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第十一話 エリーナの思い

 「ここがエリーナの作業場か......」

 

 どの設備も綺麗に手入れされており、器具は全て丁寧に並べられている。どれも見慣れない特殊な工具ばかりで、興味を惹かれるものだらけだ。

 

 「どうですか!私自慢の作業場です!ここに私以外の人を入れたのは初めてなんですよ!」

 「そうだったのか......ありがとうなエリー、こういったところに入れる経験なんてなかなかできないからさ」

 「本当にと、く、べ、つ、ですからね♡」


 俺は特別にエリーナの作業を見させてもらうことになった。

 俺の新しい装備が作られるところを生で見られるのは楽しみだ。


 「そうだエリー。俺の装備が完成するまでどのくらいかかりそうかな?」

 「そうですねぇ......丸一日待っていただければ大丈夫ですよ!」

 「一日で作れるものなのか?」

 

 普通もっとかかるものだと思っていたが......疑問を感じている俺をみて、エリーナはフフフと笑う。


 「普通の職人ならまず無理でしょう......そう、普通の職人ならね!!」

 

 エリーナはバッと決めポーズをとり、格好つける。余韻を演出した後、エリーナは話し始める。


 「私の権能......【創製の権能】が不可能を可能にするのです!」

 「創製の......権能?」


 【創製の権能】はエリーナの創作に対する全ての技術が際限なく成長していく権能らしい。

 エリーナは幼少期の頃からこの権能の力でどんどん鍛治師としての腕を磨いて、今ではこの街で右に出る鍛治師はいないのだとか......


 「まさかエリーがそんな凄い力を持ってたとは......でもわからないな......どうして俺なんかを選んだんだ?」

 「前にも言ったじゃないですか!あなたは私の予言の人なんですよ!」

 「その......初めて会った時にも言っていたけど......予言の人ってのは一体なんなんだ?」

 「それはですね......五年前この村に一度、勇者様たちがいらっしゃった時にお話を伺ったんです」

 

 『勇者』は魔王を討伐するために、様々な国から選ばれた冒険者で結成されたパーティだ。その仲間の中に、未来を見通す権能を持つ魔術師がエリーナの未来を予言したらしい。


 「『黒き髪、幾年も研鑽を積み重ねた旅人がこの村を訪れる。自身の全てを持って向かい入れよ。さすればその者は其方の全てを受け入れてくれるだろう......』私はこの予言がディンさんのことを指し示していると思ったんです!あなたが予言の人で、私の全てを受け入れてくれる人だと......」


 先程までの笑顔から一変して、エリーナは暗い表情を見せる。


 「大丈夫か?あ、もしかしてあんまり言いたくない内容だったか......?」

 「いえ.....大丈夫です......ディンさんの装備を作るにあたって、お伝えしようと思っていましたから......」


 どうやらエリーナには何か深い訳がありそうだ......エリーナは少し躊躇いながらも続けて話し始める。


 「実は私、村の人に嫌われているんですよね......」

 

 突然の告白に俺は驚きを隠せなかった。素直で嫌われるようなところが一つもなさそうなエリーナがなぜ......


 「私は昔からこの権能のおかげでなんでもすぐに覚えることができまして......最初は天才だなんやらと村の人たちから褒められていたんですが......」

 「私がお店を開いてから徐々に、村の人たちの私を見る目が変わっていきまして......今では自分たちの商売を邪魔する商売仇としか見られなくなってしまったんです......」

 「そんなことに......」


 権能の力は平等ではない。俺も村ではハズレの権能だと馬鹿にされていたけど、逆に強力な権能を持っている人が嫉妬の対象となってしまうこともあるということか......

 彼女はそんな自分を受け入れてくれる予言の人が現れるのをずっと待っていたのだろう......


 「エリーナ!!」

 「は、はい!なんでしょう!?」

 「俺が予言の人であっても、そうじゃなかったとしても......エリーナの全てを俺は受け入れるから......だから安心して俺の装備を作って欲しい!」


 これ以上彼女の悲しい顔は見たくない。俺は自身の正直な思いをエリーナに伝える。


 「私なんかで......ディンさんはいいんですか......?」

 「ああ、エリーナの作った装備がいい」

 「......もう♡......そんなこと言われたら......やる気が出まくるに決まってるじゃないですか!!!」


 まるで炎を纏ったかのように熱く燃えたぎるエリーナ。元気が戻ったようでよかった......

 そこからのエリーナは怒涛の勢いで装備を作り始めた。


 「すごい!すごいです!私の想像力が爆発しています!これが愛!これが愛なのですかぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 エリーナはものすごい速さで作業を進めていく。この勢いのままなら一日を待たずして完成しそうだ。

 俺はしばらくの間エリーナの作業を見学した後にフレイラの調査の進捗を聞きにいく。


 「ようフレイラ、そっちの調査は順調か?」

 「いいえ、村の鍛治師の店を見張っているけど、まだ動きはないわ。襲われた店にそれらしき痕跡も無いし、八方塞がりね......」


 どうやらフレイラの調査はあまりうまく行ってないようだ。現霊の盗賊......一体何者なんだろうか......


 「あなたの方はどうなの?装備の案は決まったんでしょうね?」

 「ああ、今はエリーナに作ってもらっているよ。明日までには完成するってさ」

 「そう......なら本格的な調査は明日からね。私はもう少しこの村の武器屋を調べてみるわ」

 

 そうして俺はフレイラと別れ、エリーナのお店に戻った。

 どうやらフレイラと話していた間に、俺の装備が完成したようで、エリーナはウキウキした表情で俺を待っていた。


 「ついに完成しましたよ!ディンさんに送る、私の最高傑作が!!」

 「もう完成したのか!?」

 「いや〜私の愛が爆発してしまいましてねぇ......でも!ちゃんと私の全てをこめさせていただきましたからご安心ください!」

 

 エリーナがそこまで行ってくれるのなら安心だ。一体どんな装備になったのかワクワクが止まらない!

 

 「では早速見せましょう......こちらです!!」

 「これは......!」


 黒く漆黒の装衣に防御力もありつつ動きやすそうな軽鎧。限界まで研ぎ澄まされ、洗練された形で無駄がない長剣と短剣。武器や防具についての知識が全くない素人である俺でも感じる凄さ......そして何よりすごくかっこいい!!


 「まずは着てみてください、あなたの要望は全て叶えましたから!」

 

 どれか一つだけ通ればいいと思っていたがまさか全部の要望を叶えてくれたのか!?俺は期待を膨らませながら自身の新しい装備に身を通す。

 まるで着慣れた私服のようにぴったりで、いつもより体を動かしやすい。

 

 「すごい......ただ装備しただけなのに、補助魔法をかけてもらった時のような感覚だ」

 「ふふふふふふ......実はその防具には自身の身体能力を向上させる魔法が組み込まれているのです!」

 「そんなことが可能なのか!?」

 「可能なのです!なんなら今から実践で試してみましょうか!」

 

 そうして俺とエリーナは装備の性能を確かめるために森に向かうのであった。

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