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ディスマン短編集『語らずとも談る』  作者: ディスマン


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いつかのどこかのだれかの『A』

ブックオフで少年Aが書いた本買って思いつきました。読む人を選ぶねこれ。

まあ世間では普通に少女Aとか売られてるしオッケーだろ(適当)

 名前が記号に変わる瞬間を知っているだろうか?


 ある日まで自分の名前があり、顔があり、声があった僕は、それ以降ただの名も無きAの記号に変わってしまった。もちろん僕自身の名前も顔も声もある。僕を育ててくれた両親も、僕のことは覚えている。だが、世間はそうではない。世間とは、良くも悪くも曖昧の塊なのだ。

 新聞やテレビに顔か名前が流れて初めて、人は罪人の存在を知る。でも僕は少年法により実名も顔も伏せられていた。故に、少年Aと呼称され古い集合写真だけが当時の僕を証明してくれていた。


 中学生だった僕は、幼い小学生の少年少女を殺した。信じて欲しいのは、そこに憎しみとかは微塵もなかったのだ。ただ、僕ですらも言葉では表現しにくい衝動が、その時の僕を支配していた。そうしないといけないような使命感じみた欲求が頭の中でずっと響いて、その陰から快楽を求める悪魔の声がしたのである。そして、気がつけばたまたま道で出会った少年を林の中で締め殺していた。喉が小さく跳ねたのを皮切りに動かなくなった見知らぬ男の子の肉体を見下ろした時、僕の中には人の心と呼べるものがなかった。元からないとは思っていましたが、更に空洞化が進んだように感じられました。

 それから、僕は公共交通機関はできるだけ使わずに遠くの街まで行って少年少女を殺すようになった。主にナイフで心臓や頸動脈を刺すように変えた。最初の絞殺は男の子が苦しそうだったので、僕なりの優しさです。失血死なら痛みはあまりありませんし、心臓なら即死で済みますから。

 そして試しに僕は、殺した女の子の首を切り落として、近くの小学校の校門に飾った。胴体は服だけ脱がして下着姿で同じく門に括り付けた。特に意味はなく、思いつきの行動だった。夏だったこともあって腐敗が早かったのは誤算でした。見目麗しい幼子が腐って醜くなっていく様は、見ていて気分のいいものではありません。そう考えると、ミイラとか、ホルマリン漬けとかは素晴らしい技術であると実感しました。将来は考古学者か生物学者になろうと誓いました。

 当然、多くの失踪者と見せつけるように置かれた死体が見つからないことはなく、すぐさま蜂の巣を突いたように街も警察もマスコミも騒ぎ出した。僕はちょっとカッコつけて怪文書なんかも警察やマスコミに送りつけてみたり、特に意味もなく殺した被害者をイメージして描いてみた絵を現場に貼り付けてみたりして世間を弄んでみました。まるで自分が主役になって警察を翻弄しているような、舞台俳優に似た快感がありました。子供を殺した時と変わりない快楽でした。誰かに注目してもらえている時、僕は愛されているような気持ちになったのです。

 思えば、後ろから人を殺したことはありませんでした。僕は必ず相手と目を合わせて、その目から光がなくなるまで片時も目を離していなかったのです。そして被害者たちも、命を侵されている間は僕から目を離すことはありませんでした。なんだかそれだけで、人と繋がれている気がしたのだと、僕は思っていたのです。

 しかし、そんな生活も長くは続きませんでした。僕に当たりをつけた警察が、家まで辿り着いたのです。決定打は、目撃者でした。思えば僕は、人を殺す時に二人きりの世界に入ってしまいがちなので周囲に気を張るということを意識していませんでした。なんとも呆気ない幕引きでした。

 少年法により名前も顔も公表されず、精神的に問題があるとみなされた僕は、少年院とは少し違う医療少年院という場所で更生プログラムを受けました。ゴムでできていて自殺もできず、カメラが常に僕を監視していました。生きている感じがしなかった。天国にある白い牢獄にいるような、そんな生殺しの感覚が常に抜けなかったのです。自分すらも白い何かになって、あの空間に溶けて消えられたならと、何回も夢想しました。

 だがそれでも、更生の中で最も幸せだったのは、疑似家族でした。母も父も弟もいて、二人は僕といる時は常に愛情を向けてくれて、弟は僕を全く警戒していませんでした。考えてみれば、僕の本当の両親からの愛情とやらを、僕は感じていた覚えがありませんでした。何というか、どこか他人という感じがずっと蔓延っていたのです。

 その点、あの時の家族は頭の中で偽であると分かっていても、心はどうしようもなく満たされていました。心に血脈は関係なかったのです。必要なのは愛がそこに確かにあるか、それだけだったのです。

 数年かけて、お医者さんから退院の知らせを受けた僕は、地元に戻る気はありませんでした。とにかく、あの家族のままどこかで穏やかに暮らしたくなったのです。そう要請すると、なんと僕を養子にしてくれました。人生で数少ない幸福の瞬間です。

 今、僕はこうして本を書きながら普通の会社で普通の事務をしています。あまり明るくはありませんが、それでも人と生きていけています。


 今の僕は名前を取り戻しましたが、誰しもが何らかの滑落や気狂いで人間ではなくなってしまいます。僕も、現在はこうですがあの頃の僕もまた永遠にどこかで生きたままなのです。考えてみてください。教室の隅で存在感を消すクラスメイト、公園で元気に遊ぶ子どもたちを眺める子ども、母親と手を繋いでいるのに無表情の子ども・・・・・・。それは、僕です。紛れもない少年Aの一人です。彼らが名前のある人間で居続ける為には、誰かが一度でもいいから手を握って引き連れてあげる必要があります。

 名前も顔もない、記号だけの幽霊は、ただそれだけで消えてしまうのです。


人が文字に変わった歴史的瞬間だね。

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