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episode 6【大虐殺】


『え・・え?』


その場にいた全員が凍り付いた。


さっきまで

レーガンを刺そうとしていた、

そして、刃を下した緑の小人


そいつの頭が弾け飛んだのだ。


『ッ!!』


それと同時に、小人たちが騒ぎ出す。


見逃してやったのに、

あの少女の言葉を信じたのに

不幸が起きてしまった


だから、怒っているのだろうか


やっぱり子供の意見なんて

信じるのではなかったと

後悔しているのだろうか



すべて違う。


ただただ怯えていた

震えていた


森の奥からやってくる黒い衣をまとったナニカに

闇の中に突如として出現した強大な気配に


ただ

恐怖していた

体が震えていた


訳も分からず

怒りも、驚きも、悲しみも

何も抱けないまま


怯えてすくんだ。


そんな中、


『逃げて!!!!!』


レーガンの叫び声が響き渡る。


咄嗟に出たその言葉を

少女のみならず

その場にいた小人たち全員に聞こえるように


大きな声でそう叫んだ。


しかし、


『動くな』


彼女の思いが叶うことはなく、

そんな声が先に届いてしまう。


大きくはない声

それと同時に思念が頭に直接響いてくる。


自分よりもはるかに大きい竜が、化け物が

友の、家族の、愛する人の命を、あっという間に消す、奪っていく。


それを

その悲しみが

果てしない怒りが

いくつかのそんな光景が


頭に広がり、それだけで頭が埋め尽くされる。


それが、黄色の光と共に

その場にいた全員に届いてしまった。


『っ!・・っ』


瞬間、その場にいた生命は

動くことを禁じられた。


(う、動け・・・まさか禁術の!)


レーガンも、小人も

指先すら硬直して動かない。


目を瞑ることも

自分の意志ではできない。


体が瞬きを必要としない限り

動くことはできない。


完全に

支配されてしまった。


そんな彼女らの元へ

彼が来る。


支配者がくる。


黒ずくめの男が

黄金の目をした、くせっ毛の独裁者が

皆の方へと歩いてきていた。


『・・・・・・なるほど、色々あったらしいな』


背丈は170cmにも満たないそいつは

一目見ただけでは、痩身にも見えるかもしれない。


しかし、

服の裾や襟から見える

手首や首は、ぱっと見の印象からすれば

違和感を覚える様な強靭さを持っていた。


そいつは

身動きの取れない者たちを

その金色の目で見つめ、

最後にレーガンへ目をやる。


睨まれただけで

心も体も凍てついてしまいそうな

目線がレーガンを捉えた。


どんよりと暗い

黄金にも似た黄色の目は

ただただ目の前の世界を映していた。


目の前の惨事を

頭の無い緑の小人を含んだ

この惨劇を映し、それを受け止めていた。


動じていなかった


まるで何も

何の揺らぎもない。


あるのは

目の前の優秀な研究者への心配のみ


一つの命を奪い去ったとは

到底思えないほど


その視線はまるで平常心そのもの


(き、きちゃった、く、クラーク総督が)


『・・・巻き込んだなら仕方ないな』


そう呟いて

男は、独裁者は

テオ・クラークはゆっくりと


『一匹ずつやるか』


一人、いや、一匹の小人に近づいていく。

そして、一番近くに居た緑の小人の頭に手を置き、握った。


握り込んだ。


その瞬間、小人の表情が歪んだ。


『!!』


身動きがとれない。

声も出せない。


だが、その表情と息遣いだけで

ソイツを襲う苦痛がありありとわかる。


蠢こうとする表情筋が

頭がはちきれそうになるのを伝えてくれる。


そんな様子が

不幸にも、最後に彼を視界にいれてしまっていたなら

伝わってきてしまう。


『ーーー』


ぐしゃり


何の抵抗もなく、頭が潰れた。

赤い血が辺りに飛び散った。


『・・・・』


それに何の感慨も、躊躇いも、後悔もないまま

黒ずくめの男は

次々と小人たちに手をかけていく。


蹴れば、体が半分に裂け、

握ればその部位がはじけ飛ぶ。


何処からともなく現れた

黒ずくめの男の身の丈ほどはあろう金色の棒が

小人たちを貫き、引き裂き、叩き潰す。


目にも止まらぬ速さで行われる惨劇に

その光景にレーガンはひたすら怯えていた。


鮮血が飛び散る度に、

骨が砕け散る度に


震えたかった


逃げ出したかった


しかし、それらは決して許されない。


彼が発した言葉の通り、動くことは禁じられた。


逃げ場を失った恐怖は

ひたすら彼女をしばりつけ、

飲み込んでいく。


そんな時、レーガンの目にあの少女が映った。

ちょうど彼女の目の前にいた彼女の顔が見えた。

見えてしまった。


こちらを見ているのが、

見えてしまった。


『っ!』


涙と鼻水で汚れた顔が、

恐怖で歪んだ顔が、

レーガンを見ていた。


怖い怖い怖い怖い

嫌だ嫌だ

嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌


それがじっとレーガンを見ていた。


助けて

助けて


と訴え続けていた。


そんな少女の姿が


そんな少女の顔が


不意に割れた。


何かがゆっくりと

顔の間に割って入ってきた。


少女が目の前で裂けた。


頭から真っ二つに

左と右が別れ、


真っ赤な臓物が粉々に飛び散って、顔にかかる


速さで熱く焦げた何かが、

蒸発しきる前の赤い血が飛び散り、

レーガンにその感触を植え付ける。


ただ、もっと恐ろしかったのは、

そんな惨劇が起きても、殺戮は止まらなかったこと


少女の命を奪ったそれは

視界の中で、残像を残しながら動く黒のソレは


それを全く気にも留めず、殺戮を続けていたのだ。


何でもないみたいに

庭の掃き掃除の最中、小さな命を潰すことを何とも思わないように


彼もまた、それらを殺すことに何も感じていない。


(あ、ああ)


あれが大総督

あれがテオ・クラーク


あれが、カティアの代表、カティアの頂点、カティア国の最高権力者


(怖い)


アレに比べれば、

目の前で消えて無くなった彼らの方が

何十倍、何百倍と可愛く見える。


魔獣などよりも

あの魔法使いの方が、

あの魔王の方が遥かに恐ろしい。


(こわいこわいこわいこわい)


五秒足らずで行われたその惨劇は

永遠にすら思え、永久に記憶に刻まれるだろうと確信した。


しかし、そんな目測は誤りだと

すぐ彼女は気づかされることになった。


一仕事終えた彼が、

冷たい目の魔王が


レーガンの目の前に現れる。


残像を残しながら

唐突に彼女の前に立ち、風圧で辺りの血飛沫が再び舞う。


『・・・怪我はないか?』


そう言って、

彼はレーガンの身体に付いた血を瞬きする間に取り払う。


血だけ動かして、手元に集め、蒸発させていく。


『な、ない、で、す』


その問いかけに対して、

レーガンの口は勝手に動いて答えた。


内心、叫びたいぐらいに、

体も穴と言う穴から体液を噴出してしまいそうなぐらいに

恐怖し、泣き喚いていたが、


それは許されない。


支配者たる彼が求めたのは、

外傷があるかどうかの、

はい、もしくは、いいえ

その二つの一つ


それ以外は許されない。


『しばらくはそのままでいて欲しい。』


そして、支配者は更に続けた。


そう言われれば、支配された側は

そのままでいるしかない。


『・・・計画は変更する』


彼女が動かないことを確認すると、

彼は内ポケットから取り出した

無線機に向かって語り掛け始める。


『研究員が巻き込まれた。

 しかも、相手は襲撃に勘づいたらしい。

 武器を持って、こちらの基地近くに迫っていた。』


淡々と状況を護衛兵に報告していく。


大総督なのだから、

本来、このような一兵士のような役割を追う必要はない。


『事態の深刻度、対処の緊急性が増したとみなし、

 土地への配慮は消去する。地質調査も研究員たちのおかげで粗方済んだ。

 ここから』


しかし、彼はあらかじめ決められた地図上の区分けで

自分がこれから行う攻撃を示し、


『・・・に向かって、第三作戦を実行する。

 総員退避を』


迅速に行われる返答を聞き終わると、

彼はそこからレーガンに背を向けて立ち、

彼らが退避完了の報告をするまで待っていた。


『支配の魔法を受ける感覚は、決していいものじゃないだろうが耐えてくれ。

 一旦この場は、俺たちが対処する。』


そんな彼が見つめる方向、

そこに森を埋め尽くさんばかりの

緑が現れてくる。


『勇敢な種族だ。』


大勢の緑の小人、

彼らはその男に向かっていた。


怒りを露にしながら

全力で突撃してきていた。


『あれだけ仲間が自殺させられても、まだ向かって来るのか。

 人だったら、是非ともウチに入って欲しかったな』


そんな彼らを見て、

この魔王はまるで緊迫した様子を見せないまま

ただ仕事をこなすだけといわんばかりに


その手の平を彼らに向ける。


小さな光の球が二つ

その中で一つの球を描くように動き続けている。


『じゃあな』


本来、兵士でない彼がこの場に立つ意味を

レーガンはその目で見て、理解した。


(あ、あの魔法!)


その瞬間、

二つの球がぶつかり、

魔王の手から放たれた青白い熱線が

視界の果ての果てまでを覆い尽くすことで、察することができた。


(や、やめて!)


心で何を叫ぼうが、

それが口から音として出ていくことはない。


瞬きの隙間に一瞬だけ見えたあの青白い光は、

緑の小人たちを包んでいた。



それは、あっという間で、

彼らに苦しみを感じる瞬間があったのかすらわからない。


『・・・・・作戦終了。各班、状況を』


しかし、

(こ、殺した・・・今、全部・・)


一目でわかるのは、


さっきまで

命があったところには

何もいないこと


青白い光が通り過ぎた跡には、

地平線の向こうまで、大きくへこんだ荒れ地が続いていること


黒く焦げ、表面はマグマのように溶けた岩石が表面を彩り、

火山の火口か、地獄の底かを思わせるような絵図を作り上げていること


あの場所には、ついさっきまで数千、数万を超える命があったはずだ。


(こんなに簡単に・・・)


それは今、どこにもない。


青々とした緑も

活き活きと暮らしていた生命も

今は何もない。


そして、それに

この魔王は何一つ、

動じることが無かった。




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