は物事の境界を曖昧にすること。

 つまり『ー影の立役者(サイレントジャック)ー』の攻撃はどんなに固い皮膚であろうが鉄の鎧を着ていようが防御を無視して貫通する。


 ワイバーンは咆哮を放ち、ディンはその衝撃に耐えきれず弾き飛ばされる。


 「ぐっ......!なんて声してんだ......」


 体勢を立て直そうとするが、ワイバーンはその隙を与えず火球を放つ。

 

 「今!!」


 ディンは影を操り、自身の影で作り上げた短剣をそのままワイバーンの腹に刺し貫く。

 その瞬間、ディンは火球に身を焼かれる。


 「ッ......!ッッ......!!フレイラ!」

 身を包む強大な熱に苦しみながらもディンはフレイラに合図を送る。


 「バカ!!そこまでしろとは言ってないわよっ!!この大バカ!!」


 ディンを心配しつつもフレイラはすでに詠唱を済ませた魔法を発動させる。


 『ー氷天の霹靂(フロストヘイル)ー』


 八重に重ね、極限まで圧縮された氷の雫がワイバーンの体内に溶けて消える。

 

 「これで終わりよ......」

 

 ワイバーンの体は徐々に動きが鈍くなり、凍り始める。ワイバーンは自身の体に火球を放ち氷を溶かそうと抵抗するも意味をなさず、体全体を氷が包み込み、機能を停止する。

 

 「バカ、ほんっっとうにバカ、近年稀に見るバカ、バカ、バカ、バカぁ!」

 「バカと言われすぎて頭が痛くなってきたんですけど......」

 

 ワイバーンを討伐した後、俺はフレイラの持っていた回復薬のおかげで戦闘で受けた傷はほとんど治った。


 「次あんなことしたら承知しないから!殺すから!いい!?」

 「わ......わかりました......」


 まさかフレイラがここまで必死になるとは思っても見なかった......

 俺が説教をしようと思っていたのに......逆にされる側になってしまった。

 まあ実際ワイバーンの攻撃に耐えられたのは運もあった。下手したら丸焦げになって死んでいたかもしれないし......あまり褒められた行動ではないことはわかっている。


 でも......


 「あの〜フレイラさん?」

 「何?」

 「わたくしものすごーく反省したので......下ろしてくれませんか!?」


 現在フレイラは俺を担ぎながら歩いている。


 「ダメよ、次の村で検査してもらうまではこのままよ」

 「嘘でしょ!?別に歩くくらい大丈夫だから!全く問題ないから!」

 「全く問題がないなんて保証はどこにもないわ。だからダメよ」

 「そんな......」


 こうして俺はフレイラにおんぶされながら、次の村を目指していく.....

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