第一話 俺が生まれたこの世界
この世界で生まれる人間の数は一年間で100人。
この数は絶対であり、子供が生まれた村や街では盛大な祝いをする。神様に祈りを捧げ、新たな命の誕生に皆声を上げて喜ぶのだ。
世界の名は『ミドガル』
この世界に生まれてくる人間は【権能】と呼ばれる力を持って生まれてくる。
【権能】とはいわば異能の力。魔法とは違う、その者にしか使うことができない特殊な能力。
その能力は様々で、この世界での人生を決めてしまう程の影響力を持つ。
例えば、炎や水を自由自在に生成し、操ったり。植物の成長を早めたり、全ての動物と仲良くなれたりなど......
さて、そんな世界で生まれたこの俺『ディン・エフォード』は、この世界に名を轟かせ、ゆくゆくは富と名声と力の全てが手に入るような超スゴイ権能をもらって......
「ディン!ボサっとしてねぇで手を動かせ!」
......畑仕事をしている。
「テメェはいつまで経っても使えねぇ野郎だな!」
ここはスイシャ村。水と自然が豊かで農産業が盛んなごくごく普通な村だ。
俺は20年前にこの村で生まれた。
その時のことは今でもよく覚えている。
村の住民全員が俺が生まれる瞬間をじっと待ち望んでいたんだろうな。
静かな村の病院の一室で俺は生まれ落ちてくる瞬間、誰かの声が聞こえたんだ。多分神様って奴の声だと思う。
「未来の子よ。其方には【努力の権能】を与える」
【努力の権能】それが俺の能力。この力を使えば俺は!なんて夢を2、3年前までは抱いていた。
だが、現実は甘くなかった。俺の権能はその名の通り、努力することが得意になるだけの能力......
勉強を毎日続けたり、仕事を覚えたり等が普通の人よりも頑張れる、ただそれだけの能力なのである。
「テメェ見てぇなやつを働かせてやってるこの俺にいつも感謝しながら仕事をしろと言ってんだろうが!毎日毎日ちょっとした畑の手入れくらいしかできねぇお前なんか今ここで捨ててやってもいいんだぞ!」
「いやーすんません。本当にそれだけは勘弁してくだせぇ......へへっ......」
そんなハズレもハズレの権能を持って生まれた俺は、いつも農家の親父に説教かまされて怒られる毎日だ。
俺が掲げてた理想の人生とはまったくかけ離れたような日々。
世の中ってのはどうしても変えられないことってものがある。しょうがないと思いつつもやりきれない感情の中、俺はせっせと畑仕事をする。
そんな俺をよそに「おぉ!!」と村人たちの歓声の中、村の自警団が魔物退治から帰ってきた。
屈強な戦士たちの中から一際目立つ女の子が一人、俺を見るや否や近づいてくる。
澄んだ青色の瞳、艶やかな金色の長い髪。一目見れば誰もが見惚れてしまうほどの絶世の乙女と言っても過言ではないくらい綺麗な女の子。
それが『フレイラ・フィニット』
俺の一年後に生まれたこの村一番の権能使いだ。
「あら、ディン・エフォードじゃないの。今日も今日とて畑のお手入れご苦労様」
ニヤニヤと俺を嘲るような口調でわざわざ嫌味を言ってくる。コイツは顔とスタイルは抜群だがそれらを全て無かった事にするくらい性格が悪い。
「よぉフレイラ。相変わらずの口の悪さだな......それで俺に何の用だよ」
「用なんてあるわけないでしょ。あんたのその無様な姿を見にきただけよ。ほんっと、情けない格好」
髪を撫で、不機嫌そうに俺を侮辱してくるフレイラ。昔は誰に対しても優しく、笑顔を振り撒く姿は本当の女神の様だったんだが......現実ってのは残酷だな。
「そうかよ、用が無いならどっか言ってくれ俺は親父の説教聞くので忙しいんだ」
「......あっそ!あんたなんか次の生誕祭の時もずーっと説教されて畑仕事してれば!?」
「じゃあね!」と腹を立てて帰っていくフレイラ。何であんな怒ってんだよ!怒りたいのはこっちなんですけど!
なんて怒りを抱えつつ、今日の仕事は終わった。
「4989、4990、4991、4992っ!」
体の限界を超えて日課のトレーニングをこなす中、ふと今日のフレイラの言葉を思い出していた。
生誕祭、それは一年に一度子供を宿した家族を祝う祭り。
子供が生まれる日は決まって一年に一度の鐘のなる日だ。鐘のなる日は毎年同じで、各村や街にはその鐘の日を告げる時計が存在する。生誕祭の日はこの世界全ての人が生まれた誕生日であるため、大人子供関係なく、この日を楽しみにしている。
スイシャ村ではフレイラが生まれてから長らく子供を授かることがなかったが、今年ついに子供が生まれることとなった。そのため今は最高の生誕祭を迎えるため、どこも忙しなく働いている。
「生誕祭か......そういや母さんが死んでからもう15年も経つのか......」
まだ俺が5歳だった時、生誕祭の鐘が鳴り響いた瞬間。
村は焼け焦げた匂いでいっぱいだった。
魔族と呼ばれる存在がこの村を襲ったらしい。
俺はずっと気を失っていたらしく、その時の現状はほとんど覚えていなかった。
奇跡的にほとんどの村人が生き残り、村は復興した。
俺の家族とフレイラの家族を残して......
毎日親父の説教を聞きまくってはや一週間。生誕祭が始まった。
今日は誰もが無礼講で祭りを楽しむ日だ。俺はいつもは飲めない酒を片手に街の真ん中にある聖火を見ながら皆んなの楽しそうな笑顔を見ていた。
「いいわよね。誰もが笑顔で喜んでて」
「そうだな......ってフレイラ!?」
いつの間にか俺の横にフレイラが座っていた。気配を完全に感じなかったが、一体いつ!?
「何よその反応。私と一緒にいるのが嫌っての?」
「いや、そういうわけじゃなく......何でこんなところに?」
「あんたが寂しそうに一人で呑んだくれてるのを見つけたからよ」
「呑んだくれてないし!べべべ別に寂しくなんて無いし!」
悲しい生き物を見るような目で見つめてくるフレイラ。そんな目で俺を見つめないでくれ!
惨めな俺を差し置いてフレイラは話す。
「ねぇディン。あんた私と旅に出る気はない?」
「......はぁ?」
唐突な言葉に俺は戸惑いを隠せなかった。
「旅をするって......何で俺を誘ってくるんだ!?」
今まで散々嫌味やら何やらでこいつに蔑まれてきたこの俺を旅に誘うって、何かの罠なんじゃないか。
疑念が渦巻く中、フレイラは喋った。
「何でってあんたが一番この村で強いからに決まってるじゃない」
一体何を言っているのかこの子は、俺がこの村で一番強い?
この村にはフレイラ含め何人もの強力な権能使いが自警団として魔物退治や村の警護を行っている。
そいつらを差し置いて俺が一番強いなどと、本当に何を言ってるのかわからない。
「やめてくれよ、そんな冗談は。俺がそういうの嫌いだって昔言っただろ?」
「そんなの知らないわよ。あと冗談なら私も嫌いだわ」
「そうですか......ならどこをどう見たら俺が強いなんてわかるんだよ!畑仕事ばかりで戦ったことなんて一度もないんだぞ!すごいだろ!」
「何の自慢にもなってないわよ......そうね、いい方法があるわ」
そう言ってフレイラは自警団の訓練所の方を指す。
「今からこの村の一大行事、自警団たちの階級を決める力くらべが始まるわ。そこでならあなたがどれだけ強いかあなた含め村の全員がわかってくれるわよ」
そう言って俺は逃げることも許されず可愛らしい笑顔(俺にとっては悪魔の笑顔だ)をしたフレイラに引きずられ、訓練所に連れ去られた。
読んでいただきありがとうございます!
これから頑張っていきますのでもし続きが気になると少しでも感じましたら、
ブックマークと↓の☆☆☆☆☆から評価頂けると何よりの励みになります!
これからも是非よろしくお願いいたします!