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第十二話 幽霊の正体

 俺とエリーナは村から少し離れた森で装備の性能の確認を行うことにした。

 まずは自分の体を動かしてみて、運動性能の確認だ。


 木々を障害物に見立て、森を駆ける。いつもより身軽で反射神経が研ぎ澄まされている!

 

 「まるで体が雲のように軽くなったような気分だ!」


 運動性能は申し分ないどころか想像以上だ!俺は森の中を少し駆け回ったあと元いた場所に戻り、次に武器の性能を確認することにする。

 

 「......」

 

 俺は剣先に意識を集中させ、目の前の大木に向かって剣を振る。

 刃はスっと木の中を通り、まるで空を斬ったかのような感覚で剣が振り抜ける。


 「なんだ、今の感覚......こんなにも巨大な木を斬ったってのに、まるで斬った感じがしなかった......」

 

 さらに数回の斬撃を振るが、どんなに振るっても刃は欠けることも切れ味が落ちることもなく、遂には大木を切り落とす。


 「どうですかどうですか!私の全てを込めた装備たちは!」

 「どれも凄い性能だよ!この装備があればもっと強くなれる気がするよ!本当にありがとう、エリー!」

 「それはよかったです......ほ、本当にぃ......」


 エリーナは頬を赤らめて泣いてしまう。突然の出来事にディンは驚きながらもエリーナを慰める。


 「ず、ずびばぜん......ディンさんの嬉しそうな姿を見てたら......私も嬉しくなってしまって涙が......」


 エリーナは涙を拭き、満面の笑顔を向ける。その笑顔は太陽のように眩しかった。

 正直こんな可愛い女の子にここまで尽くされてしまうと俺の心がおかしくなってしまいそうだ......

  

 こうして俺とエリーナは装備の確認を終えて、暗くなる前に村へ戻り、エリーナと別れて宿で休むことにした。


 「さて、これで目的の装備も手に入ったし、あとはこの村を襲う現霊の盗賊の調査だけだな」


 いまだに現霊の盗賊の有益な情報は見つからない。今日もフレイラは調査を行なっていたが、何の手がかりも掴めず終いだったそうだ。

 俺たちもあまり長居することはできない......早くこの問題を解決しなければ......そう思いながら俺は明日に向けて眠りにつく。


 翌朝から俺たちは本格的な調査に乗り出した。

 現霊の盗賊の被害件数は七件。そのうちの五件はフレイラが聞き込み調査をすでに終えていた。

 俺たちは手分けして残りの二件の調査を行うことになり、俺はこの村で一番の老舗である武器屋へと向かった。


 「その時の状況?そりゃあもう驚いたさ!俺の魂込めて作った鎧が、本当に魂を宿したかのように歩き出したんだからよ!」

 「その鎧はどんな鎧だったんですか?」

 「女性のお客さんからの依頼で作った鎧だったんだけどよ、結構いい素材を使ってたもんだから商売上がったりだよ!」

 

 やはりこのお店もエリーナの時と同じように、突然店にある鎧が動き出して店内の商品を奪いながら森の中へと逃走していったそうだ。

 店主の承諾を経て、お店の中も調査してみたが、有益な情報はつかめなかった......


 俺はフレイラと合流し、一度情報を整理することとした。


 「やはりどこも同じ被害に遭ってるようね。店にあった鎧が動き出して店内の物を盗み、森の中へと姿を消す......」

 「森を探るにしても広すぎるし手がかりもない......やっぱりもう一度奴が現れてくれなきゃ......」

 「フレイラさん!!現霊の盗賊が現れました!!」


 なんとちょうどいい時に現れたものだ!俺たちは即座に現れた場所に向かう。

 お店の前では自警団の人たちが動き回る鎧を捕まえようと囲み込もうとしていた。


 「今度は逃さないわ!!」


 フレイラは袋の中から魔道具を取り出し、鎧に向かって投げつける。

 投げつけた魔道具は形を網目状に変化させ、鎧を拘束する。

 

 「ディン!あの鎧を押さえつけて!!」

 「わかった!」


 俺はフレイラの言う通りに鎧に飛びかかり、押さえつける。

 鎧は最初はジタバタと暴れていたが、少しずつ力が弱くなっていき、おとなしくなっていった。


 「とりあえずおとなしくなったけど......」


 この鎧......女性用だ......そういえば、エリーナの時もさっきお店を調査した時に盗まれた鎧も女性用の鎧だった......

 俺は鎧の頭を脱がすが、中には何もいない.....


 「中を触ってみても何も感じな......ぐわっ!!」


 突如鎧が俺のことをぶん殴ってきた。体勢が崩れた隙を見て、鎧は俺を跳ね除け逃げようとする。


 「無駄よ、その魔道具は拘束魔法を何重にも重ねてできた網よ。逃げることはできないわ」

 

 そうして鎧は自警団によって連行されていった。これで一件落着......なのだろうか?

 俺は『ー影の立役者(サイレントジャック)ー』を鎧の影に忍ばせ、様子を伺うことにした。


 その夜。俺は何か異変を感じ目を覚ます。


 「位置が......移動している......?」


 『ー影の立役者(サイレントジャック)ー』の位置は常に感じることができる。俺は急いでフレイラを起こして移動していく位置を辿っていく。

 

 「どんどん森の奥に入っていく......脱走されたのか?」

 「いえ......魔道具を用いて監視しているけど、鎧は牢屋の中で動いていないわ」


 鎧を捨てて逃げ出している......?本当に幽霊なのか?いや、そうだとしたらなぜ鎧の影に忍ばせた分身も移動しているんだ?

 

 俺たちは『ー影の立役者(サイレントジャック)ー』の位置を追っていくと、ダンジョンと思わしき洞窟にたどり着いた。


 「この先にいるのね?」

 「ああ、まずは俺が分身を操って居場所を特定してみる」


 俺は分身と感覚を同期させる。影の中から辺りを見渡してみると、そこは生活感あふれる場所であった。

 

 明かりが灯され、本棚や服をしまう戸棚があり、机には先ほどまで読んでいたであろう本が数冊置かれている。

 頭上を見上げ、影の主を探ってみるとそこには幽霊ではなく一人の少女が存在していた。


 「女の子!?」

 「何よ急に!?」

 「いや......その......現霊の盗賊の正体が女の子かもしれない......」

 

 フレイラは困惑した眼差しで俺を見てくる。そりゃあ、急に今までの事件の犯人が幽霊や魔物の仕業とかではなく可愛らしい女の子でしたなんて言っても意味がわからないだろう......


 「本当のことなんだよ!」

 「わかってるわ......ちょっと困惑しただけよ......」

 「犯人が人間だとしたら今までの犯行は権能の力を使っていた可能性が高いわね......」

 

 俺たちは罠に気をつけながら慎重に洞窟の中へと進んでいく。洞窟の中は一本道になっており、奥に進んでいくとあからさまな扉が設置されている。


 「この先だ......」

 「私が扉を開けるわ。ディンはあなたの分身で押さえつけてその子を無力化しなさい」

 「わかった......」


 俺の体に緊張が走る。フレイラはゆっくりと扉に近づき、合図を送る。

 

 俺は頷き、少しの間を開けた後にフレイラは勢いよく扉を開ける。

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