表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ディスマン短編集『語らずとも談る』  作者: ディスマン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/36

メビウスの首輪

社会派サスペンスなショートショート

 首筋を走る二重螺旋の紋様は、人を証明してくれるものであり人を縛る物でもある。人は誰もが自分である証を刻みつけられており、常に自分に囚われている。役者も、モノマネ芸人も、要人の影武者も、どれだけ努力しようと100%誰かになることは決して叶わないのだ。


 道を往来する人々の首には、皆別の二重螺旋の模様が浮かんでいる。唾液や毛髪からDNAを採取していた時代は唐突に幕を下ろし、生まれた時から首に浮かび上がる、自らの遺伝子模様がその代わりとなっていた。

 しかし、それに台頭して出現したのがDNA偽証罪である。タトゥーやメイクを使って別人のDNAと偽る犯罪が同時に生まれたのだ。幸いなのは、完璧に偽造できる人間が少ないことにある。DNAは双子や突然変異でもない限り、誰かと全くの同一になることはない。故に、犯罪の成功率も精度もイマイチだった。

 だが社会は恐ろしいもので、半年もすれば皆その遺伝子の首輪に慣れてしまっていた。ある意味、最もオープンな時代の到来と言える。読み取りもできない自らの生物学的情報を全て晒しているのだ。しかし、これを見て情報を読み取れるのは専門職の人間だけであることは前と変わりない。謂わば、現代の人間は誰もが裸の王様となっていたのである。




 そんな時代も半世紀経たぬある時、一人の男が生まれた。彼はすくすく成長し、首に皆と同じく自らの遺伝子が刻まれた模様が首を一周していた。だが、彼はこの螺旋が忌まわしく感じられた。


「これは自分を証明するものなどではない。より明け透けにされたレッテルだ」


 誰も今は気にしたことすらなかった首の二重螺旋というものに、ただの男が放った一言で大きな波紋を生んだ。遺伝子とは、究極の個人情報だ。そんなものを隠すでもなく外気に晒して何故今まで平気だったのだろうか。

 そもそも、これを人に見せつけて自分の何が証明できると言うのか。世界に疑問が広がっていく。この首輪を消そうとする者、隠せるものを開発しようとする人、宗教と絡めてよからぬ噂を流す陰謀論者など。結局世界は従来と同じく平和な混沌を齎した。人は何か一つのきっかけで変わるものではない。そんのもので、何千年と背負ってきた業がどうこうなるはずもなかったのだ。

 そして、世は世界に20世紀以来の悪魔を産み落とした。遺伝子の形を利用して、遺伝子的な優劣を推し進めるDNAファシズムの出現である。要は、遺伝子差別主義者・遺伝子至上主義者が現れたのだ。

 世の中には根深い差別や迫害がより悪辣となって蔓延った。これは噂や情報操作ではない。遺伝子は純粋な個人の情報そのものである。故に、劣っていれば覆しようがない。それは残酷だが唯の事実でしかないからだ。

 世間は間違い、捩れ、壊れていく。それが修復されるのは何年か何世紀後だろう。首輪が外れるか、もう一度あの誰も疑念を持たなかった白痴の時代に戻るしかない。

 だが人間の欲と愚かさがそれを許さない。恐らく、現代という時代の終末になる程のことがなければ、箱庭を見下ろす裁定者が嗤わなくなる時代はこないだろう。


 そうなる前に、男は自分が知る自分のままでいたかった。だから男は、この首輪を上書きすることにしたのである。窓を叩く雨は青と灰の混じった水彩画を描き、一瞬のうちにぐちゃぐちゃにしていく。音量の限りなく小さいニュース番組が、薄暗い部屋をより不気味に演出していた。

 決心した男は、震える体を無視して首輪を嵌め、足裏を蹴った。


 生活感の染み込んだ部屋、誰に宛てるでもない手紙、倒れる椅子、ギシリ、ギシリ。


 二重螺旋の上には縄編み模様が濃く上書きされ、男の願いは叶えられた。

 この願いが叶えられたことを皮肉げに祝福するように、数分もしないうちに外は晴れたのであった。

又吉さんの渦というチャンネルを見て思いついた。

制作時間:15分

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ