side 音
「明日だっけ引っ越し?」
「うん」
あの日から、もう3ヶ月が経っていた。
俺は、変わらない日々を送っていた。
「琴葉ちゃんが、昨日の夜倒れたって。お見舞い行く?」
引っ越しの手伝いに来てくれている徹の言葉に今すぐに駆け出して行きたくなる気持ちを押さえる。
「音、行きたいんじゃないの?お見舞い」
「琴葉には、新しい人がいるから邪魔したくない」
「本当にいいのか?」
「いいも何も……。俺達は、もうとっくに終わってるから」
「琴葉ちゃんが幸せになってくれなきゃ、俺も困るんだよな」
「何で、徹が困るんだよな」
「それは、彼女の親友だから」
「何だそれ。意味わかんないから」
「確かに意味わかんないよな。でも、琴葉ちゃんには幸せになって欲しいよ……音と……」
「俺はないよ。気になる人が出来たから」
「気になる人?それって美弥子ちゃん?」
「いや……違う」
徹から目を反らして荷物を積めていく。
俺は、もう徹の声も聞こえない。
脳内に流れる音は、無音で。
ただ、羅列の雨が降っているだけ。
そんな俺が、琴葉を守る事は出来ない。
そんなの俺が一番わかってる。
チカチカ……。
ライトの光でインターホンが鳴ったのがわかって顔をあげる。
「出ようか?」
「いや、大丈夫」
「じゃあ、お皿つめとくわ」
「よろしく」
俺は、玄関に向かう。
この家に、用事があるとしたら母ぐらいだ。
でも、明日には帰る息子にわざわざ会いに来るだろうか?
いや……。
あの人なら、やりかねない。
「母さん、来るなら電話……あっ」
「お久しぶりです」
「荷物は、もうないですけど」
「荷物じゃありません。私と……」
彼女が申し訳なさそうに眉を潜めながら隣の人物を見る。
「申し訳ないんですが、駅前にある喫茶店で待っていてもらえますか?家は散らかっていて……」
「わかりました。待ってます」
「着替えたら、すぐに行きます」
「はい」
頭を下げてから、家の中に入る。
いったい何の用があってきたのだろうか?
俺達は、もうとっくに終わってるのに……。
「徹、少しだけ喫茶店に行ってくる?」
「大事な用事?」
「琴葉の事で来たんだと思う」
「一葉ちゃん?」
「あっ、うん」
「そっか……俺はゆっくりやっとくから気にしないで話してきな」
「ありがとう、徹」
部屋着から服を着替えて、俺はすぐに家を出た。
彼女の顔色を見る限り……。
俺は、かなり怒られるんだろう。
急いで喫茶店に向かう。
何を言われても仕方ない。
全て受け入れよう。
覚悟を決めて、喫茶店の扉を開く。




