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《第二章完結》世界が静かになっても君の羅列と耳障りな雑音《ノイズ》は消えなくて  作者: 三愛 紫月
第二章 悲しみと新しい日常

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29/48

side 音

走って……。

走って…………。

走って………………。


家についた俺は、二階に上がる。

どれくらいの強さで、ドアを叩いただろう。

ビックリした姉が出てきた。


「なに?」

「俺に何か言う事あるだろ?」


スマホをポケットから取り出して、俺は画面を見つめる。


「部屋で話そう」

「どっちの?」

「音の部屋に決まってるでしょ」



姉は、俺を部屋に押し込んだ。


「徹君に今日の話したの怒ってんの?」

「そんなのどうでもいい」

「昨日、美弥子ちゃんが白山君と話してて。美弥子ちゃんが帰った後、白山君に聞いたのよ。音を呼ぶって……。28会で話せなかったからって。28会は嫌な思い出だったでしょ?白山君に聞いたら、徹君呼んでないって言うから。音が傷つけられたらって思ったら……」

「そんなのどうでもいいって言ってるだろ!」

「じゃあ、何?」



俺は、姉を見つめる。



「婚約破棄したって聞いたんだけど。本当?」

「あーー。白山君に聞いたの?そうなんだよね」

「笑い事じゃないだろ?俺のせいなんだろ?」

「はあ?何、馬鹿な事言ってんのよ。私達が別れたのに、音は関係ないから」

「嘘つくなよ。俺が、姉ちゃんの幸せを壊したんだろ?俺の耳が聞こえないせいで」

「何言ってんの!音の耳と私の婚約破棄は、何も関係ない。お互いに進むべき道が違っただけ。だから、音のせいじゃない」

「嘘つくなよ!俺が、ずっと姉ちゃんの幸せの邪魔してるんだろ?俺の耳が聞こえないから。遺伝するんじゃないかって思われたんだろ?だから、姉ちゃんの結婚駄目になったんだろ?俺……がいなかったら姉ちゃんは、その人と結婚出来たんだろ?」


姉に頬を叩かれる。

頬に走る痛みが、胸まで広がっていく。


「馬鹿な事言わないでよ。私達が、別れたのは音のせいじゃないから。それにい音の事で駄目になるぐらいなら、そんな人間こっちから願い下げよ」

「姉ちゃん」

「お母さんとお父さんには、自分から言うから音からは話さないでね」


姉は、部屋から出て行く。

ベッドに座って、部屋を見つめる。

俺は、幸せになっちゃいけないんだ。

俺が幸せになったら、不幸になる。

姉も……琴葉も……。


「おとーー」

「母さん……」

「さっき美弥子ちゃんが来てね。これ、忘れていったって。何かあった?」

「母さん。俺……。美弥子とは、付き合えないと思う」

「どういう事?美弥子ちゃんと何かあったの?」


母は、嬉しそうに笑っている。

俺は、いつもこの笑顔に応えようとしていた。

だけど……。

今回だけは……無理。



「ごめん」

「いいの、いいの。だけど、母さん。音には、近くに居て欲しい」

「仕事もほとんどリモートだから。来月には、近くに帰ってくるよ」

「一緒に住んだら?」

「ご飯ぐらいは、食べに来るから」

「わかった。晩御飯、音の好きな唐揚げだから食べていきなさい」

「わかった」


俺は、この先もずっと母さんが笑顔でいる方法を探すしかない。

琴葉に出会って、ようやく心配という名の監視から抜け出せたのに……。

これでいい。

俺には、これがいいんだ。

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