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《第二章完結》世界が静かになっても君の羅列と耳障りな雑音《ノイズ》は消えなくて  作者: 三愛 紫月
第三章 すれ違って進む新しい未来

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46/48

side 音

【わかった】


文字を読んだ姉は頷いて、車のドアを開けて降りる。



「音、鍵もらった?」

「あっ、うん」



鍵を渡してと言わんばかりに母は手を差し出してくる。



「これが、合鍵」

「これからは、インターホン鳴らさずに来ていいって事よね?」

「見られてまずいものはないから大丈夫だよ」

「そう?それならよかった」



ニコニコと嬉しそうに笑いながら母は車から降りて、俺も後に続く。



「これからは、好きな時に来れるって。今までは、あの子がいたからそうはいかなかったじゃない」



母の口の動きを読もうとしたけどやめた。

何故なら、姉の目が解読するなと言っていたからだ。



「こんにちは」

「こんにちは」


引っ越し屋さんがやってきて、早口で話始めるから口の動きを読むのが追い付かない。


「音。運ばれたダンボールほどいたら?話すのは、私や母さんでも出きるから」

「ありがとう」


スマホを出させないように姉は、そう言ったんだと思った。

こんな機械に頼らなければ生きていけないなんて、本当に情けないと思う。


運ばれたダンボールは、リビングに集められていく。

俺は、服と書かれたダンボールを持って寝室に向かう。



ワンルームでもいいかなって思ったけど、琴葉がリビングがあった方がいいって言ってたから、1LDKにした。

琴葉に会う事なんて二度とないのに……。

二人で使っていたダイニングテーブルは、捨てられなかった。



ダンボールを開封して、服を取り出す。

この服のほとんどが琴葉との日々を覚えている。



「音、冬服もおいとくよ」

「うん」



姉は、ゆっくりと口を動かしてくれた。

今、この瞬間も母が何を話しているかわからない。

文字にしなくたって、琴葉の悪口を言ってるのはなんとなくわかる。

母にとって、琴葉は異物なんだろう。


ダンボールから、服を出してはクローゼットにかける。

振り向くと姉がクローゼットにしまう衣装ケースを置いてくれていて、俺はそれにシャツやTシャツをしまう。

その作業を繰り返すだけだった。

どれくらい経っただろうか?

青いダッフルコートをかけて、クローゼットの整理が終わった頃に母が声をかけてくる。



「音。終わったよ」

「ありがとう」

「今日は、晩御飯食べに来る?」

「あっ、うん。後で行くよ」

「じゃあ、先に帰ってるからね。近いから歩いてこれるでしょ?」

「うん……後で行くよ」



母と姉は、帰って行く。

いつの間にか、ベッドがきた事にも気づかないぐらいぼんやりしてた。


リビングのダンボールは、母と姉が片付けてくれていた。

引っ越し業者が持ってきてくれたダイニングテーブルが琴葉と住んでいた日々を思い出させてくれる。



ポケットから、スマホを取り出してアルバムから写真を探して見る。

いつだって、俺の傍には琴葉の羅列があった。

その文字を見るだけで、いつも幸せで、暖かい気持ちになったんだ。

だけど、もう。

あの文字を見る事はない。


どんなに悲しい思いをしても、どんなに傷ついても、それを忘れさせてくれるような暖かな羅列は……。


この世界には、もう存在しない。

この静かな世界を埋め尽くしてくれた声も文字も……。

もう二度と手に入らないんだ。



ブブッ……。


【今日、見送りに行ったのにいなかったんだけど。早めに出た?】

【うん。早めにきたよ】

【それなら仕方ないな。来週、そっち行くからその時はゆっくり話そう】

【わかった】



徹からのメッセージのお陰で、よけいな事を考えなくてよかった。


そうだった。

手話……。


この先を考えると必要なんだけど。母が賛成してくれるかがわからない。

とりあえず、姉に話してみようかな?

鍵を持って、家を出た。


この先に幸せなんてないのはわかっている。

また、母の顔色を伺うのもわかってた。

なのに、何で?

ここに来たんだろう。


考えたくなくて、鍵を閉めて歩き出す。


何で?

こんな近くを選んだんだろう。


自分の気持ちがわからないまま、実家へと続く道を重い足取りで歩く。

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