side 琴葉
「彼じゃなくてガッカリした?」
「春樹……どうして?」
「どうしてって、買い物だよ」
春樹は、くまの柄のついた可愛らしいエコバッグを見せてくる。
「晩御飯の……買い物だね」
「そうだよ。あっ、でも、それだけじゃなくて……。もしかしたら、駅前なら琴葉に会えるかな?って思ったんだ」
「私に……?」
「うん。何となく。琴葉は、もう帰ってこないんじゃないかって気がして」
「そんなわけないよ。行く所ないのに……」
「じゃあ、何で雨に打たれてるの?」
春樹は、びしょ濡れの椅子に腰かける。
「濡れちゃうよ」
「それも悪くないね。傘閉じようか?」
「何で?」
「泣いてるの他の人に知られたくないでしょ?」
「違う……何で。そんなに優しいの?私は、誰も救えないんだよ」
「俺は、琴葉に救われたよ」
春樹は、傘を傾けて通りすぎる人から見えないようにする。
さっきまで、弾かれていた雨がいっきに降り注いでくる。
「帰ろうか?風邪ひくよ」
「春樹の優しさに甘えたらいけないから……私出て行く」
傾けていた傘が床に落ちる。
びしょ濡れの私を、抱きしめた。
「春樹……?」
「今度は、俺が琴葉を救うから」
「何言ってるの?」
「幸せにするから……このまま、一緒にいよう」
「春樹……」
「傷つけられる相手の傍になんか行かなくていい。琴葉には、幸せでいて欲しい」
さっき私が音に伝えた言葉と同じで、涙が溢れてくる。
傷ついた心は、傷の直し方がわからなくて。
今、目の前にいるこの手にすがる付く事しか出来なかった。
「春樹……私……」
「大丈夫、彼を忘れなくていいから……」
その優しい声に安心して、春樹の背中に腕を回す。
ザァー
ザァー
雨が雑音を消していく。
冷えた体は、どんどん春樹の体温で暖められていく。
ごめんね……音。
でも、私……。
もう、強くなれない。
差し伸べられた手を拒否出来ない。
だって、心がこんなに傷だらけで。
もう、自分じゃ直せないの。
バイバイ……音。
これから先も、音の幸せだけを願ってる。




