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《第二章完結》世界が静かになっても君の羅列と耳障りな雑音《ノイズ》は消えなくて  作者: 三愛 紫月
第一章 出会いと別れ

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20/48

side 音

ネット小説運営大賞チームの方から、感想をいただきました。

すごく嬉しいです。

読んでくれている方も、少しずつ増えていてありがとうございます。

昨日は、浴びるほど飲んで眠りについた。


「頭痛い……琴葉、水……」


寝室からキッチンに向かう俺は、自分の発した言葉に驚いた。

聞こえていないけど……。

脳内でも、しっかりその言葉が再生されたからわかる。


琴葉に嘘をついて別れを切り出したのは俺なのに……。

琴葉が笑ってくれるなら、それでいい。


水道の蛇口を捻る。



「ジョーって感じ?」

「水道からコップに水を入れたらジョーっていうの?」

「そう、そう。言うんだよ」



「ハハ。そんな訳ないよ、琴葉」


あっ……。

コップで水を飲みながら、俺は脳内で再生された会話に無意識に答えてしまっていた。

今の俺、気持ち悪い。


この家には、琴葉との思い出がありすぎる。

引っ越そう。

琴葉に幸せになってもらう為にも、俺がこんなに近くにいちゃいけない。


スマホがチカチカと光ってる。


【あのさ、音。俺、結婚するんだけど。琴葉ちゃんと二人で、友人代表のスピーチしてくれない?俺と真弓の共通の知り合いって二人しかいないから頼めないかな?】



結婚する報告をさらっとメッセージで送ってくる所が徹らしい。

別れた事を徹に話していなかった事に気づいた。

でも、幸せいっぱいの徹に『別れたんだ』って言えない。

既読つけなきゃ、バレないかな。


結婚式の友人代表で、琴葉とスピーチするなんて……。

考えただけでも、あり得ない。


「やばっ……怒られる」


シンクにコップを入れて、洗面所に行く。

琴葉の物達が、全て消えてる洗面所は目を向けるだけで悲しくなる。

顔を洗って、髪を整えた。

今日は、美弥子に会う事だけを考えよう。



クローゼットを開けて、服を見渡す。

並んだ服は、琴葉との思い出を刻んだものばかりだ。



「最悪」


着るものだけでも、琴葉がついてくる。

最悪って言ったのは、泣きそうになるからだ。


「これなんだろ」


クローゼットの服の下に置かれた紙袋を取り出す。


「これでいいや」


紙袋から取り出した服は、いい思い出なんか持ってない存在だ。




「やっぱり、音は赤が似合うわ。このジーパンも素敵でしょ?」

「俺、赤色苦手だって言ったよね」

「でも、音は赤色がよく似合うよ。ほら、音だってヒーローになりたいってよく何とかレッドってやってたでしょ?」

「馬鹿にしてんの?」

「してないよ。何で、怒ってるの?20歳になった息子に服を買ってきたから怒ってるの?」

「どうして、俺の事責めんの?」

「責めるって何?」

「あの日から……あの日から赤色嫌いなのわかっててわざとだよね」

「違う。そんなつもりはない」

「自分が少し前向いたからって、こんな嫌がらせすんなよな!」




少しだけ前を向いた母さんが、俺の為に買ってきた服。

俺は、ずっと赤色が苦手だった。

警察から返ってきた、白の服には真っ赤な血がべっとりついてて。

これがなかったら、耳が聞こえなくなる事はなかったんじゃないかって嫌でも思った。


普通でいたいって思ったのに……。

普通になるという夢は、果てしなく遠い。

いや、一生叶わない夢だ。



「案外、今でも着れるもんだな」



紙袋から取り出した服に袖を通した。

あの日、琴葉の手から流れた赤を思い出す。


「いやいや。忘れろ」


鞄を持って家を出る。

前だけ見てたら、自分の服は視界に入らない。

耳が聞こえてたら……どんなによかっただろう。

実家に帰るまでの道中で、すれ違うカップルや家族連れを見ながら思っていた。

もし、俺の耳が聞こえてたら……。

琴葉……。


いや、忘れろ。

忘れろ。

俺と居たら、琴葉はずっと怯えてる。

自分の身は、自分で守らなくちゃいけないし……。

俺は、琴葉が怯える音がわからない。



「音、おかえりーー」

「待ってなくていいのに」

「何言ってんの、音が帰ってくるの嬉しくて待ってたんだから。あっ、その服懐かしいわね。まだ、似合うじゃない。やっぱり、音には赤が似合う」



母さんが叫んでるのがわかって、立ち上げたスマホのアプリ。

並んだ羅列を見つめる。

母さんが嬉しそうなのがわかる。

美弥子と一緒になって欲しいんだ。



「まだ、美弥子ちゃん来てないのよ。少しだけ遅れるって。お昼ね、お寿司かピザとろうと思うんだけど、どっちがいい?」


母さんの明るく嬉しそうな姿を見てるだけでもしんどいのに……。

スマホの画面に映る羅列もキラキラマークや笑顔の顔文字をつけて欲しいぐらい嬉しそうだ。



「ちょっと、疲れたから部屋にいる」

「美弥子ちゃん来るまで、ゆっくりしとく?」

「そうする」

「わかった。あっ、でもどっちにする?」

「お父さんと決めてよ」

「わかった」



あからさまにガッカリして母さんは、父さんの元に行く。

俺は、二階の自分の部屋に入る。



「似合わない……」


部屋に入ってスマホ画面を見つめるといつの間にか新しい羅列が浮かんでいた。


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