side 音
「もうすぐ終わるな」
「ありがとう、徹」
「全然、大丈夫。でも、いいの?あっちに帰って、ここに行ってるのおばさんにバレたら……」
「バレないようにするから、大丈夫だよ」
「おばさんは、音の耳。まだ認めてくれないの?」
「責められてる気がするんだろうね。今もだけど……」
「そうだよな。自分が運転してたわけだしな」
「いつか、わかってくれる。その為に、離れているより近くにいる方がいいと思うんだ」
「そうかもな!近くに居たら、音が今どんな感じがちゃんとわかるよな」
俺は、簡単に考えていた。
傍にいれば、近くにいれば、きっと俺を理解してくれるって。
あの頃は、難しかったけれど……。
今なら、少しは話が出来るようになっているはずだから。
ピンポーン
「来たみたいだな!出るわ」
「うん。よろしく」
さよなら、琴葉。
もう、俺達は二度と会わない。
俺は、琴葉が幸せになる事だけを願っているよ。
「こちらでお願いします」
「わかりました」
詰めた荷物が、どんどん運ばれていく。
出て行く事を決めたのに、心が揺らぐ。
至るところに、琴葉との思い出がある。
この部屋を離れたら、全てが消えてゆく。
「じゃあ、先にこちら運んでおきますね」
「おばさんいるんだよな?向こうに」
「うん。荷物は受け取ってもらえる」
「わかった。じゃあ、伝えとく」
徹は、引っ越し業者に話をしてくれる。
向こうで、母が待っている。
だから、もう少しだけ……。
「音は、明日までいるんだよな?」
「うん」
「明日の何時に出る?見送るから」
「いいよ。子供じゃないし」
「じゃあ、明後日の休みに片付け手伝いに行く」
「それじゃあ、よろしく」
「じゃあ、帰るわ。あっそうだ。明日は、何時までいる?」
「15時ぐらいには出るかな」
「わかった。じゃあ、帰るな」
「うん、気をつけて」
徹を見送ってから、俺は何もなくなった部屋に寝転がって天井を見上げる。
琴葉だけは、俺をわかってくれた。
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「トントンってまな板で料理したら音がするでしょ?私が、包丁を持っていたらトントンだよ」
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「トントン……」
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「娘と別れてくれてありがとう」
目を瞑った瞬間、琴葉のお父さんの羅列が浮かんだ。
俺は、琴葉のお父さんに、ようやく喜んでもらえたんだ。




