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ディスマン短編集『語らずとも談る』  作者: ディスマン


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レコードが静かになっていく

リハビリ感覚で書いてみました。

 音楽室は一人の人間しかいない密度でありながら、音の質量は重かった。少女とも少年とも見える中性的な顔立ちは、学生服を見てようやく少年であると分かる。

 少年はピアノにしなやかな指を滑らせ、弾く。誰の耳にも聞こえない。故に、誰も汚したり決めることのできない絶対的な音楽を奏でていた。

 楽譜は開かれていない。最近どこか街中でピアノパフォーマンスをしていた人の指の動きを覚えて、それをトレースしただけである。しかし、そのパフォーマーと少年のピアノを聴いた人なら分かる。音楽としての完成度は、少年の方が遥かに高いのだ。

 少年はピアノを弾き終えると、アコースティックギターを一本取り出して弾き始めた。少年はコードや奏法の概念は分からない。ただ、見たことある動きを真似ているだけなのだ。

 それでも少年には演奏が楽しくて仕方なかった。指に伝わる音の振動が、彼にとっての音楽だった。爪、指、高いか低いかも分からない自分の歌声。そのどれもが、感動ではないが楽しさを少年自身に想わせていた。

 一通り演奏してすっきりした少年は、楽器を戻して音楽室を出た。彼の足取りは、右手小指で弾いた鍵盤の音より軽かった。


 その様子を、一人の少女が見ていた。彼女は、少年の音楽を聴いていた。素晴らしいの一言しか浮かばない語彙力の低さを呪った。しかし、少年は楽しそうだった。誰かに聴かせるものではなく、自分に伝わる音楽に没頭していた。

 少女は少年の背中に声を掛けたが、一切気づくことなく階段を降りていった。

 音楽を少し齧ったことのある少女には、ギターはともかく、彼がピアノで弾いていたクラシックが何か分かっていた。

 「ピアノソナタ第14番」

 少女は、彼が何故音楽を楽しそうに弾けるのかを悟った。

 あれだけ好きなら、また明日もここに来るかもしれない。少女は少年の音楽を、彼の代わりに耳を澄まして聴いていたくなった。

 開かれることのなかった楽譜には、フェルマータという目玉のような記号が刻まれていた。

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