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《第二章完結》世界が静かになっても君の羅列と耳障りな雑音《ノイズ》は消えなくて  作者: 三愛 紫月
第一章 出会いと別れ

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side 琴葉

プルルル……


『もしもし』

「あの、南川ですが……」

『南川さん、どうしました?』

「お腹が痛くなってしまったので、このまま早退させていただこうと思いまして」

『えっ?大丈夫?食中毒とか?』

「いえ、そんなんじゃないと思います」

『あっ、女性の……。わかりました。暖かくして下さいね』

「すみません」



こういう時、課長が女性で助かる。

私の会社は、珍しく生理休暇を導入している。

だから、こうやって途中で早退しても怒られたりはしない。


早く音の顔を見て安心したかった。さっきのお義母さんの話は嘘だって確証が欲しかった。


「あれ、美味しそうじゃない」

「あーー、本当だ」


周囲の会話が入ってきて、うんざりする。

人は、身勝手な生き物。

自分が幸せな時は、誰かの幸せそうな声を聞いていても嫌じゃないのに自分が不幸な時は、その声が一瞬にして雑音ノイズに変わる。


ヘッドフォンをつけようとして、スマホがポケットから滑り落ちた。

最悪。



「大丈夫ですか?あれ、南川じゃん」

「あっ、深森ふかもり君」

「別れたから他人行儀?まあ、俺もか……。何か名字呼びって変な感じだな」

「確かに……そうかも」

「久しぶり、琴葉。元気にしてた?」

「元気だよ。春樹はるきも元気にしてた?」

「元気は、嘘だろ?何かあった?」



高校生の時に付き合っていた深森春樹は、私の表情を見るのが得意だった。



「何もないよ」

「俺でよかったら聞くよ」



春樹に嘘は通用しない。

私達は、それだけお互いの事をよく見ていた。



「じゃあ、歩きながらでもいい?電車乗るから」

「奇遇だな!俺も……」

「今日は、仕事は?」

「休み。で、木村とかに会ってて今から帰る所」

「懐かしいね。バスケ部仲間じゃん」

「そうそう」



改札を抜けて、どっち?と聞くと春樹も同じ方向だった。



「で、何でそんな顔してたの?」

「あっ……。今の彼氏のお母さんに会ってね」

「うん」

「別れてくれって言われたの」

「えぇ。何で?」

「多分、私が嫌いなんだよ」

「それでも、彼氏がいない時に言ってくるのは何か違うくないか?」

「まあね、そうなんだけどね」

「察するに、色々あるわけだな」

「もう、超能力発動しないでよ」

「ハハハ、昔からのやつ。バレた?」

「バレた」



春樹と話すとあの頃に戻れる。

周りの雑音ノイズなんて耳に入らなかったあの頃。

目に見えてる全てがキラキラしてたあの頃。



「きたきた。乗ろうか」

「うん」



それと同時に知る。

もう、その場所に戻れない事を。



「春樹は、彼女は?」

「俺?俺は、今はフリーだよ」

「そっか。自由だね」

「まあ、自由だけど。親はうるさいかな」

「結婚とか?」

「そうそう。言ってくるんだよーー。早く孫を見せてくれってさ。俺達の時代って色んな選択肢があるだろ。宮村は、ゲイだし羽村はレズだろ?中西は、人間嫌いだし」

「そうだったね。みんなバスケ部の繋がりだよね」

「そうそう。さっき会ってたから。元マネージャーの羽村は新しい彼女が出来たってはしゃいでたわ」

「羽村さん、相変わらず綺麗だった?」

「あの頃とみんな変わんないよ」

「へぇーー。そういうものか」

「琴葉だって変わらないじゃん」



春樹に言われてうんうんと頷いた。



「だけど、それは見た目の話。話したら、みんなそれなりに苦労してんだよ。宮村は、親にカミングアウトして絶縁状態だって言ってたし。俺だって、前の会社でパワハラまがいの事されてて転職したし。琴葉だってあるだろ?色々」

「確かにそうだよね。高校生あのころとは違うよね」

「そうだよ。責任がついて回る歳になったんだから」

「じゃあ、私。ここで」

「俺もここなんだけど」

「凄い偶然だね」



三駅先の最寄り駅について春樹と一緒に降りる。



「琴葉の番号、教えてよ」

「いいよ」

「今日のメンバーがさ。琴葉に会いたがってたから」

「ええ、何で?」

「マネージャーじゃないけど、マネージャーみたいな事してくれてただろ?」

「あれは、春樹と付き合ってたから」

「だからだよ。みんな、会いたいなって言ってたよ」



春樹の言葉に素直に嬉しいと思った。

あの頃、おせっかいかなって少し思ってたから……。

だけど、それが違うって知れてよかった。



「雨だな」

「本当だ」

「琴葉は、右と左どっちに行く?」

「右」

「じゃあ、傘買ってくるわ!一本でもいい?」

「相合傘?」

「嫌ならいいけど。止みそうだから、もったいないだろ?」

「確かに、もったいないね。一本でいいよ」



改札を抜けると雨が降ってきて、春樹は、コンビニに急いで行って傘を買って戻ってきた。


「じゃあ、帰ろうか」

「うん」

「コンビニで、傘買うの高いだろ?」

「確かに、高い」

「家に帰ったら、傘あるのに……。二本も買ったらもったいないと思ってさ」

「確かに、もったいないね。折り畳み傘持ってたらいいだけだよね」

「琴葉なら持ってそうなのに、あの頃鞄にいっぱい何やかんやいれてたろ?覚えてる?」

「あーー、入れてた入れてた。春樹が喉乾いた時の為の水筒、怪我した時の為の絆創膏、ユニフォームが破れた時のソーイングセット、新しいスポーツタオルに靴下」

「俺のもんばっかだな」

「当たり前じゃん。あの頃は、春樹が中心だったんだから……」



私と春樹は、笑い合う。

この時、音に見られていたなんて気づかなかった。



「今の人の為にも何か持ってあげてる?」



春樹は、私の鞄を指差した。



「仕事バックだからあるわけないじゃん」



春樹に言われて気づいた。

音を大好きだけど、あの頃みたいに音を中心にしていなかった。



「大人になると傷つく事を避けよう、避けようってするよな!それに仕事しながら恋するのって、めちゃくちゃ体力いるし疲れる」

「確かにそうだね」

「無意識のうちに、相手を中心の生活じゃなくなってるんだよな。振られた時に、すぐに立ち直らなきゃならないし」

「わかる、わかる。振られても生活があるもんね」

「そう。だから、そんだけ落ち込める恋は大事にしなよっておっさんになった俺からのアドバイス。俺、ここだから……気をつけてな」

「ありがとう。傘もアドバイスも」

「まあ、また何かあったら悩みや愚痴ならいつでも聞くから!じゃあな」

「うん、バイバイ」



私は、音を中心にしていないと思っていたのに……。

春樹は、違うと思ってくれたんだ。

ううん。

あの頃は、目に見える形でいっぱいにしてたけど……。

今は、ここがいっぱいだ。

春樹に会わなかったら、私どうなってたかな。

よかった。

あの場所に春樹が居てくれて……。

私は、大好きな音の元に急いで帰る。




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