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episode 4【大開拓】


それが始まったのは、四十年も前の事


革命による戦争が終わった年、

最悪の魔獣『イーヴィル』が討たれたとされる年、


そこから十年が経った時の事


この国家は、ある一人の主導者の元、動いていた。


カティア国大総督『テオ・クラーク』


全身黒ずくめの、冷たい目をした独裁者


革命の英雄、

イーヴィルを討ち取った張本人であり、

その戦いで多くを失った人


彼が独裁者の椅子に座ったことで

この国はがらりと変わり、あらゆる常識がひっくり返ってしまった。


戦後の復興を行いながらも、

着々と、誰でも簡単にある程度の魔法が撃てる兵器、魔導銃を流通させ、

長い間、人を見る指標となっていた魔力によるクラス分けを行う制度を、あっさりと廃止


他にも多くの改革を急速に行っていった。


そんな中、彼が行っている事業の一つが、

【大開拓】である。


大開拓とは、

人類が踏み込んだことのない土地へと踏み入り、開拓し、

人の生存圏を広げていくという、大総督が主導する事業である。


ハンナ・レーガンは

そんな大開拓をするにあたって、見つかるであろう

未知の存在、地形、災害、現象などを

対応、解明するために集められた

研究者の一人であった。


未知が溢れたその世界は

研究者にとって、どれほど魅力的に映っただろうか。


最新鋭の設備が用意されるとは言え、

開拓地では過酷な環境が待ち受けていることだってあるだろうし、


その足で、舗装などされようもない荒れ地に足を踏み入れることだってある。


それを踏まえても、

彼女は必死に参加しようと努力した。


研究者として、

目に見える形で成果も作った。


不慣れな運動も頑張って、

現地調査に耐えうる体力も付けた。


そうやって、彼女は大開拓に参加したのだ。


何百人もの警備兵に守られながら、

新天地を目指し、進み続ける日々、


ある程度の地形の把握や生態系の把握ができたなら、

調査完了として、後は政府のインフラ事業や民間企業に託していく。


そんな未知を既知へと変える日々の中、

彼女は未知の存在と出くわした。


それは

『あれは・・・・』


それと彼女が会ったのは、約二か月前の事


『直立・・・かは怪しいけど

 二足歩行で、棍棒を持ってる・・・・』


緑色の肌、尖った耳、鋭い爪と牙、黄色の目

平均的な身長は、100cmもないだろう。


『・・・亜人か』


それを見た先輩研究員はそう呟いたそうだ。


亜人、人の亜種

人とは少し離れた存在


二足歩行で、

道具を作り、

集団で生活する


人と共通している箇所が多いものの、

進化の過程で、人類と別れた魔獣に近い気配を持つ者たち


『亜人・・・初めて見ました・・』


それから、

研究班は、彼らを

「緑の小人」と名付け、観察を始めた。


余り近寄り過ぎると、

警戒され、攻撃されかねないため、


周囲の景色と同化する移動式のテントのような魔導具を展開しつつ、

護衛兵たちと共に、 300メートルは距離を開けて、

彼女らは尾行し続けた。


大体が森林の中での移動となったため、

足場は非常に悪く、何度も転倒し、研究者たちは多大な肉体労働を強いられた。


だが、そんなこと、彼女らは全く気にならなかった。


ひたすら、目の前の存在に夢中になっていたのだ。


生活様式は何か、

家族様式はどうか

住処はどこなのか

どうやって意思疎通を図るのか


いくつもの疑問が浮かぶが、


粘れば粘るほど、重たい脚を動かせば動かすほど

その疑問は晴れていく。


それは、基本的には、

一つ辺り100から200の群れをつくって生活している。


オスの小人たちが中心となり、狩猟を

他は木の実などを採集する

典型的な狩猟採集の生活を送っていて、


狩猟のやりかた方は、相手の強さによって分かれており、


相手が弱いと判断した場合は後ろを付け狙う班と、

待ち伏せを行う班に分かれて、狩りを行い、


相手が強いと判断した場合は、囮役を用意して

囮役に獲物が気を取られている間に、

他が石を投げたり、後ろから跳びかかるなどして、

徐々に弱らせていき、仕留めていた。


どうやら、

小人たちの牙や爪には、麻痺毒が含まれているようで、

何度も嚙まれたり、爪を突き立てられると、

獲物は動きが止まってしまうようだ。


しかも、

簡単なものではあるが、道具も作れるようで、

石を投げるのではなく、スリングで石をぶつけたり、

弓矢を使うことだってある。 


レーガンから見れば、

家族という概念は希薄で、

群れ一つが大きな家族と言った印象だった。


自分を産んだ父、母は確かに特別な存在ではあるようだが

他の年上と思われる相手にも同様に敬意を払っているし、

基本的に群れの長の意向が重視されるのは変わらない。


子供たちも、両親だけが育てると言うよりかは、

その時、手が空いていて、近くに居る大人が世話をすることが多く、

何か問題が起こる度に、両親を呼ぶようなこともないし、

両親もそれで何か不満を表すわけでもない。


やはり、群れが一つの家族、最小単位として機能しているのではないかと

レーガンは推測した。


最小単位としたのは、

この一つ100人ほどの群れは、

近くに居る、いくつもの同じような群れと度々、交流をしているからだ。


金銭のやり取りなどは見られないが、

物々交換は行っていることがあり、

他にも、他の群れも協力して狩りを行ったり、番を作ったり、

様々な形で交流が見られた。


いくつもの群れを含めた大集団の構成する小集団、その構成員の一人

と言う認識が彼らにはある様だった。


また、そんな彼らが住んでいるのは

専ら、洞窟の中だ。


天然の洞窟の中で生活することもあるが、

地面や岩石を掘り進んで、自ら作り上げることもあるらしい。


中には、余り日持ちはしないものの

食料が備蓄されてあるほか、壁や天井に

奇妙な図形や絵を描くことがあることも確認された。



これらを聞けば、まるで人の様だ。


レーガンも観察の中でも、そう思う機会があった。


ある時、レーガン達の、ほんの近くに

緑の小人のメスの子供が取り残されていたことがあった。


オスは髪がないことが多いが、

メスは金の髪が生えていることが多く、


その子供も、金の髪が生えており、

編み込まれて、整えられていた。


緑の小人の、

オスの平均身長はおおよそ90~100cmなのに対し、、

メスはそこから10cmほど下がり、

子供ならば、雄雌関係なく、大体60~70cm前後


体型は、頭が大きめ、胴は短く、手足は長め、


その子は、恐らく

人類で換算すると、10歳ぐらいであったかもしれないが、

頭身は異様に低いものの、手足は長く、

足や下半身、特に腰回りはがっしりとしていて太かった。


違う点は多くある。


しかし、群れに取り残され、

誰かに助けを求めて泣き喚く

緑の小人の子供の姿は


人の子供と何ら大差なかったと言う。


そして、

それを大人連中が迎えに来て、

宥めている様子もまた


レーガン自身が

幼少の頃、何度か経験したことと、

とても似ていた。



ただ、そんな彼らだったが、

研究班と交流することはほとんどなかったと言う。


何度も研究班は

彼らとの交流を図ったのだが、

それが叶うことはなかった。


理由は二つ


まずは、

群れや、いくつかの群れの集まりの同種以外に対しては

警戒してしまうから。


そもそも、人という見たことのない新たな魔獣が姿を見せた時点で、

彼らは酷く怯え、逃げ去るか、大人数で威嚇しに来てしまう。


ただ、これは当然と言わざるを得ない。

逆の立場で考えると、それは明白だ。


いきなり街中に緑色の肌をした小人が現れたら、

誰だって警戒するし、逃げる人だっているだろうし、

たちまち騎士が駆けつけてくるだろう。


あっちからすればそれが起きているのだ。

警戒されるのは、きわめて自然だと言える。


問題は、次の理由

そもそも発声器官が違うため

意思疎通が取れないことだ。


緑色の小人は、鳴き声によって、意思疎通を行っていた。


人のような声も発するが、

唸り声のような声が大半で、

人が出すには苦労しそうだ。


しかも、口を閉じながら、何かを高速でぶつけている様な音を発したり、

二つの音を同時に発することもある。


これらを人が生身でやれるかというと、そうとう怪しいため、

仮に再現するとすれば、機械が必須となるだろう。


ただ、裏を返すと、

機械さえあれば、やれないことはない。


費用や労力は掛かるだろうが、

やろうと思えば、意思疎通を図ることは可能ということだ。



しかし、そこで一つ目の問題が足を引っ張る。


そもそも、小人たちは警戒心の強い種族、

同族以外が近づくと問答無用で攻撃されてしまう。


どのような方法論を語ろうと、無理矢理攫ってしまう以外で、

彼らと安全に接触する方法は、その場では存在しなかった。


一旦そこで、研究は足踏みしてしまった。


研究班は交流のために頭を悩ませるものの、

煮詰まってしまって、遅々として進まない。


そんな時、

古株の研究員の一人がこう口にした。


『・・・この感じだと、アイツらとも、もうお別れかなぁ』


疑問に思ったレーガンが

彼にその意味を問う前に

その時丁度、警備兵の一人が研究班の面々にある髪を届けに来たと言う。


『やっぱりか』


慣れた様子で、レーガン以外の面々は振舞う。


『い、一体何が』


そう思った彼女が

その紙をよく見ると


その文面は、

簡素で、冷たくて、

端的に、その意図を示していた。


『緑色の小人は、交流不能とみなし、

 処理することとなりました。

 決行日は、二日後、●月×日 午後14時 となります。

 研究員の方は、警備の指示に従い、

 退去してください。』


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