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《第二章完結》世界が静かになっても君の羅列と耳障りな雑音《ノイズ》は消えなくて  作者: 三愛 紫月
第二章 悲しみと新しい日常

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side 音

「はあ?あんた、誰?」

「あーー、こいつ才川の彼女じゃない?」

「本当だ!28会に来てたやつじゃん」

「そんなのどうだっていい。さっきの言葉撤回して……」

「だから、何?」


早口で、ついていけない。

俺は、スマホの電源を入れた。



「あれ、音の元カノさん。わざわざ、ここに何の用事?もしかして、音と私がやり直したからストーカーしに来たとか?」

「まじで!美弥子と才川に嫉妬して、こいつ現れたの?ヤバいじゃん」

「ふざけないで!!あんたが、音をこんな所に連れてきたんでしょ?どうしてよ!好き人に、何でこんな酷い事が出来るの?」

「痛い。離して」

「音が、今までどれだけの辛さや悲しみを乗り越えてきたと思ってるの?あんただって、わかってるよね?私より、付き合いが長いんだから……」

「離してって言ってるの」

「音の痛みは、こんなんじゃない。こんなの対した事じゃないでしょ?みんなの前に音を連れてきていったいあんたは何がしたいの?」

「離してよ。痛いでしょ」

「やめなよ!いかれ女」

「離しな」

「離さない。あんたが、あんたが、音を傷つけるのだけは許さない。それに、あんたらも許さない!私は、ここにいる全員許さない!自分と違う個性も受け入れられないような人間に音を傷つけられたくない」



琴葉の羅列が嬉しかった。

だけど、俺は……。

無言で、琴葉の腕を美弥子から離した。


「ちょっと待って、まだ話してるの!言いたい事、いっぱいあるの。痛いから、やめて」


抵抗する琴葉を引っ張って、店を出る。



「いい加減にしてくれよ!迷惑なんだ」


頭に血がのぼっていた琴葉は、ようやく俺を見た。

「ありがとう」って言おう。

琴葉のお陰で、抜け出せた。

琴葉のお陰で、息が出来た。


そう思ったのに、俺の言葉は琴葉を傷つける。

俺は、いつだって琴葉の正しさに救われてきたのに……。

嘘をつく。


そうさせたのは、さっきの空間?

ううん。

それだけじゃない。

俺は、琴葉に憎んで欲しいんだ。

もう、二度と俺に会いたくないって思うぐらいに……。

だって、俺といなかったら琴葉は、あんな風に怒らなくてすむだろう?


それでも、琴葉はまだ俺を愛しそうに見つめる。

俺は、琴葉を最後の最後まで拒絶した。

もう怒らないで。

琴葉には、笑顔が似合うから。

笑ってて欲しいから……。

バイバイ。


琴葉から、離れて歩き出す。

店に戻るとすぐに一階のトイレに向かった。

涙を止めなきゃ……。

トイレの鏡を見つめる。


静かに流れてる涙は、俺の頬を濡らしていく。

人が来る足音がして、俺は個室トイレに入った。

俺は、とっさにスマホ画面を見つめる。



「さっきの」

「ああ、才川の元カノ?」

「そうそう」

「佐渡みたいだったよな」

「あーー、わかるわかる」


トイレに入ってきた誰かの会話がスマホに並んでいく。

涙で滲む画面に、暖かい羅列が並ぶ。



「才川が違う人間だって思ってたけどさ。佐渡や才川の元カノが言うみたいに個性なんだよな」

「そうそう。俺達、一人一人顔が違うのと同じで。個性なんだよ」

「俺、才川戻ってきたら話そうかな?」

「戻ってくるかな?」

「来るよ!才川なら……。あっ、それとさっきの子。佐渡の女版じゃない?」

「わかる、わかる。昔、先輩が才川をいじめてた時な」

「そうそう。音を傷つけるのは許さないって、凄い怒ってさ」

「懐かしい。懐かしついでに佐渡呼ぼう」

「確かに、才川来てるのに佐渡いないのおかしいよな?」

「何か、声掛けてないって聞いたけどな」

「えっ?まじで、言ってんの」


美弥子は、嘘をついて俺をこの場所に連れてきたのか……。


「あっ、佐渡の番号聞くの忘れてたわ」

「じゃあ、才川戻ってきたら掛けてもらうか」

「だなーー」

「あれ?みんな、どうした?」

「白山。さっき、才川の元カノが来てて」


トイレに入ってきた白山に、さっきの話を説明してる羅列が並んでいく。


「昨日、美弥子ちゃんと店で話してる時に才川の姉ちゃん来てたわ」

「あの美人な姉ちゃん?」

「そうそう」

「何で、来てたの?」

「家族に内緒で、結婚式の準備してたんだよ。最後に新婦が来てくれた人に渡すお菓子をうちの店のにしてくれるって言ってくれてさ」

「それの打ち合わせ?」

「違う。結婚の話がなくなったって昨日謝りに来てくれたんだ」

「何でなくなるんだよ」

「28会の時の四谷と一緒だろ?」

「あーー、才川の子供は耳が聞こえなくなるんだろとか言ってたやつ?」

「それそれ。まあ、佐渡が違うって教えてくれたけど……」

「戻るわ!俺ら」

「うん、じゃあ」


白山の話した羅列に固まる。

俺は、何も知らなかった。

姉が、さっき、出掛けたのも……。

俺は……自分の事しか考えてなかった。

俺だけ、幸せになんかなっちゃいけないんだ。


涙を拭って、立ち上がってトイレを出る。


「あれ?才川もトイレだったんだ」

「音、大丈夫か?」

「才川、今日。喉の調子が悪いみたいなんだ」

「あれ?琴葉はどこ行ったの?」

「音、喉の調子大丈夫か?」

「佐渡、ちょっと待ってな!今、サンプル持ってくるから」

「今日、結婚式の打ち合わせだったんだ」

「それで、徹がこの会に参加出来ないから。琴葉を連れてきたんだけど、音君知らない?」


スマホを見つめながら、俺は何も話せずにいる。

琴葉を連れてきたのは、真弓ちゃん。


「音のお姉さんが、昨日来たんだ。それで、俺達……」


そうだ。

姉だ。


俺は、徹と真弓ちゃんを見ずに走り出す。

聞かなきゃ。

ちゃんと姉に……。


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