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《第二章完結》世界が静かになっても君の羅列と耳障りな雑音《ノイズ》は消えなくて  作者: 三愛 紫月
第一章 出会いと別れ

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side 琴葉

「行ってくるね、春樹」

「行ってらっしゃい。気をつけて!何かあったら、連絡して」

「うん、大丈夫。真弓と一緒だから……」

「だよな。ごめん、余計なお世話」

「ううん。じゃあ」


春樹のマンションを出て、100均で買ったイヤホンを耳にさす。

再生するのは……。

cherryの幻にしよう。

一昨日入ったばかりのサブスク。

ヒットチャートの新しい曲には、目もくれず……。

私は、音と聞いた曲を探した。

その一つがcherryの幻だ。

歌詞の中にある一文が好き。


【例え、幻でも愛し合った事実は消えやしないだろ?】


ビジュアル系バンドと呼ばれる彼等だが……。

幅広い層に愛されている。

たくさんのドラマや映画の主題歌に選ばれたり、胸を打つ歌詞が人気なのだ。


「そうそう。まじで、あいつはない」

「何かわかるわーー。そういうの」


安いイヤホンじゃ、防げない音。

仕方ないよね。

これが生きてくって事なんだから……。

音量を上げようとする私にスマホが警告する。

聞こえない世界に行けば、音は私をまた好きになってくれる?

最大音量にしようとしてやめる。

そんな事をして、音に好きになってもらったって……。

また、お義母さんが現れて『繋ぎ止めるな』と言われるだけだ。



駅について改札を抜ける。

真弓が喫茶店と言った場所は、徹君と結婚すると打ち明けてくれた場所。

幸せ絶頂の真弓に、音と別れたなんて言えない。

ホームのベンチに座って、サブスクのヒットチャートを見つめる。


第一位に選ばれていたのは、cherryの新譜。


ドクン……。

心臓が波打つのがわかる。


聞きたい……。

でも、これを聞いたら音を裏切る気がした。

だって、約束したから。

私は、音が聞けない曲は聞かないって。


「それが嫌だってわからないのかな?」

「でしょ?」


隣に座る女子高生の会話が耳に入ってきて驚いてしまう。



「だから、言ったんだよね。孝也が、健太に申し訳なく思ってるのはわかるけど。健太は、孝也にサッカー続けて欲しいんだよって」

「わかる、わかる。そもそも、健太が、サッカー出来なくなったのって孝也のせいじゃないし。健太からしたら、自分のせいで新しい事諦めようとする孝也見てるの辛いんじゃない?」

「そうなの。そう言ったんだよ!うちも……。だけど、健太に悪いからって聞かなくて」

「何それ?言っちゃ悪いけど、孝也ってまじで自分勝手だわ」

「でしょ?言ってやってよ。孝也に……。あっ、電車来た」



私は、音楽を再生せずに彼女達の話を聞いていた。


新しい事諦める……自分勝手。

彼女達の放った言葉が、耳の奥にこびりついて離れない。

私は、音の為に……新しい事を諦めた。

自分勝手な人間。


cherryの新譜を恐る恐るクリックしようとするけど、勇気が出ない。

自分のせいで新しい事を諦める私を見てるのは、音は辛かったの?


立ち上がって電車に乗る為に歩きだす。

コツコツと鳴る真っ黒なパンプス。

昔は、色んな色の靴や形の靴を履いていた。

だけど、音に覚えてて欲しくて。

壊れても同じのを買った。

靴屋さんで、何十年も形が変わっていないパンプスはないかと聞いたらフォーマルのかなと言われて渡されたパンプス。

音は、この靴を見るのも嫌だった?


電車に乗って、私はcherryの幻をリピート再生する。

新しい事を諦めたわけじゃない。

ただ、音が知らない世界に私だけ行きたくなかっただけ……。

ただ、それだけだったんだけど。

私って、自己中なのかな?


【散々、愛を誓い合ったのに……あなたは私を忘れたいと言うの♪】


本当だね。

ニール……。

ニールは、cherryのボーカル。

恋愛に全力を捧げてる彼の書く歌詞は、世代を問わず愛されている。

だから、きっと。

さっきの新譜の【melody】も愛されているのがわかる。

だけど……。

今の私は……聞けない。

ううん。

聞きたくないの。

ごめんね、ニール。


電車が最寄りの駅に着く。

私は、同じ曲を繰り返し聞いてる。


新しい世界に一人で踏み出すのは、やっぱり怖いよ……音。

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