第十話 俺が求めるもの
「決して俺は変なことをしていない!!信じてくれ!」
「そうですそうです!私はまだ何も変なことはしてませんよぉ!」
「まだ?まだってどういうことかしら?」
「ちがっ!なんでそう言うことを言うんだエリーナ!」
状況がどんどんややこしくなっていく......早くなんとかしてフレイラを説得しなければ!
話を広げるエリーナをまずは黙らせ、俺はフレイラにこれまでの経緯を話す。
「そう......つまりディンはこの子に装備を見繕ってもらうところだったと......」
とりあえずはなんとか納得してもらえただろうか......というかどうしてあんなにフレイラは怒って......
「......わかったわ......とりあえずはそう言うことにしておくわ」
「そういうことにしといてください......」
「ディン、早く装備を作ってもらいなさい。明日から『現霊の盗賊』の調査を行うわよ」
そう言ってフレイラは俺の意見も聞かずにお店を出ていってしまった......
「はあ、また勝手に納得して勝手に決めて......まあもう慣れたけど......」
「なんだかすごーく怒っていましたけど......もしかして彼女さんですか?」
「彼女?違うよ!あいつはその......ただの旅仲間さ......」
最近はちょっと仲良くなれたかなと思っていたけど......やっぱりまだどこか苦手意識があるな......
「その......装備の件だけど......実はあまり詳しくなくてさ......よかったら君が俺に会う装備を決めてくれないかな?」
何もかもが経験不足な俺よりも、専門家である彼女が決めてくれた方がいいだろう......
「ほ、本当にいいんですか......?私が、その......あなたの運命を決めてしまっても!?」
「運命って、そんな大袈裟な......」
「いいえ!大袈裟ではありませんよ!!」
エリーナは声を荒げ、自身の情熱を語る。
「いいですか!装備はあなたの命を守り、あなたと共に成長していくものなのです!それを赤の他人に決めさせると言うことは、自分の人生を誰かに託すことと同じ!つまりは運命を決めてしまうと言うことに他ならないのです!!」
エリーナは続けて熱弁する。装備の大切さ、装備をなぜ選ぶのか、なぜ人は装備をつけるのかetc.
エリーナの弁舌は一時間にもおよんだ。エリーナはあまりの熱を注いだせいかクタクタになってしまったので、また後日連絡することにした。
「ふう......俺の装備、どうしたもんかなぁ......」
俺は一度予約した宿に帰り、自分の装備について考えてみる。
今までは自警団で使われていた剣と防具を使っていたけど......やっぱりもっと防御力のある装備が欲しいよなあ......剣も切れ味が良くて......ってそんなの当たり前か......
「ダメだ!決めれない!」
あれこれ考えて悪戦苦闘をしていると、フレイラが帰ってきた。そうだ!自警団に所属していて俺よりも戦闘経験があるフレイラの意見を参考にしてみるか!
「なあフレイラ、俺に合う装備ってどんなのだと思う?」
「あなたに合う装備?そうね......」
フレイラは真剣な表情で考えこんでいる......そういえば、フレイラは俺のことを期待しているって言ってたけど......実際今のフレイラからしたら俺はどう見えているんだろうか......
「私は魔術師だから、前衛で戦うあなたとは考えが違うけど......一つだけ言えることがあるわ」
「それは戦う全ての人は、自分が最も得意とすること、自分の普段の戦い方を補える装備を使うのが基本中の基本ということよ。何を求めて戦うのか......おバカさんなりにもっとしっかり考えなさい」
「おバカは余計だっての......でも......ありがとうフレイラ、なんか少しわかってきた気がする」
俺は何を求めて戦っている......?今までの戦いは何を得るために戦ってきた......?
そうしてあれこれ考えている内に俺は一睡もできずに朝を迎えてしまった......
「あなた......昨日寝てなかったわけ?」
「ああ......色々考えてたんだけど、結局答えが見つからなくてさ......」
呆れた表情でフレイラは俺を見つめる......結局今日はフレイラが一人で調査をすることになり、俺は少し仮眠した後にエリーナのお店へ向かうことにした。
「というわけで、1日考えてみたんだけど何も思いつかなくて.....」
「そうでしたか......まあ自分に合う装備を考えるって結構難しいですからねぇ」
「なあ、エリーナはいつも武器や防具とかを作る時はどんなことを考えてるんだ?」
「私ですか......そうですねぇ......」
エリーナは少し間を置いて考えた後に話し始める。
「私が第一に考えているのは、お客さんの命です。戦いは常に残酷です......命を落としてしまうことは日常茶飯事でしょう......でも!だからこそ私は、人が死なないために武器を作るのです!私は武器や防具は人が人を殺めるために使うのではなく、自分や誰かを守るために使って欲しい!私の作る武器が、防具がその人の命を守ってくれますようにと、そう願いを込めながら私は、今日も武器を作るのです!」
「自分を守ってくれる......」
俺が求めているのは......誰かを守る力......そんな力を引き出してくれる装備が欲しい!
【『目標』に対し、適切な装備の情報を開示】
権能の効果が反応した!?俺の脳内に様々な装備の案が次々と浮かんでくる......これなら!
俺は頭に思い浮かんできた案を紙に全て書き留め、エリーナに渡す。
「これは......なるほどなるほど......わかりました!!不肖エリーナ!あなたの装備を私の全てを持ってお作りさせていただきます!!」
「あと!彼女さんがいない時はぁ、エリーって呼んでくださいね♡」
「わ、わかったよエリー......」
ようやく俺の装備の形が決まった、あとはエリーナの作業が終わるまで待つだけだ......まだ彼女が鍛治師だということが信じられないが、彼女を信じて俺は胸を弾ませながら完成を待つのだった。